吐く息が真っ白になる
寒い1日だった
ウネがお産を手術で終えて
数日が経っていた

ウネは
天界の抗生物質があるわけでもなく
ウネの術後は気の抜けないものだった
ウンスが一番心配したのは
チェヨンと同じ
敗血症にかかることだった
チェヨンのように体力があるわけでは
ないから 一度発症すると
厄介なことになる
ウンスは典医寺の医員達と協力して
傷口に塗る生薬や煎じ薬を用意した

もともと頑張り屋のウネは
起き上がった初日に
痛いとうめいただけで
それからの日々は痛いと
いうこともなく
双子の授乳のことだけ
考えていた
手術のせいか?今までのお産で
苦労したことのない乳が
出なかった
免疫がつく初乳だけでも頑張ろうと
乳を吸い付かせたが
あまり うまくいかなかった

体の回復を優先して
お乳のことは そんなに
気にしなくて良いとウンスや
チェ侍医に言われても
双子に申し訳のない気持ちになった

なかなか
体が回復しない苛立ちもあって
気丈なウネも塞ぎ込む

アンジェは献身的に
ウネを支えようとしたが
もともと武骨な気性
うまく言葉をかけることが
できなかった


たまたま回廊で行き交った
チェヨンに
アンジェはこぼした


しみじみ
お前はすごい奴だと思うぞ
嫁のことも気遣い
しっかり役目も勤め上げ
しかも
息子もお前が取り上げたとか


ああ
おまけにお前の嫁の出産にまで
立ち会う羽目になったぞ


チェヨンはふっと笑った


そうだったな


アンジェがつぶやき
話を続けた


俺はな チェヨン
正直 ウネに
どうしてやったらいいのか
わからんのだ
ウネはいつも文句も言わず
よく働く女だったゆえ
家のこともこ育ても任せきりで
簪の一つも買ってやった覚えがない


そうか?


ああ 放っておいても
いつも元気でおったしな
あんなに塞ぎ込んでいるウネを
見るのは 初めてなんだ
だからどう言葉をかけたら良いか
わからんのだ


ああ 
ウネが気鬱になりかけていると
うちのも
ひどく気にしておったぞ
おかげで 毎日典医寺におる


チェヨンはわざと
軽口を叩くように言った


それはすまんな


アンジェの返答に
チェヨンは真面目な顔をして
言った


だがな アンジェ
病状はうちの奴や
侍医たちが治すであろうが
ウネの気持ちを支えるのは
やはり
お前の出番じゃないのか?
大袈裟なことではなく
そっと手を握るだけでも
「落ち着く」と
うちのなら言うぞ


いつになく雄弁なチェヨンを
アンジェはまじまじと見た


お前 
いつからそんなにいい夫に
なったんだ
昔はなんでも面倒だったろう?


ああ 今でもなんでも面倒だ
それは変わらない


チェヨンは笑った


俺の望みはただ一つ
ウンスとタンと三人で
穏やかに暮らせたら
それ以上何も望まぬ


清々しいほどの言い切りが
アンジェには眩しかった



ウンスはというと
気鬱になりかけているウネを
放っておける訳はなく
チェ侍医が 
まだ乳児のタンを抱えるウンスに
無理のないようにと
毎日 出仕しなくても良いようにと
気配りをしたが


今は ウネさんを支えなきゃ


と 譲らなかった


ウンスの代わりにポムが
タンに付き添っていたが
タンが泣いてもすぐに
駆けつけられないこともある
乳が欲しくて
泣き疲れたタンを見ると
愛しくて乳が余計に張った


ウンスはお乳が出ないウネに
代わって 
双子にも時々乳を分け与えた


乳兄妹ね


ウンスは笑う


ありがとう ウンスさん


いいのよ お互い様だもの
もしも 私のお乳が出なかったら
きっとウネさんが
飲ませてくれたでしょう?


それはもちろんよ


幸い私のお乳は余るぐらい
よく出るし
張って痛いより
飲んでもらったほうが
楽なのよ
ウンミちゃんはまだ力が弱いけど
ウンチェちゃんはよく乳を飲むわ
女の子の双子って可愛いわね
お顔もそっくりだし
ウネさんによく似てる
早く元気になってウネさんも
いっぱい抱っこしてあげなくちゃね


そうね 
わかっているんだけど
なかなか 気持ちが
ついていかないのよ


そういう時もあるわよ
だいたい ウネさん
今まで頑張りすぎなんだから
もっと甘えていいのよ
私なんて 
どれだけヨンに甘えているか・・・


だって
チェヨンはウンスさんのこと
惚れ抜いているからね


あら 私にはアンジェ将軍も
ウネさんに惚れ抜いているように
見えるけど
ただ ちょっと伝え方が
うちの人と違うのよ


そうかな?


そうよ
毎日 時間があれば
病室を覗きにくるでしょう
それにね
ウネさんが寝ている時に
優しい顔して髪を撫でているのを
見たことがあるわ
起きてる時にしてくれたら
いいのにね うふふ


ウンスは笑った
病室の外にも漏れ聞こえる
ウンスの明るい声

様子を見に来たチェ侍医は
戸口でウンスの笑い声を聞きながら


ウネ殿の気力の回復は 
医仙様の陽の気のおかげで
意外と早いかもしれぬ


と つぶやいた


━─━─━─━─━─


陽が落ちて
あたりが薄暗くなった

ウンスはタンを抱いて
ポムとともに
典医寺から邸への道を歩いていた
十六夜の月が空に浮かんでいる


綺麗ね


ウンスが立ち止まり
空を見上げた


はい まことに
綺麗でする


ポムが頷いた
隣で月を見上げるウンスの
横顔に月光が差し込み
タンを抱えたウンスが
ポムには
美しい天女に見えた


イムジャ


チェヨンが自分を呼ぶ声がする


遅いゆえ
迎えに来た
ウネに何かあったのか?


ヨン 来てくれたの?


チェヨンの隣には
ポムの夫チュンソクがいて
優しい顔でポムを見ていた


チュンソク様~
ポムの声も弾んだ


ううん
双子ちゃんにお乳をあげてたの
ウネさんと話をしていたら
帰るのが遅くなったわ
チュンソクさん
ポムを遅くまでお借りして
ごめんなさいね


はっ 医仙様
妻がお役に立てて
よかったです


律儀なチュンソクが答える


チュンソク様~
旦那様~


ポムがチュンソクのそばに
駆け寄りうれしそうに見つめた


帰るぞ ポム


はい!
では 
ポムたちは失礼いたしまする


じゃれつく子犬みたいに
チュンソクのそばを
くるくるまわって
ポムはチュンソクの腕に
腕を絡めながらふたりは
幸せそうに帰っていった


相変わらずせわしい嫁御だ


チェヨンが苦笑い


うふふ
お迎えがうれしかったのよ


イムジャもか?


うん 旦那様に
お迎えに来てもらえるのは
やっぱりうれしい
ねえ タン
父上が来てくれてうれしいわよね


ウンスはふふっと笑った
タンが薄目を開けて
ウンスを見た


そうか


チェヨンもふふっと笑って
ウンスに言った


どれ タンをよこせ


チェヨンは片手でタンを
しっかり抱く
ウンスはチェヨンの空いた手に
自分の手を滑り込ませた
チェヨンがぎゅっと握った


こうして帰るのも悪くないわね


月が照らす道に 
親子三人の
影が映し出されていた


*******


『今日よりも明日もっと』
それぞれの家族の
それぞれの幸せを
月が 見守っている



☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*


本編 また
おつきあいくださいませ


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