鬼ヶ島を望む漁港、 

県警のパトカーや警察のマイクロバスなどが数台停まっていて、 

勿論警官も数名居る、 

それとテレビ局の中継車も三台停まっている、 

朝から鬼の差別を無くすデモ行進が開かれていて、 

市内を行進して、 

例の鬼と人間の絆館の前で集会をするらしい、 

太一は漁師のタカさんから朝連絡をもらって知り、 

日曜で休みなので見物に来た、 

県警が許可を出したので警察官や警備会社の警備員らがデモ行進や海鮮市場の客の車などの交通整理をしている、 

絆館の前には五十人くらいの活動家が居て、 

太一はタカさんにテツさんと、 

三人で少し離れた所から集会の様子を見ていると、 

テレビ局の取材のカメラは彼らに近付いて取材をしているのが見える、 

やがて拡声器を使って弁師が、 

「桃太郎に虐殺され、生き残った鬼達は島に閉じ込められ、酷い目にあってきた、そんな鬼を差別から守るために、鬼ヘイトスピーチ禁止法を作り、みんなで鬼達を守ってあげましょう!」 

するとデモの参加者達が拍手をするのだが全員が拍手をしていない様子、 

集会参加者の人数の割に拍手が少ないので、 

太一は拍子抜けをした、 

すると弁師が比較的若い女性に代わり、 

自己紹介もそこそこに、 

鬼が可哀想だとか、 

桃太郎は酷いとか、 

桃太郎の本は焚書にしろだとか、 

国は今まで何をしてたとか、 

豆まきは止めろとか、 

捲し立てる様に、 

声が裏返ったりしながら叫んでいる、 

そして最後に、 

「鬼ヘイトスピーチ禁止法を成立させましょう!」 

と彼女もヘイトスピーチ禁止法を口にした、 

すると次は小学四年生くらいの女の子が出てきて彼女のために用意された箱に登壇して、 

見た目によらずしっかりした声で話し始めた、 

「私は昔話に出てくる鬼は知っていましたが、本当に鬼ヶ島があって、そこに今でも鬼が暮らしていると知りませんでした、鬼はその存在を消されていたのです、こんな事があっていいのですか!これから日本人全員で鬼達に罪滅ぼしをしないといけない、謝罪しないといけない、そして鬼に対するヘイトスピーチ禁止法を早く実現しましょう!」 

と憤る様に言った、 

この小学生くらいの女の子を最後に弁師の主張は終わり、 

主催者か何かがデモの労をねぎらう言葉があって集会は終わったようだ、 

そして集団は絆館の前で談笑を始めたかと思うと、記念撮影をし始めた、 

そして集合写真を撮ろうと言う事になったのだが、 

五十人くらいの半分はその集合写真に入らず、遠目で見ていて部外者の様に見える、 

そしてその集合写真に入る人達はどう見ても、親子連れ、その親子連れが五組くらいという感じの組み合わせ、 

そして慌ただしく絆館を出入りしたかと思うと、それぞれバラバラに散って行き集会は一時間ほどで終わり、 

警察官達も終わったのを確認した様で、 

引き上げていった、 

太一は最初から見ていなかったのだが、 

デモも世襲で何とか維持している様に見える、 

太一達も漁港に帰ろうと思ったのだが、 

解散した人混みの中から、 

太一達の方に向かってくる男が居る、 

太一は思わず凝視してしまった、 

正雄がこっちに向かって歩いてくる、 

そして正雄の表情がほころんで、 

ニコニコしながら近寄ってくる、 

太一はあちら側に正雄がデモに参加して情報収集をしていたとバレない方がいいと思い気を利かせて、 

タカさん達に、港に戻ろうと声をかけて、 

絆館に背を向けて、 

港に歩き出すと、 

正雄が速足で追ってくる、 

太一に追いついた正雄が、 

「やっぱ、デモの半分くらいはバイト募集で集まった人達でしたよ」 

太一は絆館の関係者に見られてはいけないと思って背を向けたまま歩いた、 

「俺達と知り合いって言うのがバレない方がいいんじゃないかな?」 

と正雄に説明すると、 

「何て言うか、そこまでシビアな感じじゃないですよ」 

四人は一緒になって漁港に向かって歩きながら、 

正雄が説明を始めた、 

「ネットで今のバイトの募集を見つけて、応募したら、返事が来て参加したんですけど、拘束時間が四時間前後で一万ですよ、なかなかいいバイトですよね」 

太一は歩きながら、ネットにそう言う噂をよく見かけるので尋ねた、 

「噂の裏取か?」 

すると正雄が、 

「デモをするのは半月くらい前から分かってたので、その直前に怪しいバイトの募集するんじゃないかと思ってSNSを見張ってたら、見つけたんですよ」 

太一はまさかデモバイトとあからさまに募集しているのかなと思い、 

「募集の文句は何て書いてたの?」 

すると正雄が、 

「この漁港まで付き添いって書いてましたよ」 

太一は付き添いと聞いて笑ってしまった、 

そして、 

「そんなのであんなに沢山の人が、集まるんだな?」 

と太一は質問を重ねると、 

正雄が答えた、 

「バイトと言うより、おつかいとかお駄賃稼ぎみたいな感じですかね、それとなく聞くと、 

大阪の団体がここまで出張して来たみたいですね」 

太一は黙って聞いていると、 

正雄は、 

「それなりにお金が動いてますよ、絶対」 

するとタカさんが、 

「政治とかイデオロギーとか言いながら、やっぱ金か」 

すると正雄が、 

「こんな事言っていいのかわからないですけど、僕も給料のために会社に仕事しに行きますよ、でもそれには裏も表もないです、でもあの人達は裏表がある」 

正雄はそう言い切ったのを太一は見て、 

正雄に問いかけた、 

「裏表って?」 

すると正雄が答えた、 

「集会が終わって、中でバイト代をもらう時、最後に弁師をした女の子、親に褒められて嬉しがってるのを見ました」 

太一は言葉にはできないが分かる気がした、 

すると、 

「親に褒められたくて言っただけにしか見えないですよね」 

と正雄が言葉を重ねた、 

それで太一は、 

「子供にプロパガンダを言わせるのは上等手段だからな」 

そして正雄は続けた、 

「デモの動員をお金で雇う訳ですから、確実に嘘、張りぼての団体だってバレちゃってる訳でしょう、バイトに参加した人には、いつか破綻しますよ」 

二人の漁師も太一も黙って正雄の話しを聞いた、 

「そんなの分かりきってるのに、子供みたいな事をするんですね、大人がやる事じゃない」 

太一は正雄の話しを聞き終え、 

「拝金主義な人間って子供っぽいところがある物だよ」 

そう言って、 

「転がるボールを追いかけて左右も見ずに車道に飛び出す様な幼稚さ、世間が見えていないと言うか、真中君は覚えてる?ネットのニュースで大企業連合会の偉いさんが浮世離れした発言をして炎上してたの、ああ言う人種がいるんだよ」 

 

 その日の夜、 

正雄は自宅の自分の部屋で動画サイトの閲覧をしていた、 

床に座りベッドにもたれて、 

テーブルに百円均一ショップで買って来たスマホスタンドにスマホを立て掛けている、 

動画サイトには各地方の鬼の偏見を無くす箱物を紹介する動画が何本も上がっていて、 

同時にその動画の作成者の疑問や視聴者に対する問題提起をしている、 

中にはその会館に突撃して、 

中の職員にいろんな質問をしている動画もあって、動画作成者とその会館の職員とのやり取りをそのまま、 

相手の顔にモザイクをかけてはいるが、 

音声はそのまま、 

聞いていると結論は、厚労省に問い合わせて欲しい、 

鬼対策室に問い合わせてくれの一点張りで、 

鬼に対する偏見を無くす目的を達成できていないようで、 

と言うかそんな気は最初からない様に見える、 

この箱物が何かの役に立っている様には見えない、 

正雄にはどう見ても公金の無駄遣いとしか思えない、 

そして正雄はいつも見る東京の窓と言うチャンネルを開いた、 

今日一日のニュースをまとめてくれている動画、 

いつもの軽妙な語りで動画が始まり、 

今日最初のニュースを紹介し始めた、 

正雄は手を伸ばしスマホをスタンドから取り上げて、 

動画に注目した、 

と言っても画面には知らないおじさんの写真が映し出されているだけ、 

この人が法務大臣の様だ、 

「法務大臣がネットを中心とした鬼への誹謗中傷が目立つ事を問題視していて、必要であれば対策を講じると言ってますね」 

動画主はそこでため息をつき間を置いて語り出した、 

「なんかおかしいですね」 

画面にはそのニュースの法務大臣の写真が表示されつづけているのだが、 

「僕の認識では鬼を誹謗中傷しているんじゃなくて、国の見境のない鬼保護法をみんなは問題視しているだけなんですけどね、僕の認識間違ってますか?コメ欄に視聴者のご意見聞かせてください」 

そう言って、画面が変わり、 

小綺麗なおばさんが映し出された、 

正雄はこれ東京都知事じゃなかったかなと思っていると、 

「次はこの方のニュースです、小島都知事ですね、ニュースを読みます」 

と言ってニュースをかいつまんで読み、 

「都知事は鬼の受け入れ大賛成の様ですね、鬼が可哀想だからって言ってましたね、でも日本人の九十九点九、九、九パーセントが鬼を見た事が無いからどう言うふうに可哀想なのか知らないですよね、何をもって可哀想と都知事は言っているのかわからないですよね」