春の光に包まれた
ウンスの立ち姿が鏡に映る

中庭の山桜の花が
ぱあっと咲いたように
きらきら美しいウンスに
チェヨンは見惚れていた


なあに?


振り向く
ウンスの甘い問いに
わざと知らんぷり


なによ
何か言いたそうだわ


妻となったウンスに
見つめられると
未だに心臓が高鳴り
照れ臭くて仕方ない
だからつい
ぶっきらぼうに言ってしまう


そんなに着飾るな


え?
着飾ってないわよ
それにこれは
典医寺の衣じゃない
おかしな人ね


白い生地に
紫の縁に彩られた
あまり飾り気のない衣を
身にまとって
ウンスがくすりと笑った

ころころ変わる表情を
惜しげも無く見せては
惑わす天女


鏡の前には
山桜と同じ色をした
紅が置かれていた

天界の口紅を
使いきってしまったと
寂しそうに言っていたから

うれしそうな顔が見たくて
幸せそうな顔を
抱きしめたくて
密かに
市で探して買い求めた紅

渡した時の弾けるような
笑顔を思い出し
チェヨンは気持ちが
ふんわり暖かくなった

ウンスは小指の先に
ちょんと紅をのせると
口元に色を乗せていく

ほっそりした指のその先が
器用に筆の代わりに
唇に色を塗る

鏡越しに見えるウンスが
あんまり綺麗で
誰にも見せたくなくて
チェヨンは
つかつかと近寄り
ぐいぐいと唇を合わせた


やだ
口紅がとれちゃうわ


チェヨンを押しのけ
ウンスが言った


俺より紅か?
誰に見せるのだ


今度は
チェヨンが拗ねた


うふふ
駄々をこねないで
ヨンの唇も櫻色よ


ウンスがはにかみ
人差し指で
チェヨンの唇を拭う


ほらね
付いたでしょう?


指の先についた紅を
見せて
その紅をまた自分の
口元にさした


ついても
構わぬ


その仕草が愛しくて
塗り直したウンスの口元に
また口づける


んんっ
駄目よ   ヨン


可愛い吐息が漏れ
聞こえ
朝だというのに
我慢しきれず

チェヨンは
ウンスの首筋を櫻に染め
白い肌に紅をつけた


ひどい人
出仕の時間なのに
行けやしないわ


身をよじるウンスの
肌にチェヨンの唇は
さらに激しく吸い付き
ウンスのからだに
紅を差す


ヨン
もう降参よ


とろんとした目のウンスを
チェヨンは大切に抱き上げると
急いで寝台に逆戻り


また遅刻しちゃう


そう言いながらも
ウンスは優しく
チェヨンの背に腕を回した

着たばかりの衣を
また脱がせ
なめらかな肌と肌とを
さわさわと触れ合わせると
ウンスの紅色の胸の先に
唇を寄せた

互いのことが
もっと知りたくて
互いのことが
もっと欲しくて
もっと
そばに近づきたくて

二人きりの屋敷の閨で
ありったけの想いを
チェヨンは
ウンスに刻み続けると
高ぶる声が調べとなって
つややかに耳に届いた

やがて    
くたりとしたウンスの
紅をさしたように
上気した柔肌の上を
春の穏やかな風が
心地よく吹き抜け
しなやかな髪を揺らした

チェヨンは
新妻をもう一度胸に抱くと
満足そうに  
ウンスの首についた櫻色の印を
指でなぞって言った


ウンスや
愛してる


*******


『今日よりも明日もっと』
あなた色に
染めて欲しい







☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


本編のお話から
ちょっと気分転換(*^.^*)
またまた短編を
櫻の季節に合わせて
描いてみました

お楽しみいただけたら
うれしいです
そして本編にも
また
おつきあいくださいませ

週明けです
皆様
安寧にお過ごしくださいね