お船の遊び場は騒然としていた
 
ブランコ遊びをしていた公主様が
うっかりブランコから落ちて
膝を擦りむいたのだ
怪我自体は
たいしたことはなかったが
一斉に叫んだ女官たちに
公主様が驚いて大泣き
 
お付きの女官たちは
自分たちの不注意に青くなり
大妃様は泣いている公主様を
抱きしめてあやし始め
チェ尚宮は
医官の差配に忙しく
ポムはつられて泣き出した
息子のミョンに気をとられ
みながわたわたとしている最中
 
タンの姿が消えた
 
武閣氏のジュヒでも
いてくれたら良かったのだが
あいにく非番で
その場にいなかった
 
泣いていた公主様が
やっと落ち着き
やって来たチェ侍医が
怪我の手当てを終え
皆がほっとした頃になって
タンがいないことに
チェ尚宮が気づいた
 
 
タンは?
姿が見えぬが
ポムや   そなた知らぬか?
 
 
先ほどまでそこにいたでする
若様?あれ?いないでする
どうしましょう
まさか刺客に連れ去られた!
 
 
刺客が連れ去ったならば
いくらなんでも
気配がわからぬ我らではない
 
 
うろたえたポムに
チェ尚宮が言った
 
 
でも
若様は?
 
 
わからんが
一人でそう遠くには
行けないだろう
その辺りを一緒に探しておくれ
 
 
チェ尚宮はタンの行方を
心配する大妃様に
大丈夫だと言って
怪我をした公主様と居所に
戻るように促し
精鋭の武閣氏を護衛につけた
 
チェ尚宮は大妃様たちが
帰られたのを見届けてから
あたりを探し始め
手の空いている武閣氏にも
捜索に当たらせた
 
 
若様〜
タンや〜
 
 
探す声がそこここで響いている
王宮には 池もあり
少し行けば川も流れ
武術の鍛錬場では刀や槍が飛び交う
しかも広大な場所だ
考えてみたら幼子には
危険な場所ばかりだと
チェ尚宮は徐々に
心拍が上がるのを感じ
一瞬でも目を離した自分を責めた
 
 
タンにもしものことがあれば
ばぁばは生きていけぬ
ヨンやウンスに詫びきれぬ
タン   どこじゃ?
 
 
その頃タンは
大きな銀杏の木の根元に
うずくまって休んでいた
 
お船の場所には
何度も来たことがあり
そこから
典医寺がそう遠くないことも
タンは知っていた
だがそれは輿に乗ってのことで
母親ウンスと歩いた記憶を頼りに
タンは典医寺を目指したが
タンの足ではあまりに遠かった
そしてとても疲れてしまっていた
 
 
おんまぁ
あっぱぁ
ふな〜〜
たん ここよ
 
 
足元に転がる銀杏の実の
独特な匂いが臭く
タンは何度も鼻をつまんだ
はらはら舞い落ちる
黄色い綺麗な葉っぱすら
目に入らない
 
銀杏の大木のそばに
タンは木造りの門構えの
大きな建物を見つけた
そっと覗いてみると
中から怒号のような声が聞こえ
寒空の下
裸の大男たちがぶつかり合っていた
その迫力にタンはびっくりして
鬼か魔物の鍛錬場かと
後ずさると
くるんと後ろを向いて
駆け出した
 
 
なあ
今 なんか
門の辺りを
横切らなかったか?
 
 
ウダルチの新人チソンが
周りに尋ねた
 
 
さあ?
カラスかなんかじゃないか?
 
 
そこへウダルチ隊長の妻ポムが
息を切らして駆け込んで来る
 
 
だ  だんなさま
いえ   隊長に取り次いで
大変でする
大変なの!
 
 
表の騒ぎを聞きつけて
隊長のチュンソクが
兵舎から出て来た
 
 
どうしたのだ?ポム?
 
 
旦那様!
どうしましょう
ポムのせいでする
ポムが目を離したから
 
 
泣きじゃくるポムの肩を
ポンポンあやすように
チュンソクはポムをなだめ
そばにミョンがいないことに
気がついて尋ねた
 
 
ミョンに何かあったのか?
 
 
違いまする
ミョンは女官のオリさんに
預けて来たでする
大変はミョンではないでする!
若様が   若様が!
いないんでする!
 
 
なに?
若様が!
チソンたち
新入りそこに いるか?
 
 
はっ   隊長
 
 
若様がいなくなった
王宮内で迷子になられたのかも
知れぬが
戦の最中
刺客にさらわれた可能性もある
新入りで手分けして探せ
万一に備え俺は康安殿に向う
 
 
はっ  じゃあ
もしかして?さっきの影は
若様?かも?
 
 
チソンははっとしたように
走り出し
チュンソクはポムに言い含める
 
 
ポム
泣いておらずに若様を探すのだ
医仙様とよく訪れた場所とか
そうだ典医寺!
あそこに人はやったのか?
 
 
はいでする
でもいなかったの
 
 
では向かっている途中かも
知れないな
康安殿の道すがら
俺も探しながら行くから
ポムはもう一度典医寺へ
 
 
はい 旦那様
きっと見つかりすよね?


当たり前だろ
 
 
ポムは安堵したように
チュンソクを見つめ
再び駆け出した
 
 
その頃タンは


見覚えのある庭園の石橋の上で
膝を抱えて座っていた
頑張ってここまで走って来たが
出迎えてくれる母親も
えらいぞと頭を撫でてくれる父親も
誰もいない・・・
 
 
おっとけ〜
おんまぁ
ぺごぱ よ〜〜
 
 
おやつをもらう前に
遊び場を
飛び出していたタンは
空腹だった
北風が吹いて
指先がじんじん冷えた
 
 
おんまぁ
あっぱぁ
たん よ〜〜
よぎ(此処)・・・たん よ
 
 
泣きたい気持ちを我慢して
タンは空を見上げた
この空は父上につながっていると
母親が言っていた空は
どんよりと雲がかかっている
 
 
丁度そこへ通りかかったのは
王妃様のところで
公主様の怪我の報告と
王子様の診察を終え
典医寺に戻る途中のチェ侍医だった

 
チェ侍医は石橋の上に
一人でいるタンをすぐに見つけた
 
 
若様
どうされたのです?
お船からは随分と遠いでしょうに
 
 
タンはぐっと拳を作って
目をパチパチ瞬かせ
チェ侍医を見つめた
 
 
こんなところに一人でいたら
きっと大騒ぎになっていますよ
お船まで送っていきましょう
 
 
や〜〜よ〜〜
 
 
 
 
たん ちょにしぃ(典医寺)
いくの
 

チェ侍医は不思議そうに
タンに答えた

 
医仙様ならば
典医寺にはおりませんよ
 
 
タンはわかっていると
言わんばかりに首を振る
 
 
たん とる(石)
おんまぁに あげるの
ちょにしぃ
いくの
 
 
タンは典医寺の中庭に
つやつやして綺麗な
白い石が敷き詰められていることを
知っていた
その石で遊んだこともあるタンは
それをウンスのお土産にしようと
典医寺を目指していたのだが
広すぎる王宮で
道に迷ってしまったのだ
 
チェ侍医は
タンが石を集めていることを
知らなかったので
何をしに典医寺に行きたいのか
よくわからなかったが
いじらしいほど一生懸命なタンが
愛しくて 
冷たいタンの手を
両手で包んで温めながら頷いた
 
 
わかりました
では
典医寺にお連れいたしましょう
ですが
きっとチェ尚宮様も
ご心配されているはず
まずは
若様のご無事を知らせなくては
 
 
チェ侍医の声が
少しだけ
父親チェヨンの声に似ている気がして
タンはほっとしながら
こくんと頷いた
 
 
*******
 
 
『今日よりも明日もっと』
歩き出そう
ちょっとの勇気と
羽の生えた靴を履いて
 
 
 
 
カムサハムニダ〜照れ

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