若いって凄いんじゃない!


 安アパートのベランダ、前の住人が置いていったエアコンの室外機の唸り声は、 

一生懸命に夏の日差しの中この部屋の中を冷やしている、 

その部屋の中でゆかりは、 

お化粧をする時はエアコンを回さないと、 

汗が滲んで化粧が肌に乗らない、 

それでなくても最近は乗りが悪い、 

二十七にもなると、ちょっと出掛ける為の化粧も念入りだ、特に真夏は重武装になる、 

しかも、 

今日、会う約束をした、木嶋恭子が何か企んでいる様で、 

珍しく、 

ナチュラルメイクで来て! 

と言っていた。 

ゆかりは何も期待していないが、 

ふざけるなと言いたかった、 

真夏に薄化粧で出られる訳がない、 

日焼け止めに、汗に化粧が流されない工夫もしないといけない、 

しかし、ナチュラルメイクで!と言う時は男絡みだ、 

もう夢は見たくない、 

男には懲りた、 

この惑星から男がいなくなっても困らない、 

でも、そろそろでわ、と思いチェストの上の針表示の置き時計を見上げると九時前、 

そして案の定、 

スマホの電話の着信音がして、 

スマホの画面を覗くと恭子からの電話だ、 

ゆかりは何気ない装いで電話に出た、 

アパートの前に着いたよ、 

と恭子が言っているので返事をして、 

電話を切り、エアコンも止めて、 

夏らしい、白いブラウスにスリムな綿素材の淡い色味のパンツ姿で立ち上がり、 

古い流し台の横にある小さな玄関でベージュのパンプスを履き、 

長く使っているお気に入りの手提げのブランド物のバッグと折り畳みの日傘を持ち、 

外に出て二階の外通路から、アパートの敷地で間借り人の駐車場になっている、 

その前の道路を見下ろすと、 

恭子の軽自動車が停まっている、 

ゆかりは部屋の扉の頼りないキーシリンダーに鍵を突っ込み、回して施錠すると、 

外階段を降りて恭子の車に向かった。 

夏の日差しのせいで体温がみるみる上がってくるので日傘を広げるより早く恭子の車に乗り込もうと急いで助手席のドアに歩み寄った時、 

初めて助手席に誰か乗っていることに気が付き、 

ゆかりは覗き込んで確認すると、 

男が乗っている、しかも若い、 

窓越しに目が合うと、可愛い目をした若い男だ、 

助手席に座るその若い男はゆかりに軽く会釈した、 

ゆかりは一瞬驚いたが、会釈を返し、 

頭を切り替えて後部座席のドアを開けて乗り込んだ、 

しかし恭子が乗る車はそこそこ古い軽自動車で、 

後部座席はそれほど冷えていなかった、 

そんな事を思っていると運転席の恭子が 

「こっちは」 

とゆかりに振り返り、助手席に座る男の紹介をし始めた、 

「会社の後輩の谷原孝志君、で後ろは先輩の湯川ゆかりさん」 

と助手席の男にそう言って、 

もう一度ゆかりに振り返り微笑んだ、 

念押しの様なその微笑みにゆかりは困惑しながらも、 

「会社の後輩?」 

と恭子に問いかけた、 

恭子は体を前方に向け、 

オートマのレバーを操作しながら、 

「うん」 

と一言返しただけで、車を発進させた。 

アパート前の路地を進み大きな通りに出る為、一時停止して、恭子は安全確認をして、 

用心深そうに左折でその通りに出ると、 

走りやすい通りに出て、 

解放されたのか、 

話をし始めた、 

「彼、この春に入社して、お昼に一緒にお弁当食べる様になって、たまにドライブのお喋り相手をしてもらう様になったの」 

恭子がルームミラーで後ろのゆかりをチラ見しながら話しかけた、 

ゆかりはそのルームミラーの恭子に頷き、 

会社の後輩とは思い切った事をする、 

この春入社という事と彼の外見からして高卒の十代ではないかと思い、 

後部座席で小さくため息をついた。 

それに彼の事は説明したが、 

ゆかりの事を彼には説明しなかった、 

今後もする気はなさそうに、 

恭子は運転に集中している、 

という事はここに来る前、 

事前にゆかりの事を彼に説明してあるという事だろう、 

ゆかりがそう思うと自分の事はどんな風に説明したのか気になった、 

恭子は二十五、高校生の時は恭子が一年生でゆかりは三年生だったが、 

お互い大人になる過程でいろいろあっていろいろ知っている、 

若い彼にどんな説明をしたのか、 

顔から火が出そうだとゆかりは思った次の瞬間、体が熱くなってきて、 

「恭子、もう少し温度下げれない?」 

と苦情を伝えた、 

運転をしている恭子は車のエアコンを操作しようと運転の合間を見ていたが、 

孝志が操作パネルに手を伸ばしてエアコンの温度設定のつまみを回したり、 

冷風の吹き出し口の風向きを後部座席の方に調整し、 

「温度下げてみました」 

と言った、 

ゆかりは 

「ありがとう」 

と礼を言いながら、孝志がこの車を使い慣れている感じがして、 

思わずゆかりは、恭子にやきもちを感じてしまった。 

それに恭子の言う通り、ナチュラルメイクを好む男性が比較的多いが、 

こんな若い男の子の前に出るなら化粧は厚い目にしないと素顔は見せられない、 

とゆかりは思いながら後部座席に居て、 

孝志のシート越しの後ろ姿の空気感を見ていると、 

十代の男のガサつき感はない様だ、 

恭子も好みがあって若い男に声をかけている訳だし、 

気に入ったからドライブにも誘う訳だし、 

今日も、 

悪友とは言え、ゆかりにお披露目したのだ、 

孝志君は、 

年上の女に慣れているのかもしれない、 

そう思うと少し安心をして、 

ゆかりは恭子に問いかけた、 

「で、何処に向かってるの?」 

運転で真っ直ぐ前を向いたまま恭子は答えた、 

「泉自動車」 

恭子のこの車を買ったお店、 

中古から新車まで、乗用車から大型トラックも扱うし、 

販売だけでなく、修理工場も持っている、 

車メーカーのディーラーが忙しい時はそこの応援もしている、 

ただの中古車屋じゃない、 

ゆかりの父親がこの辺りで不動産屋をしていて、 

泉自動車の社長とも経営者仲間で、 

そう言う繋がりで、 

恭子はこの車をかなり安くで手に入れた、 

それでゆかりはもう一度問いかけた、 

「車を修理か何か?」 

すると恭子はやっと何かに気付いた様で 

「あっ!孝志君が、もう直ぐ車の免許が取れるから、車買うのに、分かるでしょ」 

ゆかりは後輩とは思えない恭子の乱暴な説明に一瞬目を閉じたが、 

気を取り直して次は孝志に問いかけた、 

「孝志君、車買うの?」 

すると孝志はわざわざゆかりに振り返り、 

そしていかにも用事をお願いして悪そうな、遠慮する様な表情をして、 

「すいません、恭子さんが、湯川さんに顔繋ぎすれば安く車、中古車が買えるって教えてくれて・・・」 

孝志はそこまで言って、話をどう締めくくればいいか言葉が出てこない様子で、最後に 

「すいません変な用事をお願いして」 

と頭を下げながら言い終えた、 

ゆかりは孝志のその、 

人たらしな表情や頭の下げ方が気に入った、 

ゆかりは孝志に自分の格好いいところを見せたくなったし、 

孝志をもっと知りたくなった。 

勿論、ゆかりは自分を安売りしない、 

しばらく静かに後部座席に座っていて、 

恭子の車を通り過ぎる景色を見ながら、 

泉自動車の中古車のお店の展示場に近付くと、 

恭子に言った、 

「中古車の店の方に直接行って」 

恭子は段取りが違うと思ったのか、

「泉自動車の本社に行かなくていいの?」 

つまり本社に行って泉自動車の社長に事情説明をしなくていいのかと思いそう尋ねた、 

すると、ゆかりは一言で恭子の疑問に答えた、 

「大丈夫」 

ゆかりの安アパートを出発してから三、四十分ほどで泉自動車の中古車を扱う店に着いた、 

店先には商品の中古車が並んでいて、 

大きなワンボックスに軽四も背の高い物が目立つ、 

恭子は自分の車を来客用の駐車場に停めると、 

ゆかりが真っ先に車を降りて、 

孝志が車を降りて出てくるのを待ち、 

孝志が降り立つと、 

「ここの店長は、ここの社長の片腕で、この車も安くして貰ったから、私に任せなさい」 

と恭子の車を視線で指差しながら言った、 

孝志は程よい笑顔をゆかりに見せて頷き、 

「よろしくお願いします」 

と返事をして、ゆかりの顔を見詰めた、 

ゆかりは口には出さなかったが、 

孝志の為なら、一肌でも二肌でも脱ぐつもりになっていた。 

中古車展示場の事務所に向かってゆかりが歩き出すと、 

孝志はその後をくっついて歩き、 


 恭子はそんな孝志とゆかりの後ろ姿を追いかけて歩きながら思った通りと感じた、 

若くていい男だ、 

おしゃれなカーゴパンツに爽やかなTシャツ姿の孝志、 

姉御肌のゆかり、 

恭子は二人の事を勝手にいろいろ想像しながら、 

二人が入った事務所に遅れて入った、 

中は清潔感のある今時の働く場所という感じで、 

事務机四つ、整然と田の字に並び、その上にはパソコンのモニターがそれぞれ並んでいて、 

壁には自動車メーカーからの整備能力の高さを讃える様な表彰状が額に入った物や、 

行政の許可状みたいなものも掛けられている、 

その手前には、仕切りの様にカウンターがありその手前に接客用の四人掛けのテーブルが六つ並んでいる、 

女性事務員がゆかりの来訪に気付き、 

「いらっしゃいませ」 

と言いながらカウンターの横を通り抜け接客のスペースまで来ると、 

ゆかりは早速と言う感じに、 

「こんにちは、榊原さん居ます?」 

多分、普通の客は店長居ます?と声を掛けると思うが、 

ゆかりは店長の名前を呼んだ、 

そう言う身近な付き合いをしているのだろう、 

そもそも中古車を買うだけなら店長を呼ばなくても事は足りるのだが、 

孝志はゆかりが店長に言えば安くしてもらえると言う事を社会原理を超えた、 

人の繋がりを凄いと感じながら、 

その女性事務員が店長を呼びに事務所を出て行った後ろ姿を見送った。 

三人は例の接客のテーブルに座り、店長を待つことにした、 

やがて店長と事務員が帰ってきて、 

店長は三人が座るテーブルまでやって来て、 

丁寧なお辞儀をして、 

そこに立ったまま、 

「湯川さんのお嬢さん、お久しぶりです」 

と親しげに挨拶をすると、 

ゆかりはにっこり笑って、 

「また、お願いがあってきました」 

恭子にはそのゆかりの声が何処かの名家のお嬢様の優雅なセリフの様に聞こえた、 

そしてゆかりは孝志が車の購入を考えている事、それと一般には内緒の価格にして欲しい事を店長に伝えて、 

「わざわざここの社長に話を通さなくても、榊原さんにお願いすれば大丈夫かなと思って」 

そう言ってから、すかさず言葉を付け足した、 

「念の為、社長に言った方が良かったですか?」 

と言うと、 

榊原は頭をかきながら、 

「いや、結局お嬢さんがうちの社長に頼めば、私にどんな指示が来るか、火を見るより明らかですから、私から社長に伝えておきますので、任せておいて下さい」 

そう言うと店長はユニホームの上着の内ポケットから名刺入れを出して、名刺を孝志に差し出すと、 

孝志は慣れない感じで両手で名刺を受け取り、 

榊原が仕事上の定型文の様に言った、 

「予算に欲しい車の車種を言ってくださればお探ししますし、在庫も多数あるので今から見ますか?」 

孝志は向かいに座るゆかりを見て、 

「免許まだだけど、セダンを欲しいと思ってます」 


 ゆかりはセダンと聞いて今時珍しいと思い、 

「まだ具体的には決まってないの?」 

と孝志に聞き返した、 

孝志は頷き、 

「はい」 

と答えると、ゆかりは榊原を見上げて、 

「榊原さん、セダンの在庫あります?」 

榊原は上目使いに考えてから、 

「ええ、数台ありますよ」 

そう言うと、ゆかりは孝志に、 

「少し見せてもらう?」 

と尋ねた、孝志はゆかりの顔を見て 

「はい、見せてもらいます」 

答えると、 

榊原が、 

「店先だけじゃなくて、ヤードの方にもあるので」 

と別の場所にも車がある様だ、 

 

 結局三人は榊原の案内で別の場所にある、 

ヤードと呼んでいる場所まで車で移動して、 

その中にあった白くて手頃な大きさ、手頃な値段のセダンを 

孝志は買うことになり再来訪する約束をして、 

榊原と別れた。 

孝志が後部座席に、ゆかりが助手席に座り 

恭子の車が走り出した、 

走り出して五分くらいたっただろうか、 

ゆかりは無口に一つの事を考えていた、 

それは恭子と孝志がどれくらいの深さの付き合いなのか? 

期待はしていない、 

ある意味、恭子の方がやんちゃなところがある、 

冒険心とか、好奇心とか、快楽主義者だ、 

肉食系女子で、孝志の様な素直な男は簡単に餌食になるだろう、若い男子だし、 

若いからきっと凄いのだろうし、 

恭子が手放さないだろうし、 

といろいろ考えを巡らせたが、 

孝志のいる前では格好悪い話を恭子にできない、 

それで今日の所はやり過ごすことにした。 

 

 数日後の週末、 

恭子は地元からJRの電車に乗り県庁所在地の都会にいた、 

すっかり陽は落ちて、 

駅近にある、 

ゆかりと待ち合わせているバーに向かって歩いていた、 

もしここで終電まで飲むことになると、 

ゆかりのあのアパートに泊まることになり、 

夜はますます長くなる、 

今日はゆかりに誘われた、 

ゆかりの用事はたぶん、孝志の事だと恭子は思っている、 

恭子も可愛い男の子だから孝志を誘ったのだが、いざ一緒に遊んでみると、 

同じ会社だし、いろいろやりにくいなと感じて呑気な事をしていると、 

そのタイミングを逃してしまい、 

友達で落ち着いてしまった、 

恭子は改めて男女の仲は難しいと感じた。 

恭子はゆかりが興味を示さないのなら無理にとも思っていないが、 

でも今日はゆかりが誘って来たのだから、 

ゆかりの出方を見るつもりだ、 

とその待ち合わせ場所のバーの前に着いた、 

雑居ビルの路面店で、 

Six BARと店名が書いてある、 

何人かのオーナーを渡り歩いた老舗のお店で、 

今のオーナーは店名の由来を知らないが、 

何となく、店の雰囲気が伝わってくる名前だ、 

恭子はその古くて風格のある扉を開けると、 

店の中は間接照明を多用した、 

いかにもと言う大人の社交場、 

ジャズか何かのBGMが適度な音量で流れていて、 

隣の会話は聞こえないが寄り添う二人の会話は邪魔しない程度、 

店の中を進むとカウンターに座っていたゆかりが気付いて恭子に手を小さく振った、 

左隣の席が空いているので、 

恭子はそこに座り、 

「ナンパ待ち?」 

と冗談を言うと、ゆかりは何かを思い出した様に、 

「仕掛けるのが生き甲斐のくせに」 

と返して、ご挨拶の二人の合言葉が一致した、 

恭子はゆかりの飲み物を見て、 

店員にソルティードッグを頼み、 

呼びつけたゆかりの出方を伺った、 

恭子の見立てでは、 

ゆかりも気を使いながら探ってくるはず、 

と思っていると、 

ゆかりが、 

「恭子、彼をまだ食べてないでしょう」 

と図星! 

恭子は驚いて、思わずこんな所で大きな声を出しそうになり、それを押さえ込んで、 

ゆかりを見て尋ねた、 

「どうしてわかるの?」 

すると、ゆかりはかけに勝った様な嬉しそうな顔をして、 

「昨日の電話からよ、孝志は渡さないわよとか釘を刺すはずなのに、言わなかったもの」 

恭子はそう言えばと言う顔をしてゆかりを見た、 

ゆかりは続けた、 

「でも、今の貴方の発言が最終確認だったわけ」 

恭子は一瞬悔しく感じたが、孝志を食べてない事が知られただけだし、 

恭子としては、ゆかりに孝志を頂戴と言わせないといけない訳だし、 

そこで恭子は残念そうに囁いた、 

「食べるタイミングを見誤ってしまってさ」 

するとゆかりがにっこりしながら、 

「へー、貴方らしくもない」 

そう言い捨てた、 

恭子は一言言いたかったが、何も言わずにいればゆかりが何か言うだろうと待つことにした。


 当然ゆかりは、恭子が言い訳か負け惜しみか何か言うと思っていたが、 

何も言わない、 

それでタイミングを見誤った理由を聞こうとしたが、 

タイミングを逃した後始末の大変さを考えると聞けなかった、 

だから、その代わりにゆかりは申し訳なさそうに恭子に呟いた、 

「言いにくいけど、孝志がただの友達なら、 

私にチャンスくれない?」 

恭子は念の為という感じに確認をしてきた、

「それって、ゆかりが孝志を口説チャンスって事?」 

ゆかりは少しずつ見えてきた、恭子の意図が、 

恭子が孝志を誘ったけど、タイミングが合わなくて、 

私が気に入れば上げてもいいと言う 

恭子の気持ちが、 

それで答えた、 

「うん、言いにくいけど、ダメ?」 

ゆかりは、恭子の気持ちが見えているが、 

野暮な事はしたくない、 

男にも女にもメンツがある、 

恭子は一旦、ニッコリ笑ってから言った、

「例えよ、例え、」 

恭子はそう念を押してから 

「キスしようとして見つめ合ったけど、至らなかった時の空虚感、分かる?」 

ゆかりには痛いくらいわかる、 

この男ならプロポーズしてくれると思っていたのに、 

それがなかった時のダサダサ感、 

でもそれは男だけが悪い訳ではない事も分かっている、 

だから女の方も己れの魅力の限界を思い知らされる嫌な瞬間、 

守りたい自尊を守れなかった瞬間、 

恭子は続けた、 

「可愛いって罪よね」 

恭子はコースターの上に置かれたグラスの淵の白く輝く塩の粒を見ながら言い訳を言った、 

ゆかりは恭子を慰めてあげたかったが、 

孝志を譲って欲しいと言う気持ちを優先した方がいいと思い、 

「孝志を譲って」 

 

 恭子はゆかりのその申し出を待っていたのだが、 

少し悔しい気持ちもある、 

恭子はゆかりのいつになく優しい眼差しで見つめる瞳を見て思った、 

ゆかりの頭の中は孝志の事で一杯なんだろうな、 

それに私のしくじりを参考にして上手くやっちゃうのだろうな、 

と思い、 

「悔しいけど、ゆかりに上げる」 

ゆかりは一瞬嬉しそうな顔をした、 

恭子はそのゆかりの笑顔と目が合い、

ゆかりは気を取り直した様に、

「ごめんね、嬉しそうな顔をするのはまだ早かったね」 

そう言って続けた、 

「近い内に孝志君に会わせてくれる、自分で口説くから」 

そう言ってゆかりは恭子から視線を逸らした。