おんまぁ
たん   ね
とる(石)  みつけた  よ〜
ちょにしぃ   よ
 
 
得意満面なタンとは反対に
突然姿を消したタンに
チェ尚宮はどれほど心配した
だろうかとウンスは話を聞いて
心中を察した
 
王宮内を武閣氏を総動員して
探させたが
なかなか見つからなかったこと
ポムが泣き腫らした顔で
駆けずり回っていたこと
典医寺に一人で向かう途中
偶然チェ侍医に発見されたこと
 
無事でほっとしたが
自分の不注意で皆に迷惑をかけたと
いつもは威風堂々の叔母が
小さくなって話す姿
 
 
叔母様   ご心配をおかけして
ごめんなさい
タンがいなくなってきっと
苦しい思いをしたことでしょう
 
 
ウンスの隣でにこにこ笑う
息子のタンの頭をなでながら
ウンスは叔母をねぎらった
 
 
タンの行動力と度胸には
驚かされたよ
一人で典医寺に向かうとは!
だが
考えてみれば他に行き先はないはず
私もよほど気が動転していたようだ
それにしても
タンはやはりヨンとウンスの子
他の子とは
肝の座り方が違うのかも知れない
そして優しい子だ
母上のために頑張ったのだから
 
 
チェ尚宮は
タンがウンスに叱られないよう
庇うように一言付け加えた
ウンスはふふっと微笑んで
それからタンに向き合った
 
 
タンはおんまぁが急に
タンの前から
いなくなったらどう思う?
 
 
ウンスはタンに尋ねながら
チェヨンの前から
急に姿を消した四年を思った
あの人はどれだけ待っただろう
帰って来る保証もないのに
ただひたすら信じてくれた日々
今の幸せがあるのも
必ず戻ると信じていてくれた
チェヨンがいたからだ
 
 
おんまぁ   いないの
や〜〜よ〜〜
 
 
タンは目に涙をためている
 
 
そうでしょう?
私もばぁばも
もしもタンがいなくなったら
つらくて悲しくて
心が張り裂ける
ご飯も喉を通らないわ
 
 
そう言いながら
今度は自分の両親を思った
急に娘が消えてしまって
どれだけの苦しみや不安や
悲しみにさいなまれているだろうと
 
 
だから勝手にいなくならないで
目の前から急に消えてはだめよ
知らない人について行くのもだめ
わかった?
 
 
おんまぁ〜〜
 
 
ばぁばに
たくさん心配かけたね
ちゃんと謝ろう
 
 
タンはこくんと頷き
チェ尚宮に頭を下げた
 
 
ばぁば   たん  みあねよ
 
 
よいのじゃ
目を離したばぁばも悪い
無事で良かった
からだが冷えたであろう?
風呂に入って温まるのだよ
 
 
あぁ〜〜い
 
 
チェ尚宮にぎゅっと抱きしめられて
タンはほっとしたような顔をして
返事をした
 
 
おんまぁ
みんな
ずっと いっしょ?
あっぱぁ も?
 
 
もちろんよ
父上も私もばぁばもお腹の赤ん坊も
みんな
タンと一緒にいるわ
父上は早くここに帰って来たくて
ウズウズしてるんじゃない?
 
 
タンはうんうんと笑って
言った
 
 
あっぱぁ はやく
きてねぇ〜〜
 
 
━─━─━─━─━─
 
 
チェヨンたちが通された
飯屋の二階は
日当たりが悪く薄暗かった
朱色の丸い卓に酒の瓶と肴が数種
それに着飾った
妓楼のキーセン三人が出迎える
 
 
お酒になさいますか?旦那様
それともすぐに床に参りますか?
どちらの旦那様のお相手を
したらいいのでしょう?
 
 
抑揚のない声が部屋にこだまする
 
 
そうだな
まずは座るとするか
 
 
チェヨンは席に着いた
アン・ジェは向かい側に座り
ウンスの目に
よく似た気ている気がした妓生が
チェヨンに盃を渡し酒を注ごうとした
 
 
酌はいらぬ
飲みたい時は自分で注ぐゆえ
 
 
無愛想にチェヨンは言った
 
 
え?でも
旦那様をもてなすように
きつく言われています
ご機嫌を損ねぬようにと・・・
 

しなだれかかろうとする女を
跳ね除けチェヨンは言った

 
相手をさせようなど
最初から思ってはおらぬ
尋ねたいことがあっただけだ
 
 
女は怪訝な目をして
チェヨンを見つめた
今まで妓楼で出会った男たちは
大抵 無礼で乱暴で
自分の欲望を
満たすことしか考えていないような
ここにいる女たちを蔑むような
そんな輩ばかりだった
 
 
そなた 官奴婢と聞いたが
なぜ官奴婢になったのだ?
 
 
どうしてそんなことを?
あたしたちのことなんか
旦那様にはどうでもいいはず
それより酒を
どうぞお飲みください
あたしたちが主人に叱られますから
 
 
今度はアン・ジェに
しつこく勧める女の酌を
チェヨンは手で制した
 
 
話を聞いておらぬ
 
 
まさかチェヨン
これに
毒でも入っているのか?
 
 
アン・ジェの冷ややかな問いに
女は首を振った
 
 
そんなことはいたしませんよ
確かに 
チェヨン将軍を恨んだことも
ありますよ
けれども
どの道敵う相手じゃないし
あたしたち
諦めることには慣れっこですし
 
 
吐き出すような言い方に
チェヨンが聞き返す
 
 
はて恨まれるような
心当たりはないが
俺を恨んでいるのか?
お前に会うのは初めてのはず
 
 
だって今
あたしたちが官奴婢なのは
チェヨン将軍のせいだから
 
 
俺のせい?
だからあのような目をして
訴えるように俺を見たのか?
 
 
女は黙った
 
 
昔似たような目を見たことが
あったのだ
怯えたようなそれでいて
すがるような 切ない目を
ゆえに気になったまでのこと
その女人はどんな状況でも
諦めると言うことを
知らぬ女人であったが
お前たちは違うようだ
深くは聞かぬ
俺たちはこれから決戦の身
ここに用はない
陣営に引き上げるまでだ
行くぞ アン・ジェ
 
 
待って 待ってください
その女人は
今はどうしているのです?


女は聞いた
 
 
相変わらず諦めの悪い
困っている人を放っておけぬような
気高い女人だ
 
 
その女人って?


ああ  今は俺の妻


では医仙様ですか?
医仙様は慈悲深いお方だと
聞いたことがあります


ああ
困っている人の前を
素通り出来ぬ女人ゆえ
いつもはらはらさせられるがな


じゃあ
本当にお偉い旦那様たちが
あたしたちの話を聞いてくれるの?
 
 
チェヨンは頷いた
 
 
話してみよ
 
 
女は堰を切ったように
話し始めた
 
 
あたしたちはもともと奴婢で
貧しい村で細々と
家族で身を寄せ合って暮らしていたんです
でも養女にしたいって人が突然現れて
食べるものにも事欠く有様だったから
綺麗な衣を着て
うまいものが食べられて
家族も助かるって言われたら
その気になってしまって・・・
あたしが馬鹿だったんだけど
でもそいつの屋敷には
そんな女たちがたくさん
集められていました
それからあちこちに嫁がされ
風の便りに
幸せになった子もいれば
さらに不幸になった子もいて
あたしは側女として
都から来た役人に差し出され
住むところや食べるものには
困らなかったけど
その養父がある日
都で謀反の罪に問われた途端
関わるのはごめんだって
そこを追い出され
官奴婢として
妓楼に売り飛ばされました
この子たちも
似たり寄ったりの身の上です
 
 
女はぐるりと他の妓生を
見渡して息を吐いた
 
 
養父を謀反の罪で裁いたのは
チェヨン将軍だと
妓楼の客に聞いて
あいつが捕まらなきゃ
官奴婢になることもなかったのに
いいや   
結局はあいつの口車に乗せられた
あたしたちが馬鹿だった
側女も地獄 此処も地獄
里に帰っても食べていけないから
やっぱり地獄


吐き出す言葉に諦めが滲む
 

これってもしかして?
城壁崩落事故の
あの謀反人のことか?
あいつが世話した女たちが
今は妓楼にいるって?
チェヨン 
お前
感づいていたのか?
 
 
先に口を開いて尋ねたのは
アン・ジェだった
 
 
*******
 
 
『今日よりも明日もっと』
「頑張ること」と「諦めること」は
どこか似ているかもしれない
どちらもギリギリまで進んで
次の道を探している
 
 
 

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