おや?
へジャじゃないか?
新しい奉公先はどうだい?
 
 
通りを歩いていたら
母の声が聞こえ
無視して通り過ぎようと
思っていたら
肩を掴まれたへジャは
仕方なく後ろを振り向いた
 
母は名家チェ家の女中頭で
それを誇りに生きている
だからへジャのような流れ者の
ような働き方の女中には
何かと手厳しく
たまに会うと小言ばかり・・・
 
 
息災にしているのかい?
あんたときたら家にも寄らず
何も知らせてこないじゃないか
今はどこのお屋敷にいるんだい?
奉公先をあちこち渡り歩いて
困ったもんだよ
 
 
盛大なため息とともに
愚痴のような小言のような
言葉が続く
 
 
母さん
あたしもいい大人だからね
どこに奉公しようと
自分で決める
なんでも母さんの思い通り
ってわけにはいかないんだ
これでも
ちゃんと働いているし
女中としての働きも
評判がいいんだよ
 
 
まあ 
あたしが女中の仕事を
仕込んだんだから
腕がいいのは当たり前だね
だかねぇ
そんな渡り鳥みたいな
奉公の仕方はやめてしまって
チェ家に来ればいいものを・・・
このソンオクの跡を継ぐのは
お前しかいないと
思っているのに
 
 
渡り鳥って・・・

母さんこそ

そんな

いつ主人が帰るか

わからないような屋敷に

未だに行っているとは

呆れたもんだね

もう何年・・・いや

十年以上もあのお屋敷は

廃墟じゃないのかい?

人の住まない家ほど

哀れなものはないのに

よくせっせと

お仕えできるもんだと

感心するねぇ

 

 

ちょっと

言い過ぎただろうか

母の曇った顔つきに

へジャの胸がちくりと痛んだ

母にとって 

チェ家は人生のすべてで

自分の娘よりも大事な

坊っちゃまチェヨンが

屋敷を出て以来

ずっとその行く末を気にかけ

案じているのを知っていた

だが

そんな母への反発もあって

ついつい突っかかるような

言い方しかできない・・・

それが嫌で

へジャは母とはなるべく

距離を置いて暮らすように

していた

 

 

へジャや

あのお屋敷の主人

チェヨン様は

確かに今はあそこに

お暮らしではないが

医仙様を連れて

きっとお屋敷に戻ってくる

あのお方は一度決めたことを

曲げるようなお方じゃあ

ないからね

だから いつ

お戻りになってもいいように 

お屋敷の手入れを

怠ることはできないってもんだ

春先に植えた庭の花も

綺麗に咲いているし

毎日風通しよくして

床も磨いて

布団も新しいのをこさえて

それにチェ尚宮様にも

お屋敷の管理を任されているし

だけどねぇ あたしも

寄る年波にはかなわない・・・

いつまでこんな風に

ご奉公できるか・・・

 

 

少し弱気な母の言葉に

なんだか腹が立った

 

 

だからって

あたしをあてにされても

困ってしまうよ

あたしは母さんみたいに

ご主人様に

肩入れするような女中には

ならない

付かず離れずが一番気楽だ

じゃあ もう行かなくちゃ

仕事に遅れちまう

 

 

悲しそうな母の顔を

見ないようにして

へジャは歩き出した

 

 

母さんの思い入れは勝手だが

それを押し付けられるのは

いい迷惑なんだよ

 

 

ぼそぼそ独り言を

つぶやいていると

また声をかけられた

 

 

おや?へジャ

久しぶりだね

最近はこの辺りのお屋敷かい?

 

 

おや マンボ姐さん

今日はやけに人に会う日だ

 

 

ん?あ?

誰かに会ったのかい?

 

 

いいや いいんだ

それにしても

どんよりした天気だねぇ

 

 

そうだね こんな日は

気が滅入るってもんだよね

どうだい?

お茶でも飲んでいかないかい?

クッパもあるよ

 

 

ありがとう

でも 

これから仕事だから・・・

 

 

そう言ってから ふと

マンボ兄妹もチェヨンと

縁が深いことを思い出した

 

 

そういや 今しがた 

母さんに会ったんだけど

 

 

え?ソンオク母さん?

 

 

うん・・・で

坊っちゃまの話が出てね

 

 

坊っちゃま?

ああ ヨンのことか?

 

 

ああ うん

で 母さんが坊っちゃまは

医仙様を連れて

屋敷に戻って来るって

信じているんだけど・・・

ほんとのところ

どうなんだろう?

 

 

チェヨンが

消えてしまった医仙様を

待ち続け 

一向に国境近くの丘の上から

動かないことは

都でも噂になって

へジャの耳にさえ届いていた

 

 

あああぁ

そうだねぇ

国境に行って

もう何年だっけ?

かれこれ四年・・・か?

長いよねぇ

天女もどこをほっつき

歩いているんだか

 

 

天女?

 

 

あたしらはそう呼んでる

ヨンにとって

大事なお方だからね

メヒを忘れるのに七年かかり

ようやく見つけた新しい恋

今度こそ 今度こそ

ようやく幸せになれると

思っていたのに・・・

なのに・・・因果なもんだ

神様はヨンに

試練ばかりお与えになる

 

 

じゃあ

マンボも医仙様が

戻ると思っているのかい?

 

 

もちろん!

戻ってこなきゃ困るよ

またヨンが廃人になっちまう

ヨンのあんな姿 もう二度と

見たくないんだから

それに今度は なかなか

諦めないだろうさ

 

 

どうしてそう思うんだい?

 

 

だってヨンと

天女の縁が切れるとは

思えないし・・・

ヨンも天女も

しつこい性格だからね

諦めが悪いって言うか

 

 

マンボ姐さんはカラッと笑い

片方の目を閉じてへジャに

言った

 

 

だからねぇ

ソンオク母さんの言うこと

あながち間違ってはないと思う

あの二人の縁は

相当しぶといってことだよ

あたしはね 天女が

いつ戻ってもいいように

最高級の抹茶を仕入れて

待っているんだよ

いい石鹸の材料になるからねぇ

あんたも天女に会えば

贔屓目になると思うよ

ほんといい女なんだ 

天女は

 

 

そんなもんかねぇ

 

 

へジャはマンボの言葉を

噛み締めながら

奉公先の屋敷に向かった

 

なんだかんだと言いながら

みんな 医仙様が

戻って来ると信じているのか

 

来るか来ないか

分からぬ相手を

ずっと待ち続けることなんて

果たしてできるのだろうか?

 

へジャは

かつて少年だった頃の

チェヨンの面影を目に浮かべ

ぼんやりと空を見上げた

 

 

 

 

 

 

 

テジャン

ここは冷えますよ

宿に戻りましょう

 

 

大木にもたれて

夜空を見ているチェヨンが

どこかに

吸い込まれそうな気がして

テマンは声をかけた

 

 

俺はいい

今宵も野宿だ

お前は宿に戻れ

 

 

けど・・・

 

 

これは隊長命令だ

それに俺は

この木にもたれていると

あの方に触れているような

気がするのだ

心が落ち着く・・・

 

 

そうかなぁ?

医仙様 そんなに

ゴツゴツしてないよ

もっと柔らかそうだ

 

 

あ? テマン

触れてもないのに

なぜわかる?

まさか お前あの方に

触れたことがあるのか?

 

 

キッと睨んだチェヨンの

瞳にたじろぎながら

そんなわけないと

テマンは首を振り

 

 

まったく テジャンは

医仙様のことになると

みっ見境なさすぎだ!

 

 

ちろっと舌を出すと

テマンは 逃げ足早く

チェヨンの前から消えた

 

 

北の空に

ずっと動かずにいる星が

キラキラと瞬いている

 

 

あの星

テジャンみたいだな・・・

医仙様

早く 帰って来てあげて

 

 

空を見上げて

星に祈るように

テマンはつぶやいた

 

 

黄色い花黄色い花黄色い花黄色い花黄色い花黄色い花黄色い花黄色い花

 

 

前話にお話やご紹介曲の

ご感想をいただき

ありがとうございました

どうぞ

またおつきあいくださいませ

安寧にお過ごしくださいね

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