数日後の夜、 

早乙女はタクシーの後部座席、 

都内を自宅に向かっていた、 

ふと肩越しの車窓を見て、 

まさかこの摩天楼を全壊させようとは思っていない、 

早乙女家は戦後復興の中、 

多くの官僚を輩出してきた、 

とお祖父様も、叔父様も言っていたが、 

その実態は、 

ただの成金趣味で金に群がるお金の亡者を相手にして、 

言う事を聞かせているだけの、 

資本主義のゴミだめの様な家、 

早乙女は膝に置いた右手をグイッと握り、 

あんな家、私が蹴飛ばしてひっくり返してやる、 

どうせ、ゴミしか出てこない、 

風に吹かれて消し飛べばいい、 

差別を無くそうだって、 

私の家の中に学歴差別があるじゃない! 

笑わせるな! 

人権を守ろうだって、 

誰が誰の人権を守る? 

自分を守るので精一杯で他人のことまで、 

誰がかまってくれる、 

私は、私のやり方で、自分を守ってやる、 

父上、母上、私を産んだ事、思い出して下さい、 

そして、後悔してください、 

じゃないと恨んだ甲斐がない、 

早乙女はいつのまにか呼吸が荒くなっていて、 

膝の右の拳を見て、 

痙攣するその怒りの様子を愛おしく見つめて、 

もう少しよ、もう少しで解き放たれるわ、 

するとスマホが鳴った、 

痙攣する右手をやっとの思いで開くと右の座席に置いた、 

トートバッグからスマホを取り出すと、 

珍しい、兄からだ、 

早乙女は一呼吸して、 

落ち着かせてから、 

「もしもし」 

と出てみると、兄は自分からかけておいて沈黙している、 

早乙女も沈黙、 

そして考えがまとまったのか兄は話しを始めた、 

「タクシーで帰宅中か?」 

早乙女は時間的にそれはそうでしょうと思い、 

「そうです」 

兄は当時、浪人してでも東京東都大学に行けと言ってくれた、 

そんなに優しい兄ではなかったが、 

あれが私の人生の中の、兄の最大の優しい言葉だったのかも知れない、 

でも、素直にそれを聞けなかった、 

「順調か?」 

心配してくれるとはありがたい、 

「順調よ」 

すると再び沈黙があり、 

早乙女は要件は何、と催促してみようかと思っていると、 

「小学生の時、私がお前の夏休みの宿題、手伝ったの、覚えているか?」 

小百合は覚えていた、 

何を言いたいのだろうと考えて返事をするのを忘れてしまったが、 

兄は続けて話しをし始めた、 

「私も不器用な男で、お前にそんなことしかできない兄だった」 

そう、出来のいい兄と出来の悪い妹だった、 

「もっと普通に兄妹喧嘩をしたり、オヤツを分け合ったりしたかったと思う時がある」 

小百合はますます変だと感じた、 

そして兄は、 

「私の隠していた気持ちを覚えていてくれ」 

そう言って、 

兄はお休みと言うので、 

「おやすみなさい」 

と早乙女が返事をすると電話が切れた、 

何だったんだ? 

今の電話は、 

 

 ネットのニュースで、 

鬼ヶ島の生活環境改善工事が終わった事を知り、 

太一は正雄とジェットスキーで鬼ヶ島にやって来た、 

再びここに来れるとは、太一自身思っていなかった、 

鬼達を守りたい、 

そう言う気持ちしか無い、 

食い物には困っていないはずだが、 

入江付近で魚釣りをしているペタが居る、 

太一は思い出した、ツノが食い物を独占した時、ここで見かけたペタだ、

今日も釣りをしている、

太一は物静かなその鬼のペタに声をかけてみた、 

「僕は太一だ、君の名前は?」 

彼はためらいながら、 

「サジ、です」 

と打ち寄せる波の音に負けそうなくらい小さな声で答えた、 

それで太一はもう一歩彼に近付き、 

優しく尋ねた、 

「魚が好きか?」 

彼はチラリと太一を見て、再び糸の先に目をやり、 

「引っ張り合いっこするのが面白い」 

太一はそれを聞いて、 

彼は釣りの醍醐味を知っている、 

「邪魔をしたな」 

と別れの挨拶をして、 

砂浜から、ペタ村に上がる道を進む、 

長く来ていなかった友人の住む街に来た様な懐かしさ、 

思い出が蘇る、 

年甲斐もなくドキドキしてしまう、 

その友人達はどんな顔で出迎えてくれるだろうか、 

ドキドキと言うのは、 

予想通りなのか予想を下回る不安が原因の様だ、 

小道を歩いていると、 

ついにペタ村の中の見た事のない小屋が建っているのが見え始めた、 

様変わりしている、 

改めて日本と言う国は、 

金持ちな国だと思った、 

ペタ村に入ると、 

真新しい、建物が直線的に、 

モデルハウスの展示場の様にきちんと並んでいる、 

こう言っては何だが、屋根は勿論、壁に囲まれたカーポートのような、こぢんまりとしたものが並んでいる、 

民間団体が建てた掘建小屋とは違う、 

太一達に気がついたペタが数名こちらに向かって歩いてくる、 

太一は安心し嬉しく思った、 

知らないふりをされたらどうしようと、少し思っていたから、 

見覚えのある鬼達が笑顔で歩いてくる、 

お世話をした甲斐がある、 

この間まで腐っていた自分を恥ずかしく思い、 

涙が出そうだ、 

程よい距離まで来たので、 

太一も歩み寄る、 

そして、 

「みんな元気だったか?」 

いかん! 

やばい、 

年を取るとどうして涙腺が緩くなるのだろう、 

鬼達が滲んで見える、 

恥ずかし気もなく、勝手に涙が頬をつたう、 

その涙を拭うのが恥ずかしい、 

するとどうだ、 

その鬼達の中の少し年をめしたオヤジの鬼が、 

もらい泣きをしているじゃないか、 

太一の異変に気付いたのか真中君が 

「みんなに会いたかった!」 

若い彼に助けられた、 

真中君は太一の先に歩み出て、鬼達に、 

「いいのを建ててもらったね!」 

と会話を始めた、 

太一は正雄の背後でそっと頬を拭う、 

 

 太一の気分が落ち着いた頃、 

シトが現れた、 

太一はシトに、 

「鬼だけで知らない人間を相手にして、大変だっただろう?」 

太一は自分が不安で心配しかできなかったから、 

そう尋ねると、 

シトは、 

「ああ、人間にもいろんなのがいるんだなと、思ったよ」 

太一は、 

もう二度と会えないかも知れないと言う不安、 

もう何も手助けをしてあげられないと言う無力感、 

自分を責めてばかりいた、 

もう二度とそんな目には会いたくないと思い、 

シトに問いかけた、 

「シト、君が渡りたいと言っている本土は何処だ?」 

するとシトは今更、何だ? 

と言う顔をして、 

おもむろに、腕を水平に上げて、 

概ね対岸の方を指差した、 

「あの対岸だ」 

太一は知っていたが、やっぱりと思い、 

「首布達はトウキョウと言っていただろう?」 

するとシトは、 

少し考える様な顔をしている、 

太一はほら見ろ、と自分に呟いた、 

鬼達は、自分達が何処に連れて行かれるか分かっていない、 

「シト、みんなを集めてくれ」 

 

 ツノの鬼達が、 

鬼衛集を出迎える様式にこだわっている様で、 

太一はツノ村に行くと、 

当然ツノ村も小屋が新しくなっていて、 

古着のプレハブ小屋も立派な倉庫に建て替えられていた、 

そして、 

以前と同じ様にツノ達が整列している、 

ペタ達は、整列したツノ達の背後や、 

ツノと太一達の邪魔をしない脇の方に立ち、 

ツノと鬼衛集の儀式を眺めている、 

太一と正雄はツノ達の前に立ち、 

「首布達は、ちゃんと鬼の面倒を見てくれているか?」 

と尋ねると、 

オミが、 

「ああ、最近大人しい、移住の話しをしにこない」 

太一は答えた、 

「東京に移住先の建物を作っているが、まだ完成していないんだ、誰か東京を知っている鬼はいるか?」 

太一は彼らが知っているはずが無いが、 

尋ねた、 

鬼同士、 

隣同士で、 

知っているか?知らないよな、 

と言い合っている、 

そこで太一は、 

「すまん、鬼ヶ島に居れば、東京なんか知らなくていいと思って、そんな事俺もみんなに話した事がない」 

そう言って、 

「東京は、人間の俺でも遠すぎて、そんな簡単に行ける場所じゃない」 

鬼達は、ざわついた、 

対岸じゃないのか?と問いかけてくる鬼もいた、 

するとオミが、 

「首布、あいつら頼りない奴らだな」 

と怒り始めた、 

そして太一は、 

ツノ達の背後に居るシトとキトを見て、 

「人間の偉いさんに会って、東京に鬼を連れて行くのを考え直す様に言ってくる、みんなも首布が来ても、首布について行っちゃだめだぞ」 

そう言って、 

「本土に渡りたい者が対岸に渡れる様に、話を付けてくる、だから俺を待っていてくれ」 

シトもキトもその他の鬼達も頷いた、 

 

 数日後の東京、 

厚生労働省の庁舎、 

厳しい顔つきで黒っぽい背広の男達が何十人も玄関を入ってゆく、 

彼らは鬼ヶ島対策室のフロアーに入ると、 

先頭に居た男が、 

室内の職員に、 

「早乙女小百合さんは何処に居ますか?」 

どう見ても警察か公安の強制捜査にしか見えない、 

 

騒ぎに気付いた早乙女は、 

自らその男達の前に出て、 

「私が早乙女小百合です」 

と名乗ると、 

背広で短髪の不細工だが清潔感のある男が、 

愛想も挨拶もなく、 

ぶっきらぼうに不愉快な目で早乙女を見て、 

「そちらにも都合があるでしょう、そう思いまして、任意同行をお願いします、でも逮捕状が必要なら、明日にでも出直しますが?」 

早乙女は数日前の兄の電話を思い出した、 

あれは今生の別れの挨拶だったのかと今知って、 

恨み節の一つでも浴びせておけばよかったと思い、 

もう少しだったのにと心の中で呟き、 

振り返り部下達に、 

「直ぐに帰ってきます、仕事を続けてください」 

そう言って自ら外に向かって歩き始めた、 

 

 数日後、 

太一と持田は新幹線で東京に着き、 

その足で厚生労働省に向かった、 

持田が以前から、 

鬼ヶ島対策室とコンタクトを取ろうとしてくれていて、 

やっと願いが叶ったが、 

ネットのニュースだけではよく分からないが、 

例の早乙女小百合が事情聴取に黙秘を続けているらしい、 

太一は、 

葛城水間のひ孫の話の件が表面化したのだろう、 

それに、 

ネット上での噂で、 

東京の鬼の保護施設も政治家の汚職まみれと言う話も、 

動き始めるのかもしれない、 

 

 厚労省の建物の受付の前、 

担当者が受付まで迎えに来ると言うので立って待っている、 

駅の中の様にひっきりなしに職員か外来者か知らないが行き交っている、 

すると受付の女性職員と話しをしていた背広の男が、 

こっちに振り向き、 

太一達の方へ歩いてきて、 

「面会の持田さんですか?」 

と尋ねてきた、 

持田がそうですと答えると、彼は、 

「私は鬼対策室の長友直哉です」 

四十前後のその男は、 

持田にビジター用のパスを渡して、 

「初めまして」 

と爽やかに言った、 

持田も挨拶をして、 

太一も、 

「私は田村太一と言います」 

長友は太一を見つめて、 

「鬼衛集の長をしているんですよね?」 

と尋ねてくる、 

太一は頷き、 

「はい、鬼の面倒を見ています」 

と答えると、 

長友は頷き、 

「では、お話をお伺いしますので、ついて来て下さい」 

と建物の奥へ歩き始めた、 

エレベーターに乗り、 

上層階で降りる、 

鬼対策室の前まで来ると、 

段ボール箱を持った職員が二人続けて出てきた、 

対策室の中は、 

引っ越しの様な有様、 

長友はチラリと太一達を見て、 

「すいません、散らかっていて」 

そう言って、 

コードが垂れて、ディスプレーに引っかかっているパソコンが置かれたデスク、 

無造作に置かれて、蓋が半開きの段ボール箱が放置された机、 

そんな中を歩き、 

個室に通された、 

テーブルに椅子が四つ、 

そんなに広くない部屋、 

見た感じ休憩室の様だ、 

長友はここで待っていてくださいと、 

ドアを閉めて何処かに行った、 

持田が、 

「何だろうな?上司が逮捕されて、鬼対策室が解体されたのかな?」 

太一は鬼ヶ島の現状を考えると、 

国の支援が打ち切られると、 

いろいろ困ると思い、 

「鬼ヶ島、やりっぱなしで、ほったらかしになるのかな?」 

すると持田は、 

「ほったらかしはないだろう、流石に」 

と二人で心配していると、 

ドアをノックする音がして、 

ペットボトルを手に持ち、脇にもペットボトルを挟んで、三人分のお茶のペットボトルを持った、 

長友が戻って来て、 

ペットボトルをテーブルに置き、 

太一達の向かいの椅子に座ると、 

「行き場のないお茶です、遠慮なく飲んでください」 

役所に来てこれは、大歓迎されている部類だと、 

太一は思い、 

「じゃ、遠慮なく」 

と言って、 

一口飲んだ、 

 

 程よいタイミングで長友が、 

「田村さんはシトと言う鬼をご存知ですか?」 

太一は驚いた様な顔をして長友を見つめる、 

「シトと話したのですか?」 

田村はそう尋ねて来たので、 

「シトさんに、貴方を紹介されました」 

長友はあの日のシトとの問答を思い出し微笑み答えた、 

「紹介?」 

と田村が尋ねて来た、 

長友は沢山聞きたい事があった、 

それでまず、 

「どうして差別と言う言葉を、鬼達に教えないのですか?」 

田村は、不思議そうな顔をしたが 

ゆっくり答えた、 

「彼らも人間と同じ動物で差別的発言、差別的な行動はします、でも差別をしてはいけないと言う文化は根付きません」 

すると隣の持田が何故か微笑んだので、 

長友は持田に目線を移すと彼は、 

しまった!と言う顔をして、 

浅いお辞儀をして、そのまま顔を伏せた、 

長友は鬼も人間と同じように差別をするのなら何故?と思い 

「なら、どうして差別をしてはいけないものと教えないのですか?」 

すると田村は何の躊躇もなく答えた、 

「差別をなくそうと言う運動に何のメリットも無いからです」 

長友はその言葉も田村の態度も信じられなかった、 

すると持田が田村に、 

「太一、今日は俺たち鬼の事でお願いがあってここに来たんだぞ、分かっているか?」 

とまるで田村に自重を促す様な事を言った、 

それで長友は、 

「上申書の件は鬼保護法の中に明記されていて、 

鬼に対する修学にその後の就労支援その他の生活支援は大丈夫です、私の今の質問は単なる興味です」 

そう言うと持田が、 

「では、鬼達は東京ではなく、鬼ヶ島の対岸に移住したい様なのですが、その件はどうなりますか?」 

長友は今はまだ口に出したくなかったが、 

答えた、 

「多分、東京への移住はないと思います」 

お台場のあの牢獄の建設も途中で工事が止まっているし、厚労省の中はとんでもない事になっている、 

すると持田が、 

「そうですか、分かりました」 

と言って椅子に深く座り、 

背もたれに背中を預けて、 

傍観を決め込んだ、 

長友は改めて、 

太一に問いかけた、 

「でも、差別を受けている鬼がいるんでしょう?」 

すると、 

「個人差、個体差がある以上、人間でも鬼でも何らかの優劣はあります、だから人間は自分の良い部分を伸ばす努力のモチベーションを上げる、 

鬼も同じです、それよりも差別をなくそうと叫ぶ事に鬼の社会では何のメリットもないのです」 

長友は繰り返した、 

「いえ、だから差別を無くさなきゃ」 

すると田村は少し表情を柔らかくして、 

「鬼ヶ島では、差別をなくす運動に補助金や公金が出ないので、鬼は誰もそんな事しません」 

長友は驚いたし、日本社会を全否定した様なその言葉に絶句した、 

シトと言う鬼にしろ、 

その鬼の面倒を見ている鬼衛集の長の田村と言う男も、 

長友は勝てないと思い、全く声が出ない、 

すると持田が、 

「あの、ちょっといいですか?」 

長友は打ちのめされて、まだ何かあるのかと思って持田を見た、 

すると持田は優しい目で長友を見つめてくる、 

「鬼達は同胞で、個人財産もありませんし、学歴もありません、背が高いとか低いとか、肌の色が薄いとか濃いとか、重いものが持てるとか、魚を釣るのが上手いとか、その程度の物で、私からすれば、鬼ヶ島に差別があるとは思えない」 

そう言って、 

持田は慈悲に満ちた優しい顔を見せて、 

「だから、そう言う事です」 

長友はまるでお金のために反差別活動がある様な言い方を田村がしたのが信じられなくて、 

「田村さん、もし貴方の目の前に差別をされて困っている人がいても、見て見ぬふりをするのですか?」 

田村は全く表情を変えずに冷静なままで答えた、 

「ちょっとかっこいい言い方になりますが、私が何かと戦う時は、自分のプライドのためで、公金、補助金なんかのためじゃない」 

長友は反論しようと、 

息を吸い込んだ時、 

持田が背もたれから背を起こし、口を挟んできた、 

「長友さん、考えてみてください、国の支援も受けず、地元の人たちに呼びかけて、ボランティアで何世代も世襲で、鬼達の面倒を見てきたのですよ、鬼衛集は、それを認めて下さい」 

長友はそうだ、そうだった、 

と自分に呟き、 

愚問だった、 

田村を黙らせてやっつけようとした、 

稚拙な質問だった、 

それで、 

「じゃ、この国の政策は間違いという事ですか?」 

すると田村が、 

「いいえ、私は貴方の質問に答えただけで、この国を批判した訳ではありません、鬼ヶ島に立派な物を作ってくれて、日本は素晴らしい国だと思っています」 

長友はどうしてこんなに自分はむきになっているのかが分からなくて、もうやめようと思い、

「田村さん、貴方ってすごい人ですね」 

と本心からそう言うと、 

田村は答えた、 

「私が凄いんじゃない、鬼達と付き合うといろんな事を学ばせてくれる」 

そう言うと、 

隣の持田が納得した様に、 

勧善懲悪ものの映画がバッチリ決まって終わって満足した様な笑みを浮かべた、 

 

 数ヶ月後、 

あの漁港の外の鬼と人間の絆館、 

一旦、空き家になったが、 

毎朝、鬼ヶ島から、 

本土に渡りたい鬼達が船で渡って来て、 

人間社会で生活をするための修学する場所に転用されている、 

お昼過ぎ、 

鬼達が建物から出て来て、 

鬼ヶ島に戻る船がとまっている漁港に向かう、 

大人子供三十人くらいの鬼達、

その中には、ワチ親子の姿にオジとラトの姿もある、

ひらがなやカタカナに漢字の話に、足し算引き算の話をしながら、

困った顔や楽しそうに話をする笑顔、

漁港に向かって歩いている、 

目の前の鬼ヶ島を見ながら育った漁港関係者がその鬼に声をかける様子もある。

キトは、鬼と人間の絆館の玄関先に立ち、 

その看板を見上げていて、 

母親のミアはキトの背後に立ち一緒に看板を見つめている、 

シトは二人が何をしているのだろうと二人を見る、 

するとキトが、 

父を見上げて、看板を指差し、 

「鬼と人で、キトって読めるんだって」 

シトはキトに、 

「文字って不思議だな」 

と呟くと、 

キトはミアの手を取り、 

そしてシトの手も取り、 

親子で漁港へと歩き始めた。 

 

終わり。