『会えなくてごめんね
チェヨンは
明日は普通通りに出仕を
しなければならない
子供達も
ソダン(書堂)がある
もちろんウンスも診療所の
勤務を控える
だから明日の朝は早くに
ここを出立しなければ
ならないのだ
そんな慌ただしい時間を割いて
わざわざ訪れた別邸だが
それでも来てよかったと
チェヨンは思っていた
子供達も叔母上も
愛しい妻も 皆 笑顔
この家族の笑顔を守るため
自分は日々戦っているのだと
改めて心に誓った
すっかり寝落ちしているわ
でも本当に叔母様に任せて
よかったのかしら?
遊び疲れた子供らの
隣の部屋の寝息を伺い
ウンスは夫に聞いた
仕切りの薄い扉一枚で
隔てた部屋には
子供達五人とばぁばが
ぎゅうぎゅうになって
眠っている
構わぬ
叔母上本人の希望ゆえ
二人きりの寝床で
満足そうにウンスを抱きしめ
チェヨンはほぅと息を吐いた
今夜はダメよ
この部屋
丸聞こえだもの・・・
チェヨンの胸を慌てた様子で
手で押し返したウンスの
その白く細い腕を掴んで
チェヨンは笑った
そうか?俺には
屋敷と大して変わらぬように
思えるが?
変わる 変わる!
とにかくだめ
ヨンと同じで気配に聡い
叔母様がいるもの
ウンスは布団に逃げ込んだ
そのウンスを追って
チェヨンも布団に潜り込む
だからダメだって!
あ?隣に眠るのも
ならぬのか?
何も致さぬ
俺を信じろ
いやいやいや
信じられない!
ウンスはじとっと夫を
見つめ返す
ただ抱きしめて
眠りにつきたい・・・
今宵はそれだけ
約束する
ほんと?
ああ
じゃあ いいわ
ウンスは夫の腕の中に
転がり込んだ
甘い香りの胸板に
頬をすり寄せると
すぐに眠気が襲ってくる
チェヨンは妻の頬を
指先で触れながら
額に口付けを落とす
すると
ふうっと肩の力が抜けた
色白な頬
きりりとした眉
閉じた瞳の先に揺れる
長いまつげ
ふっくらとした赤い唇
シュッととがった顎の線
耳たぶのうぶ毛さえ
どれもこれも美しい妻の寝顔
今宵はこれ以上は
諦めよう
だが こんな風に
まじまじと妻を見つめ
その柔らかさに
酔いしれるのも悪くはない
聞こえる妻の寝息を
子守唄がわりに
チェヨンは目を閉じた
ヨン ヨンァ
どこからか
懐かしい声が聞こえ
女の人が幼い子供を
あやしているのが見えた
母上?
いい子だこと・・・
私はあなたの母になれて
嬉しいわ
なのに ずっとそばに
いられなくてごめんね
寂しい思いをさせて
ごめんね
母上・・・
ずっと寂しかった
だが
ずっとそれが言えなかった
目尻に熱いものが伝って
チェヨンは目が覚めた
どおしたの?
夢を見たのね?
ウンスが
優しい笑みを浮かべ
チェヨンの涙を拭った
よく眠れるおまじない
してあげる
両方のまぶたに
そっと口づけて
それから唇に唇を重ねる
母上が・・・
お母様?
俺のこと
気にかけておられた
そっかぁ
ヨン ちゃんとお墓で
言わなかったのね?
もう大丈夫
俺にはウンスがいるからって
うふふ
私はずっとここにいるから
もう安心して寝ていいわよ
ケンチャナヨ
ケンチャナヨ・・・
ウンスがチェヨンのお腹を
幼い子供をあやすように
とんとんすると
チェヨンは穏やかな顔で
寝入った
春の月が
ぼんやりと浮かんでいる
柔らかな春の月の光は
優しい妻の光
チェヨンの道しるべだ
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『今日よりも明日もっと』
花が咲き 木々が芽吹き
命が踊る春
大切な人と過ごす夜は
時が穏やかに過ぎていく
本当に
申し訳ないくらい
まったりとした更新で
紡いできた本編の「春の月」
仕込む予定だった伏線とか
養成所の面々の話とか
まだまだ書き足りて
いないのですが
ここで一旦本編は休止と
させていただくこととします
次回本編のタンたちに
会えるのは
夏になると思いますが
お許しを・・・
現代版もそろそろ
書き始めようと
気になっているのですが
今しばらくは ゆるゆると
短編など交えてお話の更新を
していくつもりですので
気長にお待ちいただけたら
嬉しいです
コメントのお返しも
ままならず・・・
大変失礼しておりますが
お気持ちにいつも
感謝しております
本当にありがとうございます
感謝を込めて haru
安寧にお過ごし下さいませ