なんか上護軍
殺気立ってないか?
あれはあれだな
悋気の炎だ
 
 
やれやれといった口調で
新婚のトクマンは
一緒に新入りの指導をしている
テマンにボソボソ話しかけた
チェヨンは先ほど兵舎に来るなり
すごい勢いで手合わせを始め
未だに止む気配がない
こういう場合
トクマンの経験値では
医仙様がらみで
悋気するような何かがあったと
いうことらしい
 
 
上護軍は医仙様のこととなると
昔っから見境がなくなる
困ったお方だ
 
 
剣の達人 
チェヨンとの手合わせ
そんな機会は滅多にない
と 新入りの隊員は意気揚々
次々志願し
次々叩きのめされていく
その様子を見ながら
大人ぶって言うトクマンに
テマンは苦笑い
 
 
お前はのんきで
羨ましいよ
 
 
テマンは何があったのだろうと
心配そうな表情で
チェヨンを見つめていた
昔っから
お互い相手のことが好きすぎて
だからたとえ
ちょっとのことでも
こじれると厄介だということを
テマンはそばで散々見て来ていた
 
 
今夜は屋敷に行ってみようかな
医仙様の開院祝いもまだだし
 
 
おお それな〜
ナナも気にしててさ
今日 祝い餅を届けるって
朝から張り切ってた
あいつの作った餅は
ものすごくうまいからなぁ
 
 
そのお気楽さ
お前が本当 羨ましいよ
 
 
テマンは半ば呆れて
トクマンに言った
 
 
そうか?そうだろ?
羨ましいだろ?
朝目覚めたら隣に嫁がいて
うまい飯を作ってくれて
いや〜
結婚っていいもんだなぁ
 
 
惚気全開のトクマンは
ナナと所帯を持ってから
夜勤を極力避けて
家にすっ飛んで帰る毎日
その空いた分を
テマンが埋めていることにすら
気づかぬくらい
幸せな暮らしを送っていた
 
 
まあ いいけどな
トクマンが幸せなら
嫁さんも
昼間一人で寂しいだろうし
 
 
ああ それならな
心配ない
日中は
育児園に手伝いに行き始めてさ
一人で家に置いとくより
安心だし
あそこには若い男もいないだろ
いても若すぎる子供だしな
それにおやつに餅を作って
喜ばれているらしくて
ナナも育児園の手伝いが
性に合ってるみたいだ
 
 
そうなのか?
 
 
ああ 
ヨンファさんの紹介なんだ
ほらヨンファさん
前に育児園の先生してただろ?
 
 
今はキ・チョルの屋敷跡に
大きく構えている育児園
ヘバラギ(ひまわり)だが
以前は都の真ん中にあって
ジュヒの息子
コハクも世話になっていた
ジュヒに会えるかもしれないと
よく育児園に顔を出していたことを
テマンは懐かしく思った
そしてその頃
確かにヨンファも
育児園で子供達に行儀や剣術を
教えていたのを思い出した
 
 
そういやさ
トクマン お前 
ヨンファさんのこと
好きだって言ってたこと
なかったか?
いや ヒョリさんかな?
とにかくお前は気が多い男だった
あの子がいい この子がいいって
武閣氏にフラフラしてただろ?
 
 
それはトルベさんだよ
俺じゃないぞ
まあ ヨンファさんのこと
綺麗だなぁって言ってたけど
俺って
芯が強い女が好きなんだな 
ナナを嫁にしてそう思った
ああ〜だから医仙様にも
うっかり懸想しかけたんだ
 
 
なんだよ
やっぱり気が多いじゃないか
 
 
誰が気が多いのだ? 
テマン?
 
 
話にウンスの名が出たことを
鍛錬の最中でも
チェヨンは聞き逃さなかった
 
 
いえ あの
プジャンが・・・
昔・・・
 
 
おい!テマン
余計なこと言うなよ
 
 
何か言われて困ることか?
トクマン
久しぶりに手合わせだ
それからじっくり
聞かせてもらうとするか
 
 
有無を言わせぬ
チェヨンの気迫
 
 
なんでこうなる?
俺なんか悪いことした?
 
 
トクマンは
テマンに助けを求めたが
テマンは 目を宙に泳がせた
 
 
鍛錬で汗をかいたチェヨンは
心持ちスッキリした気分で
集賢殿に戻った
それからパク・インギュに
指示し
今日中に処理する予定の
書状を山積むと
猛烈な勢いでしたため始めた
まったくわかりやすい人だと
インギュは苦笑する
 
とにかく
屋敷に残してきた
医仙様が気になって
仕方ないのだろう・・・と
インギュは
わざと焦らすようなことを言って
からかいたくなった
 
 
上護軍
夕刻 国境の城壁普請の
進捗報告がくる手はずになって
おりますが・・・?
 
 
あ?聞いておらんぞ
今日はならぬ
急ぎの用があるゆえ
これが終われば俺は屋敷に戻る
 
 
ご報告を
王様にいたさねば・・・
帰れませぬ
 
 
任せる
 
 
はぁ?
 
 
だから任せると
言うたのだ
王様に何か言われたら
俺の一番は今も変わらぬと
言っておけ
それで通じる
 
 
は・・・はぁ?
 
 
では あとは頼んだぞ
 
 
ええ?
もうおかえりで?
 
 
ああ 
今日中に必要なものは
すべて処理した
残りは明日でも構わぬ
 
 
まだ昼を過ぎたあたり
なんと言う能力の高さだと
インギュは舌を巻いたが
負けずに言い返す
 
 
では 夕方屋敷に伺って
今日の報告をいたします
 
 
いらん
報告は明日聞く
とにかく今宵はならぬ
良いな
 
 
チェヨンはこれ以上
引き止められないようにと
荷物をまとめて
あっという間に
集賢殿からいなくなった
 
 
━─━─━─━─━─
 
 
昼を過ぎた頃には
チェ侍医の受付が
功を奏したのか
今日の診察を
なんとか終えることができ
ウンスとイサは
ホッと一息ついた
 
 
チェ先生を呼んでくるわね
奥の間でお茶にしましょう
すっかりお世話になって
助かった
イサ トギと一緒に
先に奥で休んでいて
ちょうだい
 
 
ウンスはイサに声をかけると
まだ外にいるチェ侍医を
呼びに向かった
 
ずっと
患者の問診を担当してくれた
チェ侍医は
身元を隠すように
顔を手ぬぐいで覆っていた
ウンスの体面を気にしての
配慮であったが
診療所を訪れた患者は
新入りの医者だと思ったようで
順番待ちが長いとか
自分を先に診察に回せとか
侍医に食ってかかる者もいた
 
 
疲れたでしょう?
大丈夫?
嫌味な患者もいたでしょうし
 
 
典医寺は王家のための
診療施設で権威のある場所
そこの侍医の診察を受けられるのは
ごく限られた者たちで
侍医に食ってかかる患者などは
まずいない
ウンスが典医寺の責任者になってからは
重篤な患者を身分に関係なく
受け入れてきたが
ありがたがられることはあっても
文句をいう輩はいなかった
 
 
そうですねぇ
疲れたというよりは
若い頃に地方で医官をしていた
時のことを思い出しました
あの頃も経験のない若造だの
腕が悪いのは身分が低いからだと
色々言いがかりを
言われたものです
 
 
そうだったのね・・・
 
 
はい いえ
昨日イサが
珍しく沈んだ顔を見せ
聞くと
患者と言い合ったと・・・
なんだか自分を見ているようで
血の繋がりはありませぬが
私の息子だと微笑ましくて
 
 
イサったら
相手に冷静に
言い返していたから
気持ちが沈んでるなんて
思わなかったわ
経験不足って言われたの
やっぱり気にしていたのね
でもよかった
チェ先生に素直に吐露できて
ああ そっか・・・
それで今日は
父親としてイサを陰ながら
応援に来たってわけね?
 
 
まあ それもあります
 
 
あなたの働いている姿を
見たかった・・・
そう言ったらこの女人は
困った顔をするだろうか?
チェ侍医は そんなことを思い
それからふぅと息を吐いた
 
 
診療所のことが
気になっていたので
今日は来てよかった・・・
上護軍も
気を揉まれているでしょうから
お帰りがきっとお早いでしょう?
 
 
どうかしら?
早く帰ると言っても
帰れない日もあるし
でも 様子を見がてら
早く帰って来てくれるかもね
さてと
奥でイサが待ってるわ
お茶の支度をしてあるの
休んで行ってちょうだい
うちのアギゴム(赤ちゃん熊)たちにも
しばらく会ってないでしょう?
みんな寝返り時期で
コロコロ転がって
屋敷の中は大騒ぎよ
 
 
ウンスはすっかり母親の顔で
笑ってチェ侍医に言った
 
 
では お言葉に甘えて・・・
お子様たちにお会いしてから
帰るといたします
 
 
二人が奥へ行きかけた時
男が一人
二人の前に飛び込んで来た
 
 
*******
 
 
『今日よりも明日もっと』
あなたが誰のものでも構わない
ただ そばにいたいだけ
それはわがままな思いだろうか
 
 
 
 
またおつきあいくださいませ

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