ヘジャはなんだか
落ち着かなかった
着慣れないチマチョゴリも
そうだし
いつもは差すことのない
紅もそうだし
簪もやめておけばよかったと
後悔した

着飾っても奥様のように
美しくなれるわけもないのに
期待した自分に失笑する
ソクテは振り返ることもなく
ヘジャとオクリョンの
前を歩いていた

旦那様が奥様に
いつも言うような
「綺麗だ」なんて言葉
望みはしないけど
せめてどう思ったかぐらい
聞かせてくれても
良さそうなものを
そういや 昔から
愛想がなかったっけ・・・

ヘジャは前を行くソクテの
背中を見つめた

ウォンはポム贔屓がすっかり
オクリョンに宗旨替えのようで
オクリョンの隣に並んで
ちらちらと見ている

四人とも
もともと口数が少ない方なのに
いつも以上に
静かにただひたすら
市を目指して歩いていた

人通りが多くなり
小間物屋や金物屋
絹屋に食べ物屋と
多くの店が並んだ通りに
さしかかる

まだお昼前だというのに
そこそこ混んでいる
市の広場では
ウンスから聞いた通りの
サンダンペ(旅芸人)が
剣舞を舞っていた
華やかな衣装に 太鼓や笛
そこだけひときわ賑やかで
人だかりが出来ている


オクリョン おらと
もっと前に見に行かねぇか?


ウォンに誘われて
オクリョンはヘジャを見た
ヘジャが頷いたのを確認して
オクリョンはウォンとともに
人を縫うように前へと向かう


ウォン オクリョンを
頼んだよ


ヘジャが後ろから声をかけ
ウォンがにかっと振り向いて
笑った
前で見たい気持ちは皆同じ 
争うように人が前へ押し寄せ
ヘジャは後ろから男に
どんと押されよろめいた
その肩をぐっと掴む
大きな手


気をつけろっ


ぶつかって来た相手は
目つきの鋭いソクテに
低い声ですごまれ
「すみません」と
すごすご 立ち去った


大丈夫か?
ヘジャさん


これくらい大丈夫だよ


ソクテは自分の腕の中で
囲うように
ヘジャが人波に
揉まれないように庇った
顔が近いソクテを
まともに見ることが出来ず
ヘジャが困っていると
急に手首を掴まれた


へ?


あっちが空いてるから


ソクテは人混みから
ヘジャを連れ出すと
反対側に回り込む
掴まれた手首が痛んだが
それ以上に
自分の鼓動が激しく
耳に響いた
いたたまれずに
顔をしかめると
ソクテははっとしたように
その手を離す


すまない


大丈夫
頑丈なだけが取り柄だから


そう言ってヘジャは
手首を振った


そんなことないさ


慰めてくれなくていいよ
奥様の白魚のように
美しい指先を見てから
ささくれだった
ごつごつのこの手を見ると
同じ女に生まれて
どうしてこうも違うもんかと
思っちまう


ヘジャさんの手も
いい手だよ
一生懸命 働いてきた
いい手をしてる


ソクテはそれきり何も
言わなかった
サンダンペを挟んだ
人だかりの最前列には
満足そうなウォンと
楽しそうなオクリョンが
ヘジャに手を振っている


話題を変えるように
ヘジャが


あの子ら 
あんな前にいって
ウォンもやるもんだね


と くすりと笑った


そうさな ウォンのやつ
オクリョンに見惚れていたし
前で見せて
やりたかったんだろうさ


ソクテが二人を見ながら
ヘジャに答えた


いいねぇ
若い子は


うっかり口が滑って
ヘジャはどきりとした
ソクテは特に
気にした素振りも見せず
ヘジャを見て言った


ヘジャさんだって
十分若いさ


へ?
からかうのは
やめておくれ


ヘジャは
ぼそりと呟いた


そのかっこ
よく似合っているから
そのぅ・・・


ソクテは
やっとそれだけ言うと
また前を向いた


そのぅ? 
その続きは?
何がいいたいのさ?
と ヘジャは内心思ったが
尋ねることは出来なかった

剣舞が終わり
見物人がさあっと引けて行く
オクリョンは頬を上気させて
ヘジャのもとに戻って来た


ヘジャおばちゃん
すごいね~
あたし初めて見たわ


そうかい
旦那様や奥様に感謝するんだよ
こんなによくしてくださる
奉公先はそうそうないからね


うん ほんとだねぇ
ヘジャおばちゃん


そういってから
あっと言う顔をして
ヘジャを見た


いいさ 
今日は休みなんだから
ヘジャおばちゃんで


オクリョンはうれしそうに
頷いた


さあて 何か美味しい物でも
食べようかね


うん!


オクリョンが元気に答え
ウォンが楽しそうに笑った


━─━─━─━─━─


ウンスとヨンファは
キム・ドクチェが遣わした
私兵に輿の周りを
警護されながら
目的地に向かった

輿の中で
ウンスは心配そうに
ヨンファに言った


大丈夫かしら?
屋敷には
旦那様と息子だけなのよ


まあ ヘジャさんは?


ちょっと仔細があってね


そうでしたか
そのような日に
申訳ありません


あら それはいいのよ
ヨンファに頼み事されるなんて
滅多にないもの
うれしいのよ


夫と同じことを・・・


ヨンファは顔を赤らめた


キムさんと?


はい 
滅多に甘えることがないから
頼み事をされるのはうれしいと
それで昨日も王宮から戻り
急遽お屋敷に伺うことに・・・
突然失礼致しました


いいのよ~
うふふ いい旦那様じゃない


はい 
私には過ぎた旦那様です


いいじゃないの
その旦那様が
ヨンファのことしか
見えないっていうんだもの


旦那様に 甘えても
本当にいいんでしょうか?


ヨンファは一度
ゆっくり息を吐いてから
ウンスに言った


私は親を知りません
小さな頃は寺で育ち
幼くして王宮に奉公に上がり
チェ尚宮様に拾われて
武閣氏としてなんとか
生きてきましたが


ええ


いつも自分の居場所を
守ることに必死でした
ですから
生まれながらに
良家のご息女のポムや
天からいらした医仙様が
うらやましくて・・・
どうあがいても
安住の場所は
手に入る訳ないって
諦めていました
でも旦那様に出会って
もしかしたら私も夢を見ても
いいのかなって


そうよ 
キムさんのそばにいることが
ヨンファの安住の場所よ


いえ ですが
私は生まれついての
自分の身の丈を
嫌と言うほど知っています
だからいくらパク家の養女に
なったとは言え
こんな私が旦那様のお側に
いてもいいんだろうかって
いつもその想いに囚われて
旦那様に
迷惑をかけないように
嫌われないようにと思い
上手に甘えることも出来ず
とにかく
跡取を生まなくちゃって
自分を追いつめてました
そうしなきゃ 
また自分の
居場所を失うかもって
それが怖くて怖くて・・・


ウンスは
ヨンファが生きてきた
この時代を思った
自分が考えている以上に
厳しい時代だ


ですが医仙様
ヘジャさんと話をして
ああ 旦那様のことを
私は本気で好いているんだな
その気持ちを大事にしなくちゃ
いけないなあって
そう思ったら
なんだか霧が晴れた気が
したんです
それで
包み隠さずに旦那様に
自分の気持ちを伝えました
身分違いを気にしていたことも
自分を卑下していたことも
ポムがうらやましかったことも
本当は
旦那様の隣に側室がいるのは
耐えられないってことも
でもそれを言えなかったことも
そして本当に
旦那様のことが愛おしいことも
そうしたら言ってくれたんです
お前の次はいないって
だから側室は はじめから
娶るつもりはないと言ってある
夫を信じられないかって


そう 
よかったわ 
ヨンファが素直に自分を
さらけだせて
それをキムさんが
受け止めてくれて


はい それで
旦那様と話をしているうちに
ふと思ったんです
私のような境遇の子供達の為に
私なりに何か出来ないかなって
そして 
自分の幸せは自分で掴めるんだよ
ってことを
その子達に伝えられたら
いいなって・・・
旦那様も屋敷で塞ぎ込んで
いるよりも それはいいって
大賛成してくれました
それで医仙様にお口添えを
お願いした次第で


ヨンファは頭を下げた


うん 素敵な考えだと思うわ
きっとキンスさんも
受け入れてくれるわよ


太陽が真南に昇る前に
二人を乗せた輿は
目的地である
育児園に到着した
園の中から子供達の笑い声や
赤ん坊の派手な泣き声が
響いて聞こえ
ウンスは屋敷に残して来た
タンと夫のチェヨンの顔を
思い浮かべていた


━─━─━─━─━─


『今日よりも明日もっと』
綺麗事だと思われたって
自分の道を歩いて行きたい


☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*

また
おつき合いくださいませ


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