ヘジャはソクテとともに
表向きは飯屋と宿屋の
情報屋スリバンの根城
マンボの店を訪れていた


なんだい 二人揃って
のろけに来たって訳かい?


ふんと鼻息も荒く
マンボ妹がヘジャに言った


ああ そうさ
奥様のご命令でね
うんと見せつけて来るように
言われたからね


ヘジャが笑って言い返す


ふ〜ん そうかい
それならあたしにうんと
お礼してもらわなくちゃね
なんたってこの男を
探し出したのはこのスリバンさ


どうせお礼ならたんまりと
チェ尚宮様からせしめたくせに


ヘジャは苦笑した
だが少し真面目な顔をして
マンボ兄妹に向かって言った


ほんとに探し出してくれて
ありがとよ


そうさ そうこなくちゃ


マンボ妹はかかかっと
笑って言った


さてと 結婚のご祝儀だ 
クッパ食うか?


じりじりと陽射しが照りつける
夏の昼間


気持ちだけ
有り難くいただくよ
だが長居は出来ないんだ
屋敷にもどんなきゃ
いけないんでね


そうかい
そりゃ 残念だ
医仙にもたまには
顔を見せろって言っておくれ


あいよ
それはそうと・・・


なんだい?


あんたから預かった
ミヒャンだが・・・


なんかやらかしたかい?


いや まあ
はじめはどうなることかと
思ったけれど
いまじゃ 庭の花の手入れを
任せているさ
気働きは出来ないけど
言われたことは
一生懸命だしね


そうかい
あんたに預けて正解だった
うちに置こうかとも
思ったんだが
あの器量だろ
飯屋の女にすると
酔っぱらいに絡まれて
いらん騒ぎを引き起こすし
スリバンとして働かせるのも
まず無理だしね
お屋敷においてもらうのが
一番いいと思ったのさ


子供もいるだろ?
育児園に預けているって
聞いたんだ


あれ 自分で言ったのかい?
それはよかった
どうしても伏せて欲しいと
頼まれてね


そうなのかい


ああ あたしも詳しくは
聞いちゃいないんだけど
もともとは
大きな商団の苦労知らずの
お嬢様さ
羽振りがよかった頃も
あるんだよ
うちも先代には
商売で世話になったからね
それでミヒャンとは顔なじみ
だったってわけさ
だが 婿入りした
やり手の旦那が
急に死んじまって
そこから商いが傾いて
しばらくは親が遺した
蓄えもあったんだろうけど
なにせ 世間知らずの
お嬢様だろ?
だまされた挙げ句 
家も取られてね
それで娘を育てるために
奉公に出始めたんだ


なんだか
大変な苦労だね


ああ あたしも詳しくは
聞いてないんだよ
本人が言うのを
嫌がったからね
ちらっと聞いた話しだと
なんでも奉公先の
旦那があの子を側室にって
所望したらしいんだけど
それを知ったそこの奥様が
嫉妬して怒ってみせしめに
あの子の大事な娘を
売り飛ばそうとしたらしいよ
それでその屋敷を飛び出して
それから逃げるように
あちこちで住み込みしたって
言ってたけどね
どこもいじめられたり
おいだされたりでね
途方に暮れて
道端で泣いてたところに
偶然行き交ったのさ
泣いてるおっかさんの袖口を
握って じっと立ってる
子供が不憫に見えてね
それで あたしが拾って
ちょうど女中を探してた
あんたに引き渡したってわけさ


なんてこった
あんたに出会ってなきゃ
どうなっていたことか
だから娘がいることを
隠したのか・・・
事情を言ってくれたら
もっと早いうちから
親身になれたのに・・・


すまないね
事情を話して腫れ物に
さわるようにされるより
本人は 
もう他人を信じられない
ようだったから
あんたんとこの天女に
ゆっくり
心を暖めてもらうのが
先かと思ったんだよ


まあ そうかも知れないね
それにしてもなんて屋敷だ
奥様が知ったら
文句を言いに相手の屋敷に
乗り込んで行きそうな
話しじゃないか


ああ そうさなぁ
医仙は困っている者を
放っておけないたちだしな


マンボ兄がふむふむ頷いた


仔細はわかった
あたしから
かいつまんで奥様には
ご報告しておくよ


ああ そうしな
ヨンもお役目が大変そうだし
医仙にはあんまり余計な
気苦労をかけたくないしね


そうだね
旦那様は毎日お帰りが遅くて
お疲れのようだ
ご夫婦仲は以前にも増して
いいけれどね


それを聞いたマンボ兄は
くくくっと笑い


じゃあ 次が生まれるのも
時間の問題だね


マンボ妹はにやりと言った


マンボの店を後にして
市を通った
土産の饅頭を買い込んで
ソクテと二人で
ふらふらと見物しながら
屋敷に向かう

マンボの店では
じっと話しに耳を傾けて
何もしゃべらなかった
ソクテが
静かにヘジャに言った


ミヒャンからも事情を
聞いた方が
良さげな気がするが


そうかい?


ああ チェ家の人間は
信用出来るって
わかっただろうし
心のしこりを取除くにゃ
本人が話すのが
いちばんさ


そうだねぇ


それきり
また黙ったソクテは
通りにある小間物屋の前で
立ち止まった


なんだい?簪(ピニョ)?
綺麗だねえ


小振りな紫水晶の珠が
いくつかついた
簪(ピニョ)を
ヘジャは眺め思い出したように
うれしそうに言った


奥様と旦那様が
そろいのこの珠の数珠を
してらっしゃるだろ?


ああ


あれ 旦那様みずから
奥様のために作ったんだよ
奥様はほんとうに幸せだよね
そこまで思われてさ


あ ああ
そうさな・・・
俺には作る技量はないけんど


ソクテは頭を掻いた


ふふ
そんなこと望んじゃいないよ
あたしはあんたが
そばにいてくれりゃ
それでいいんだ


そうさな
だが ヘジャも簪くらい
さしても構わねえよな


へ?
あたしがかい?


ソクテはヘジャに簪を挿し
店の主人に言った


これをくれ


え?ええ?
ヨボヤ 
そんなもったいない
いいんだよ あたしゃ


ヘジャは頬を上気させて
ソクテに言う


奥様が俺に給金を
くださったんだ


え?直接?


ああ
ヘジャをよろしく頼むってさ
奥様に言われなくても
そのつもりだがな


チェ家の奥向きの家計は
この時代の経済に弱い
ウンスに代わって
チェヨンが禄を管理して
奥の暮らしに必要な金額を
ヘジャに渡していた
ヘジャはそれを食費に使い
その残りで
女中達の給金や自分の給金や
雑費に充てていた
そしてウンスの禄は
ウンスが
好きなように使えるよう
チェヨンは差配していた

ウンスは育児園に寄付したり
雇い入れた
典医寺の下働きのものの
給金に充てたりと
自分のものを買うことには
使わずに
チェヨンや周りの者のために
使っているようだった

その禄のなかから
今度はソクテにも給金を
渡したようだった


きっとこれは奥様のご配慮
だからヘジャのために
使おうと思ってな


ソクテは有り難そうに呟いた
こうして
遠慮するヘジャを押し切って
紫水晶の簪は
ヘジャの頭に収まった


夏の陽射しに輝いて
ヘジャの笑顔のように
紫の珠がきらきら
光っていた


*******


『今日よりも明日もっと』
幸せは想わぬところから
そっと近づいて来る



☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


紫水晶の石の言葉は
以前にも書いたような?

「真実の愛」「誠実」など 
愛の守護石です(///∇//)
今のヘジャとソクテにも
ぴったりの石かも?うふふ


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