タンが生まれて
しばらくした頃
ヘジャは久しぶりに
チェヨンの生家だった
屋敷を訪れた

ウンスから大奥様の
螺鈿細工の宝箱を
持ってきて欲しいと
頼まれたのだ
螺鈿細工の箱の中には
ちびヨンが集めた
美しい石がたくさん
詰め込まれている

それを見たいと
急に言い出した

タンを授かり   余計に
早くに息子を遺して旅立った
義母を思い出したようだった

それから庭の木々を
心配して
冬支度するよう
植木職人も呼んでいた

ヘジャは言いつかった用事を
済ませるため朝から
屋敷に詰めていた

主人のいない屋敷は
どことなく寂しげに
思えた

そして
夕方になって   やっと
ウンスの待つ王宮の邸に
ヘジャは戻るところであった

都の市の店先を眺めながらの
帰り道


そうだ!奥様に
お饅頭でも買って帰ろう


ヘジャはウンスの喜ぶ顔を
思い浮かべた

饅頭屋を探していると
雑貨屋でなにやら
楽しそうに
品定めをしている
チェ尚宮を見かけた


チェ尚宮様


ヘジャが声をかけると
決まり悪そうに
ヘジャを見た


両手に    木ゴマと
チェギ(蹴鞠)を持っていた


もしかして
若様にですか?
どちらも早すぎや
しませんか?


ヘジャが少し呆れて言った


ああ
いや
その   男の子は
このような遊びが
好きであろう?
ヨンもそうであったゆえな


はあ
それにしても
まだ
生まれて間がありませぬ


ヘジャはチェ尚宮の
いたずらを見つかった
子供みたいな狼狽ぶりが
可笑しくて
くすっと笑った

チェ尚宮はますます
口をへの字に結び
難しい顔をした


まあまあ
そう言いなさんな
チェ尚宮様だって
初孫がうれしくて
仕方ないんだろうから


チェ尚宮の前に立っていた
女主人が言った


久しぶりだねぇ
ヘジャ


あれまあ
この店はあんたの店かい?
コヤン


ああ   そうさ


コヤンは笑った


コヤンはヘジャの
幼馴染みで
若い頃はスリバンにいた
そして今でも
仕事先で仕入れた情報を
スリバンに流していると
聞いたことがある


ヘジャ
急ぐのかい?
せっかくだし
お茶でも飲んでおいきよ
もうすぐマンボも来るしね
今   尚宮様を
お誘いしてたところなんだよ


そうかい?
急ぎはしないけど
ただ奥様が
邸でお待ちゆえ
饅頭でも買って帰ろうかと


ポムもおるし
多少なれば構わぬであろう
ヘジャも一緒に
茶を馳走にならぬか?


チェ尚宮が言った


はあ   まあ
では   少しだけ


そこへマンボ妹も
ひょっこり顔を出した


あれま
勢揃い!
珍しいこともあるもんさね


歯を出してにかっと笑った


尚宮様
若様におもちゃかい?
まだ
ちと早すぎやしないかね?


ヘジャと同じことを言った


まったく
これだから困っちまう
孫はかわいくて
仕方ない生き物だからね
チェ尚宮様にとっては
待ちに待った
チェ家の跡取り
どれだけ可愛がっても
足りないくらいに違いない
ねぇ   尚宮様?


チェ尚宮は困ったように


タンは孫ではないが
甥の子じゃ


と   やっと反論した


いやいや
孫同然ですよ
尚宮様
だって   我が子のように
可愛がってきた
チェヨン様のお子様だもの


コヤンは三人を店の奥に
招き入れ   お茶を出しながら
そう言った


尚宮様   若様の成長が
楽しみでしょう?


コヤンがチェ尚宮に
尋ねる


まあな
会いに行くたびに
成長しているようじゃ
乳もよう飲むし
目方も増えていると
ウンスが言っておった


チェ尚宮の顔が
ほころんだ


ウンスも産後の肥立ちが
よいようで一安心だしな
ヨンの赤子の頃に
よう似てるのだ


チェ尚宮が呟いた


それはかわいいことでしょう
うちにも孫が二人おりますが
日に日に成長していく姿を
見るのは何よりの楽しみです
チェ尚宮様にも
そのような日々がきて
ほんとうにようございました


コヤンが言った


そうだね
まさかあの天女がこうも早く
跡取りを生むとはねぇ


マンボ妹が感慨深く言った


お子は当然の結果かと
おふたりの仲の良さは
高麗中に知れわたって
おりますゆえ


ヘジャが誇らしげに
言った


それに  以前奥様は
まだまだ旦那様の
お子を生みたいと
旦那様におっしゃって
おりました
チェ尚宮様
チェ家はまだまだ
賑やかなことに
なりそうでございますね


そりゃ目出度いね
医仙はチェ家にとっても
いい嫁さんさ


マンボ妹がにかにかと
笑った


ほんとにございますねぇ
ここの民たちも
若様のご誕生をどれほど
喜んだことか


ああ
そうだった
市井の民からも
食べ物やお酒や
お祝いがどっさり
邸に届いたよ
足の踏み場もないくらい
大変だったからね


ヘジャがこぼした


それだけヨンが民に慕われ
医仙が民を助けてきたって
ことさね


そうだねぇ


マンボ妹とコヤンが
頷いた


若様は
これからますます
かわいい盛ですね~
尚宮様
うちの店を
せいぜいご贔屓に
若様の玩具はうちで
ご用意いたしますよ


コヤンが笑って言った
チェ尚宮はこほんと
咳払いをしてから


まあ   よろしく頼む


邸のタンの顔を思い浮かべて
幸せそうに、言った


このところ
高麗も秋が深まり
寒さが厳しくなってきたが

コヤンの店に集まった
四人の会話は暖かく
時の経つのも忘れて
楽しげに続くのだった


*******


『今日よりも明日もっと』
それぞれに
心暖かくなる秋の日暮れ








御礼リク企画に
ばぁ猫様よりいただいた

チェ尚宮やヘジャやマンボと
孫はかわいいと
おばちゃまトークをしてみたい
と言うリクを描いてみました

誕生の番外編として
お楽しみいただけたら
うれしいです

ばぁ猫様
リクエストありがとう
ございました