花音は初夏の四国に行く前に、 

父親の実家を訪ねて、 

葛城水間さんの話を聞こうと、 

わざわざ事前に父親から実家の兄弟に連絡をしてもらって、 

朝東京を出て新幹線に乗り、 

新大阪の駅から大阪府内を南下して、 

父親の実家に立ち寄り、 

葛城水間の話を一通り聞かせてもらったが、やはりお祖父さんともなると、 

孫がそこまで詳しい訳ではなく、 

父親が言っていた様に資料は沢山あったが、 

父親の事前の連絡で水間さんの日記を借りる事が出来た、 

ちょうど鬼ヶ島に出向いた時の日記が残っていて、 

気安く貸してもらえて、 

花音はそのまま大阪府内を南下して、和歌山から四国の徳島に向かうカーフェリーに乗船した、 

行楽シーズンでもないので、 

フェリーもそんなに混んでいない、 

客室は別料金が必要な一等席と、 

足を伸ばして雑魚寝が出来るフロアーや、 

座席に 

テーブル席もある、 

客室の窓から外を覗くと田舎の港の風景があり、 

海沿いの山々の緑が目立つ、 

港もそんなに大きな感じではない、 

ネットの記事によると日本で最後に残った、 

電車と連絡している船だそうだ、 

お昼前に父親の実家に行くために乗った大阪府貝塚市にある水間電車も、 

風情のある中を走るローカル線だった、 

高校生の時、人の旅ブログを好んで見始めたのも、 

田舎の風景に憧れの様なものを感じたからだ、 

四国の旅が終わったら瀬戸大橋の本四備讃線に乗って本土に渡り、東京に帰る予定だが、 

瀬戸内海を一周する旅もいいなと感じた、 

そんな事を考えていると船が離岸し始めた、 

花音はそのテーブル席に座り水間さんの日記を拝読させてもらおうとキャリーケースから出して読み始めた、 

鬼の保護団体の鬼衛集の長との事前のやりとりや、 

日記と言うより、まるで本を書く為の下書きの様なラフと言うかメモ書きの様な文章が並んでいる、 

父親が言っていた様に、 

二種類の鬼がいる事や、 

ペタと言う鬼は、ツノから家畜の様な扱いを受けていて、 

共食いの習性があったが、 

鬼衛集は共食いをしなくて良い様に、 

食料を確保する手段を教えたと書いてあった、 

花音はふと船が揺れたのを感じた、 

大きな波を超えて上下した様な揺れ、 

花音は飲み物でも買おうと、 

一旦荷物をまとめて、 

キャリーケースを引っ張って客室の中の自販機の前に立ち、 

ペットボトルの水を買って、 

再び元のテーブルに戻った、 

水で喉を潤し、水間さんの日記を取り出し、 

スマホを充電しようと思い、 

目の前の机の奥にある、コンセントを拝借して、 

充電をする、 

ついでに自分の動画の管理画面をチェックした、 

直近の自分の動画のコメント欄もチェックすると、 

ファンの人達の暖かいコメントが並ぶ、 

そんな中には、当然批判的なコメントもある、 

他の女性ブロガーのコメント欄でも見かけるが、 

こう言う批判コメントは避けられないのだろう、 

例えば、 

女を武器にするなとか、 

そのコメ主が男か女か知らないが、 

武器を持っていない僻みなのだろう、 

自分の武器を見つける事をお勧めしますと返信したくなるが、 

こう言う喧嘩は買わない方がいい、 

花音自身愚痴を聞くのも言うのも嫌いだ、 

あと、一言批判のコメントと批判の文章を長々と書きつられている、 

暇人としか思えない闇深いものもある、 

その文章力を他に使った方がいいのではないかと思うが、 

私に需要がないのだから、 

他に供給口もないだろう、 

花音はいつもの事と気を取り直して、 

水間さんの日記の続きを読み始めた、 

水間さんは鬼衛集の事も詳細に書いていた、 

何世紀にも渡って鬼の世話をして来てその経験と知識は人間社会にも通用する哲学があると大絶賛していた、 

芋の栽培、 

食べ物を加熱する事、 

そして鬼達の少ないながら言語がある事を知り、 

言葉、日本語も鬼衛集が鬼に教えたと書いてある、 

そして初歩的な宗教心、信じる気持ちも鬼達に教えたらしい、 

水間さんは宗教心の大事さを再確認したと書いてある、 

フェリーは二時間ほどで浅い夕暮れ時の徳島に着き、 

そこから徳島市内まで行く路線バスに乗り、初日の宿泊はネットカフェ、 

女性専用のフロアーがあり、 

花音はシャワーを浴びて自分の個室と言うかブースと言うか、 

に戻り、 

再び水間さんの日記を開いて、 

続きを読むと、 

元々家畜の様な生き方をしていて文化のない彼らに少しでも基礎的な文化が根付く様に、 

鬼衛集達は促した、 

ところが、 

組織的な生活、食料の確保を組織立って行うと、 

どうしても腕力の強い者が他者を動かそうとする、序列が生まれる、 

家畜の様な生き方が抜けない個体は、 

序列の最下位に固定されてしまう、 

組織を構築する時、 

組織の構成要件を満たせない個体は、 

どうしても落ちこぼれてしまう、 

その落ちこぼれの扱いが難しく、 

淘汰されてしまうと言う事が書いてあった、 

花音は鬼ヶ島の中の社会を厳しいと感じた、そして最後に、 

水間さんは鬼の論文を出すつもりだったが、 

鬼衛集の長から、 

鬼の野蛮な部分は書かないで欲しいと頼まれた、 

と書いてあり、 

鬼の野蛮さ獰猛さが世に出ると、不安がり鬼を危険視する人達が出て来て、 

予想も付かない事が起こると困ると言われ、 

悩んだ結果、 

鬼衛集に敬意を表し論文ではなく、 

鬼ヶ島の旅行記にしようと思うと書いてあり、 

鬼ヶ島はこのままの状態で保存するべきで、 

好奇心の対象にしないように、秘密にするか、 

タブーの様な存在にしたい、 

鬼を傷つけないためにはそうした方がいいのではないかと思う、 

だから、 

鬼ヶ島の旅行記とする、 

と締めくくっていた、 

花音はここにタブーと言う言葉が出てきて驚いたし、 

それが、 

水間さんから始まったのかと思うとタブーの広まり方の不思議さも感じた、 

そして、鬼の真実は公表されていないと言う事かと思うと、 

鬼を本土に受け入れる噂があるが、 

大丈夫なのか心配になって来た、 

政治家や官僚を信じていないが、 

でもそこまで馬鹿ではないと思いたい、 

 

 花音は次の日太平洋を目指して列車に乗っていた、 

列車の車内はそれなりにお客さんが乗っていて、 

地元の人と思われる様子の人達が数名乗っている、 

乗る前、乗った直後、に動画を撮って、 

海が見える車窓も撮った、 

列車に揺られている自分も撮ったし、 

この列車の行先にDMVと言う乗り物があって、 

それが今日の一つ目の目的、 

花音は車窓の田舎の景色を見ながら、 

水間さんの日記には鬼衛集の事が詳しく書かれていたが、 

何世紀もの間、鬼の世話をしている訳で、 

何世代にも渡って継続するモチベーションと言うか、 

受け継ぐ理由を、 

想像と言うか考え始めた、 

何世紀もの間、民間の団体として政府に、 

登録も援助も受けず、 

地元の人だけで運営している、 

そう考えると、 

日本各地に歴史あるお祭りが残っていて、 

そう言うものと同じなのかなと思った、 

でも生き物を相手にしているわけで、 

ただ街中を練り歩く祭りとは違う、 

でも生き物を使ったお祭りってあったよな、 

と不確かな記憶を探ってみたが、 

花音は我に返り、 

ネットで調べたいと思ったが、 

スマホはスタビライザーに取り付けてあるし、 

やっぱりビデオカメラかノートパソコンのどちらかを追加した方がいいかなー 

と考えてしまった、