川のほとりにある
旅籠の主人は
出て行ってすぐに
戻って来た
泊まり客の男達を
驚いたように出迎えた


皆様どうされました?
商談が
上手くいかなかったとか?


男達は主人の問いには答えず
宿を引き払うから
前金を返すように告げた

元国の商人だと
おかしな訛のある言葉で
主人に言っていた
一番年配の男の姿はなかった

カネ払いのいい長逗留の上客で
旅籠にとっては有り難い客
余計な詮索はしなかったのだが

昨夜の夕飯時
その年配の男の方から
思いがけないことを
尋ねられたのを思い出した


チェヨン将軍とは
どのような男であろうか?


チェヨン上護軍様ですか?
そうですねぇ
まあ
都では愛妻家で有名ですね
側室はもたず
可愛い盛りの若様がいて
円満にお暮らしのようですよ
都での評判もいいですし
政も武士としても
こうなんていうか  まっすぐで
でもまたなんで?


いや
商いには後ろ盾が必要
チェヨン将軍はどうかと
思ってな


それは無理な相談
やめた方がいい
清廉潔白なお方だから
後ろ盾とか賄賂とか
そんな噂を聞いたことがない


そうなのかい?


はい
奥様がまたいいお方で


イサの爺やは饅頭屋の前で
見かけた女人のことだと思った
どこかイサの母親
奥方様に似ていた

饅頭屋にいた爺やが
イサを見つけ
心臓が潰れるくらい驚き
生きていたうれしさで
いっぱいだったのに
イサは女人と笑い合って
自分のことには
気づかなかった

いつも気を張り詰め
気配に敏感に生きていた
イサとは別人だった


実は
ここだけの話ですが
離縁した前の女房が
チェ家の奥女中なんです


旅籠の主人は急に言った


え?なんだって?


若気の至りで追い出した女房
ずっと気にかけて
いたんですが
今じゃ奥様に大事にされて
幸せに暮らしてるって
風の便りに聞いたんですよ
使用人にまで
お優しいなんて
さすが医仙様だ


そうかい
二人とも
都での評判はいいんだねぇ


そんなことを言ってたから
まさかチェヨン様に
商いでもふっかけて
お叱りを受けたのかもしれないと
旅籠の主人は思った


男達が出て行った後に
旅籠を訪ねて来たのは
ウダルチの隊長チュンソクと
テマンだった
二人は間者を追う衛兵から離れ
密かにこの隠れ家に辿り着いた


いいか   テマン
間者を下手に捕まえたら
何を暴露されるかわからん
逆に上護軍の命取り
見極めねばならんぞ


イェ
隊長


二人は間者が船に乗り
都を離れたのを
見届けてから
旅籠に戻って来たのだ


主人
今しがた出て行った客は
何処のどいつだ?


主人はウダルチ隊長の
お出ましに
びっくりした様子だったが


へえ
隊長様
元の国から来た商人って
言ってました


チュンソクは


元の国の商人か
主人
役人にいずれそのこと
証言して貰うかもしれぬ


そう言うと
旅籠を後にした


━─━─━─━─━─


典医寺には騒ぎを聞きつけた
チェ尚宮の姿があった

タンの無事を確認すると
普段は表情を崩さない
チェ尚宮が
涙を流して喜んだ


だからもっと警備を
厳重にと常日頃から
言うておるのに
そなたが呑気だからじゃ


安心したチェ尚宮の
久しぶりのお小言が
ウンスは
なんだかうれしかった


いえ
これだけの警護がいたから
大事には至らなかったんだと
思います
叔母様のおかげです


ウンスが言うと
チェ尚宮は
照れたのと   
また涙が浮かんで来たのとで
ふいと横を向いた


ネ〜〜


タンがチェ尚宮の手を握り
笑って応える


まったく
タンにはかなわぬぞ
よかった   無事で
ほんとに良かった
王妃様は
回診はよいから
ゆるりと休むようにと仰せじゃ
たいそうお心を痛めたご様子
私ももう持ち場に戻るとしよう


はい
叔母様
ここが落ち着いたら
伺いますから
王妃様にそうお伝えくださいね


チェ尚宮は頷き
タンと名残を惜しみながら
戻って行った


典医寺の中庭では
仲間のサラやオ・アムや
トギやチェ侍医が見つめる中
役人がイサを連行しようと
していた
が    そこに
チェヨンが立ちはだかった


そなたたちも
聞いたであろう?
死に際の男の言葉を
賊とイサは無関係
倭国の言葉を話したのが
咎になるというのか?
誰がなんのために密告したのか
調べれば
はっきりするであろうが
策略ならば
これ以上は刑部には
任せられぬ
この件    集賢殿預かりとする


王様直属の密命機関
集賢殿のチェヨンに
役人が逆らえるわけなどなく
退散するしかなかった


イサの爺やの亡き骸も
運びだされ
人が散り
辺りは閑散とした

イサはチェ侍医と一緒に
休憩室にいた
泣くことも忘れて
じっと座っていた

こんな事件の後
ウンスは典医寺の皆の
動揺を鑑み
今日は臨時休診として
皆を早く帰らせることにした
自分も
チェヨンがそばにいなければ
倒れてしまいそうだ


イサ
チェ先生
ちょっといい?
 
 
はい  医仙様


チェ侍医が答えると
ウンスと
チェヨンと
チェヨンに抱っこされたタンと
三人が休憩室に顔を見せた


チェ先生ありがとう
イサのそばにいてくれて


ウンスはチェ侍医に言った


何もできませぬが


ウンスは首を振る


こんな時は誰かにそばに
いて欲しいもんよ
ただ    そばにね
イサ
ごめんね
イサの大事な人だったん
ですってね
助けられなくてごめんなさい


ウンスはイサの前に座り
言った


毒の分析をするって言って
預かったの
これしか遺せなくて・・・
亡き骸は持っていかれたから


ウンスは手にしてた
紙をイサの前に広げた
それは爺やの髪の毛の束


ありがとうございます
最後まで助けようとしてくれて
チビ助に酷いことしたのに


イサは肩を震わせた


イサのことを
守るのに必死だったのよ


白髪交じりの髪の毛だけ遺し
いなくなってしまった爺や


イサの背負った宿命を
解き放ってやって欲しいと
屋根の上でそう託された


チェヨンが口を開いた


爺やがそう言ったのか?


ああ
倭国では辛い思いが
多かったからと


爺やは
オレの為に死んだのか?


イサを生かす道を
選んだのだ
その想いを受け止め
イサは生きていかねばならぬ
険しい道かも知れぬが
前に進まねば


ウンスは微笑んで
イサに言った


大丈夫   
ケンチャナ
私もヨンもタンも
チェ先生も
みーんなついてるわ
イサは一人じゃないからね


ネ〜〜


イサはぎゅっと
髪の毛を抱きしめると
その場に泣き崩れた


*******


『今日よりも明日もっと』
人の心の暖かさ
人の心の尊さを
教えてくれた大切な人





☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*



12月になりました
今年もあとひと月
気ぜわしい年末ですね

すでに
晩秋と言うより初冬ですが
「ぎんなん実りて」
もう少し
おつきあいくださいませ


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