数日後の田村運送の事務所、 

鬼衛集の執行部の数名と正雄もいる、 

太一は自分のいつもの席に座り、 

机が並ぶ向こうに座る正雄に、 

「修善の下見でツノの村に入った時、祭殿があっただろう、祠みたいな」 

正雄は覚えていた様で頷き返事を太一に返した、 /

「はい、古そうなのがありましたね」 

太一はゆっくりと説明し始めた、 

「あの祭殿は、江戸時代くらいに新調した物らしいが、初代は鬼衛集発足当時に作って、あの場所にお祭りをしたんだ」 

太一は正雄が頷いたので、説明を続けた、 

「鬼のペタ達を少しでも人間らしくしようと思って、祭殿を建立したんだ」 

正雄は相槌の様に頷いた、 

それで太一は、念の為と言う感じに、 

「真中君は、分かるかな?人間らしさと祭殿と言うか宗教の関係を」 

そう言って太一は、 

「私は無宗教な人間だから、特定の宗教を指して言っているわけじゃないよ」 

そう言って、 

「動物に無い、人間の特徴、それは明日に望みを託す事だと思ってる」 

正雄は話しの行方を見守る様な表情を太一に見せる、 

「動物は腹が減ると狩をして、腹がいっぱいになると消化するまで休む、そしてまた腹が減れば狩をする」 

太一は息をついで、 

「でも人間は腹が減るのを知っているから、食料の確保をする為に、田畑に穀物を植えて育てたり、家畜を飼ったり」 

正雄は相槌を打った、 

「人間はそうやって文明を育ててきた、明日がまた来る事を知っているから、だから鬼達にも明日がまた来る事や、冬でも次は春になる事を信じさせる為に信仰が必要になる、信じる事を学ばせる為に祭殿を作ったんだ」 

太一は息をついで続けた、 

「動物は胃袋の命令で動き、人間は明日がまた来る事を信じて生きる、そう言う違いがあるんだ」 

太一は一瞬、間を置いて、 

「だから俺は鬼達を信じたい」 

すると正雄が、 

「田村さんは鬼が本土に来る事をいいと思っているのですか?」  

太一は少し微笑んで、 

「法律でそう決まってしまったからな、俺達の手から離れてしまった」 

と言うと、正雄は心配そうな表情で、 

「鬼達、人間社会に慣れますか?」 

と問いかけてきたので、太一はあっさりと答えた、 

「それは私にも分からない」 

事務所の中は沈黙、 

すると太一の向かいに座るおじさんが、 

「俺たちは民間団体でどうにかこうにかやってきたが、鬼からすれば国に面倒をみてもらったほうが待遇がいいかもしれないしな」 

太一はその通りと思い、 

「鬼を受け入れる人間の方も鬼に慣れないといけないと思うけど、真中君はどう思う?」 

正雄はそう問われて考えている様な表情、 

そして、 

「鬼も人間も相手に慣れないといけないと言う訳ですか?」 

太一は頷いた、 

そして再び沈黙したので、 

太一は語り始めた、 

「お互い様と言う言葉を日本人に一から教えないといけない」 

太一はこの言葉を日本人は忘れてしまったんじゃないかと思う時が、 

多々あると思って言った、 

そして続けた、 

「例えば、車を走らせる時、人によってはゆっくり、でも人によってはスピード狂もいる、でもそれじゃ公共的に良くないから、制限速度を決める、法律と言うのは個人の為の物ではなく公共の為にあるはず、でも差別となるとこの公共の為と言うのが無視される傾向にある」 

太一は正雄が納得したように相槌を打ったのを見て、 

続けた、 

「私が思うに、有史以前のもっと昔から、地球上に生命が誕生して、生存競争が始まった時から差別と言うものはあったと思ってる、それを弱肉強食と呼べば分かりやすいかな?」 

太一はそう正雄に問いかけると、 

正雄は頷いた、 

「弱肉強食の差別は生き物共通の行動基準と言っていいと思ってる、肉食動物が狩をする時、弱い個体を狙うのも差別なら食物連鎖は差別の連鎖と言っていい」 

正雄は頷いた、 

「ただそう言うのを差別とは呼ばないのは私も知っている」 

太一はそう言って、 

「差別とは、人類史を見れば分かるように、知性ある人間が動物の様な事をした時に使う言葉だ」 

正雄は何かに気付いた様な表情を見せたので、 

太一は問いかけた、 

「真中君は差別をどう思う?」 

正雄は自信なさ気に言った、 

「差別をしてはいけないものと言うのは分かっているけど、心の闇の中にあって消せない様な気がしているんです」 

太一は正雄の優しさを見た様な気がして、 

「そうだね、分かるよ、自己否定をしてしまうのだろう?」 

正雄は深く頷いた、 

太一は続けた、 

「確かに人類は罪深い事をしてきた」 

そう言って太一は浅いため息をついて、 

「私ね、コーヒーが好きでね、インターネットでコーヒー豆の歴史を検索した事があるんだ」太一は息をついで、続けた、 

「コーヒー豆が世界中に広まった影には他国を武力で征服したり奴隷労働の歴史があると知って驚いたことがある」 

そう言って、 

太一は思い出しながら続けた、 

「当時、ブラジルで奴隷が栽培したコーヒー豆をアメリカの奴隷を解放する為に南北戦争を戦っていた兵士達がそのコーヒーを飲んでいた」 

太一は正雄の表情を観察する様に見て、 

「矛盾の様な皮肉の様な気持ちにならないか?」 

正雄はそう問われて賛同する様に頷いた、 

太一は大きなため息をついて、 

「法治国家では差別のほとんどを法律で裁く事が出来る時代になった、先進国では人身売買や奴隷的な労働を禁止しているからね、すると何故だか違う差別が台頭して来た、出身地差別とか自尊心棄損差別とか、当たり屋の様な差別とか」 

太一はここからが難しい分かりにくい話になると思いながら、 

「国に差別と認定してもらって、国のお墨付きで差別を受けた賠償を国にしてもらうと言う差別の解決方法が出て来た」 

そう言って太一は皮肉な笑みを浮かべて、 

「最近ネットでよく見かけるよね、なんとかビジネスって言うやつ」 

正雄は納得した様に頷いた、 

太一はゆっくりと語った、 

「法律の内訳を見れば分かる」 

そう言って太一は浅いため息をついて続けた、 

「省庁の中に差別の数だけ、その差別の対策室が設けられていて、対策室の傘下には天下り組織が作られている」 

太一はわざと沈黙して、質問が出ないか確認をして、 

質問がないので続けた、 

「役人や政治家が作り出した方法で、どうしてそんな事が出来るかと言えば、長年に渡る盲目的な差別教育の賜物だと私は思っている」 

そう言って太一は正雄に、 

「真中君、君の公平平等を求める気持ちを利用して拝金主義者達がのさばっているんだ」