キトは芋汁をいつもの入れ物に配給して貰おうと列に並んでいると、 

いつも芋汁を作っていて、 

ツノの村に運んでいるペタのおじさん二人が息を切らせて走って来たのを何やってるのかなと思って見ていると、 

他のペタのおじさん達が集まってきて、 

誰かが走ってきたおじさんに、 

「どうだった?」 

と尋ねると、 

「食ってた、いい匂いがしてた、自分達だけで食ってた」 

と息を切らせてそう言った声が聞こえた、 

キトは何があったんだろうと様子を見ていると、 

「朝のあの段ボールの箱の中身やっぱり食い物だったみたいだ」 

そんな話し声が聞こえてきた、 

すると他にもペタのおじさんやおばさんも集まってきて、 

「人間に貰った食い物をツノだけで食ってた」 

とか、 

「自分達だけってずるいじゃないか!」 

とかそんな話し声が聞こえて来た、 

「凄くいい匂いがしてた、勝手に口の中につばが湧いて来たよ」 

そんな話し声も聞こえた 

すると誰かが、 

「あいつら日頃何にもしないくせに何だよ!」 

とツノの村まで聞こえそうな大きな声で怒鳴り、 

キトはその声に驚いた、 

そして芋汁の配給の番がキトに回って来たので、 

キトは芋汁を入れてもらい、 

それを大事そうに両手で持ってゆっくり歩き始めた、 

おじさんやおばさんはまだツノ達に対する不満を言い合ってる、 

キトは大人達の哀れな声や、 

またツノがずるい事をした話しを聞いて、 

悲しくなって来て、 

その悲しい気持ちを抑えながら、 

芋汁をこぼさない様にゆっくり歩いた、 

そして、 

自分の小屋に入り、 

土間に上がり座ると母親のミアがキトに、 

「何かあったの?」 

キトは聞いた話しの整理もつかないまま、 

涙が溢れてしまった、 

すると母親のミアは、 

「キト!泣くんじゃありません、泣いたら負けです、きっとお父さんも同じことを言うはずです」 

それでもキトは涙が溢れてくる、 

だから、 

「ツノがまたずるいことをしたみたいなんだ」 

母親のミアはキトに身を乗り出して、 

指先でキトの頬の涙を拭いて、 

「あなたが水やりに行っている間に人間が来て、食べ物をツノ達にあげたらしい、お母さんも聞きました、でもね私達本土に行けるかもしれないのよ」 

キトは涙を流しながら気持ちが変わり、 

表情にもそれが出て、 

母親を見つめて言った、 

「どう言う事?」 

母親のミアはにっこり微笑みキトを優しく見つめて、 

「驚かしてやろうと思って待ってたのよ」 

そう言って、 

「朝から見たことのない人間が来たらしいわ、その人間は首から布を垂らした服を着ていたそうよ」 

そう言って母親は再びキトの頬の涙を拭って、 

「ツノ達が貰った食べ物の入った段ボール箱を運ぶ為にお父さんや他のおじさん達が呼ばれて、行ったらその人間が本土に行きたいでしょうって尋ねてきたらしいの、ペタのお父さん達にも尋ねて来たのよ、だからキト」 

母親のミアは少し興奮気味にそう言って、 

「本土に行きましょう、お父さんは三人で本土に行きたいって言ってたわ」 

するとキトは信じられない様な事を母親から聞いて、 

母親が言う事だから嘘では無いはずと思うと、 

悲しい気持ちがどこかに消えて、 

対岸の砂粒の様に小さく見えるそこに、 

気持ちだけが飛んでゆき、 

自分がそこに立っている様子を思い浮かべて、 

「本土に行けるの?」 

と母親に尋ねると、 

再び涙が溢れてきた、 

「首に布を垂らした服を着た人間を信じましょう」 

キトは正雄を思い出した、 

優しそうな人間だった、 

「マサオに会いたい」 

そう呟くとミアは、 

「毎日一生懸命に生きましょう、絶対会えるわ」 

そう言って再び母親はキトの頬の涙を拭った。 

 

 午後、ペタの村ではツノの村に置いてきた鍋を誰が取りに行くかでペタ同士もめていた、 

お昼に鍋を持って行った二人は怖くて行きたくないと言っている、 

ある者は人間にもらった食べ物があるのだから、 

もう芋汁なんかいらないんじゃないのとか、 

言って、 

とにかく誰もツノの村に行きたがらないでいる、 

キトの父親のシトは 

ツノ達に聞きたい事がある、 

それで、 

「みんなも、もう知っていると思うけど、本土に行きたいやつはいるのか?」 

するとシトと同じ様に子供がいる、 

ワチが尋ねてきた、 

「シトは行きたいのか」 

ワチは幼馴染、 

シトは言った、 

「ああ、キトにあっちの世界を見せてやりたい」 

ワチはこう言ってはなんだが気の弱い男で、 

一人娘を大事にしている、 

ワチは少し俯いて、何か考えている様な表情、数年前、ワチの連れ合いがもう少しでツノの餌食になるところだった、 

シトはそれを思い、 

「こんな場所に娘を置いておいていいのか?」 

流石にワチはシトを見上げた、 

そしてシトはみんなに向き直り言った、 

「今日来た人間は、俺たちペタに向かって君たちも本土に行きたいだろうと問いかけた、 

希望はある!」 

すると一人のペタのオヤジが、 

「でもシト・・・」 

と頼りない顔を見せた、 

だからシトは、 

「みんな考えてくれ、芋汁を炊くための古着は、ツノに抑えられてる、人間が食べ物を運んでくるようになれば、俺たちは用済みになるんだぞ!」 

そして、 

「女だけを拐って、あいつらだけ本土に行かせていいのか!」 

するとワチが、 

「じゃどうするんだ?」 

シトはワチを見て、 

「人間は一人でも多くの鬼を連れて行きたいと言っていた、オジは俺に任せろと言っていた、だから俺はオジと話しがしたい」 

すると一人のペタが、 

「オジかー」 

と呆れる様に言って、 

「あいつも子供の頃から信用できない勝手な奴だった」 

シトはそうとも、と思い、 

「ツノに呼ばれる奴って、自分の事しか考えない自分勝手な奴が、ツノになると思わないか?」 

すると、違うペタが、 

「そうだな、そう言われれば」 

すると一人のペタがシトに近寄ってきて目の前に立つと、 

「何か考えがあるのか?」 

と尋ねてきた、 

「オジは柄にもなく人間と約束をしていた」 

そう言うと数人のペタがシトの元に集まって来た、 

その内の一人が、 

「約束を、どうするんだ?」 

シトはあっさりと言った、 

「オジに人間との約束を守らせるんだよ」 

するとまた数名のペタがシトの元に集まって来て、 

「どう言う事だ?」 

シトは説明した、 

「もしペタが全員居なくなってたら、人間は変だと思うだろう、ペタが少しでも生き残れば、その生き残ったペタが人間に一部始終を言えば、オジが嘘をついた事がバレる、一人でもペタを殺せば、人間に嘘をついた事になる、勿論、後は人間次第だが」 

また数名のペタがシトの元に集まり、 

「約束を守らせるのか?」 

シトはみんなに目線を配って、 

「オジに今の話しをして、首から布を垂らした人間に嘘をつかない方がいいんじゃないかと脅すんだよ」 

人集りの中の女のペタが、 

「ペタがツノを脅すのか?」 

シトは言った、 

「オジが今の話しをどう受け取るか分からない、人間もどう出るか分からない、でもこのままだと、俺たちはどうなる?」 

シトはペタ村の大人達全員を見渡して言った 

「生き延びよう、そして全員で本土に行こう、今までも頑張って来たじゃないか!」 

俯いて躊躇するペタも居るが、 

シトを真っ直ぐ見て、希望を信じようとするペタも居る、 

シトは 

「桃太郎もツノを成敗しないといけなかったかもしれないが、ペタを助ける人間も居る、信じようペタを助けたい人間も居ることを」 

 

 シトはワチと二人でツノ村の入り口に立った、 

ここからは見えないがすぐそばの後方には三十人ほどのペタが援護について来ている、 

シトはワチに 

「いざとなれば逃げればいい」 

そう言って安心させてから、 

ツノ村に入ってすぐのところにある小屋の中の鍋に天秤棒をかけて、 

二人で肩に背負いまずは鍋を回収した、 

 

 次の日、 

シトとワチで芋汁が入った鍋を天秤棒にかけてツノ村に入ると、 

その日はオジとラトがいつも通り芋汁を出迎えた、 

するとオジが、 

「芋汁はしばらく持ってこなくていい」 

と言った、 

シトとワチはいつでも逃げ出せる様に一旦その場の地面に鍋を置き、 

シトはオジの顔を見て言った、 

「ペタは全員本土に行くと言っている」 

オジはそれがどうしたと言う顔をしたまま何も答えない、 

それどころか地面についていた棒を両手に持って構えた、 

だからシトは、 

「ペタを一人でも殺したら生き残ったペタが本土に行って鬼ヶ島で何があったか人間に話しをする」 

そして続けた、 

「人間の桃太郎はどうしてツノを成敗してペタは残したか知っているだろう、人間は暴力や殺しを嫌がる、ペタに指一本でも触れたら、人間に言い付ける、それともペタを全員殺すか?それこそ人間は変だと思うぞ!」 

オジは無表情に静かに言った、 

「とにかく芋汁はペタだけで分けろ、古着が無くなれば取りに来い、その代わり湧き水はくれ」 

シトはオジやツノ達が何を考えているか直ぐには分からなくて、 

不安になり、 

「オジお前は本土に行きたいのだろう!」 

と問いかけると、 

オジは小さな声、ここにいる四人にしか聞こえないような息がかすれた様な声で言った、 

「チャンスはある」 

そう言ってシトを見詰めて微動だにしない、 

威嚇する為に棒を振り回す訳でもなく、 

シトはそのチャンスはある、 

と言う言い方が気になり、 

「分かった」 

そう言ってワチに目配せをして、天秤棒で寸胴鍋を担ぎ、ツノ村を出た、 

林の中を歩くと、三十人の援護のペタ達がいて 

ペタの一人がシトに尋ねた、 

「どうだった?」 

シトは頷き、 

「村に戻ってから話すよ」 

シト自身明確な答えが出ていない、 

村まで戻る道、みんなになんて説明すればいいか考えた、 

シトはオジの雰囲気で手放しには喜べない、 

オジにも不安な部分があると感じた、 

多分、 

長老の誰かが本土に行く事を反対しているのだろう、 

だからチャンスはあると言う不安さを隠さない言葉を選んだのだろう、 

そう思うと、ギリギリと心が潰れそうに感じた、 

 

 オジは去っていったペタを見送ると、 

背後から声がして振り返る、 

オミともう一人長老が立っていて、 

オミが嫌味な顔で言った、 

「オジお前も本土に行きたいのだろう!」 

とペタのシトの真似をしてからかって来た、 

オジはオミ達が隠れて会話を聞いて見張っていたからシトと話しができなかった、 

オジは本土に行けると喜んでいたのに、 

こんな邪魔者が入って来るとは思っていなかったが、 

予想しておくべきだったと後悔した、 

反対している長老達をなんとかしないといけない、 

ペットボトルの浮きより難しいと思い、 

それぐらいの覚悟をしないといけないと感じた、 

そうすると首布達に力を借りるしかないなと思うと、 

峰山がいつ来るのか、 

それまで大人しくしているのがいいのかもしれないと思った、 

 

 シトは大人のペタに取り囲まれていた、 

そしてあえてニッコリ笑って、 

「どうやら、ツノの中に本土に行くのを反対している長老がいる様だ」 

そう言うと、 

一人のおじさんのペタが、 

「俺も本土に行くのは不安だよ」 

するとシトが、 

「今日、ツノ達が畑にも釣り場にも見張りに来ないのをどう思いますか?」 

おじさんはシトのその言葉を聞いて言葉が出ない様で黙ったままシトを見つめている、 

シトは静かに言った、 

「僕達を働かせなくても、食料が首から布を垂らした人間が持って来るから、僕達を見張らなくなったとしたら、僕達は用済みって事ですよ」 

そう言ってシトはそのおじさんを見つめて、 

「貴方が残りたいと言っても、僕は心配だから、貴方を本土に連れて行きますよ」 

そのおじさんは視線を落としてもう何も言わなかった、 

すると違うペタが、 

「本土に行く話し、ツノ達だけに任せたくないよ」 

シトはそう!それと思い、 

「船着場はツノ村の下にあるから、ペタ村からは船が来た事が分からない」 

すると他のおじさんが、 

「船着場が見える場所に見張り台を作るか?」 

するとシトは、 

「高台の木の上に作れば、見張れるかな?」 

すると一人のペタがシトの前までペタをかき分けて出て来て、 

「ツノを見張らないと」