チェ尚宮に連れられて
向かった康安殿には
王様と王妃様がいた

ウンスの姿を確認すると
王様が言った


王宮を去られたのかと


ええ 
その予定だったんですけど
この人がね


ウンスが指差す先には
片時も
ウンスのそばを離れずに
隣に立つ チェヨンがいた


うっ ううん


咳払いも気にせずに
ウンスがたたみかけるように
話し始める


一晩中 大変だったんだから
ほんとに この人ったら
命をなんだと思っているのよ
ねえ 王様


はあ?


イムジャ もうそのくらいで


だって あなたが!


先を話そうと手振りをしたら
その手を押さえられた
さっきまで繋いでいた
チェヨンの手が
今 自分に重なる
無意識にうれしくて
その手をつかんだ


じゃれあっているようにしか
見えないふたりのやりとりを
チェ尚宮を始め
王様  王妃様が
呆れたようにぽかんと
見つめていた


━─━─━─━─━─


ウンスは王妃様の庇護のもと
武閣氏の護衛がつくことになり
しばらくの間はピョルが専任と
決まった
あとはその日その日の入れ替わる


あの夜以来 何かにつけて
典医寺に足繁く通うようになった
チェヨン

それを心待ちにしているくせに
顔に出さないウンス

じれったいような
ふたりの恋模様に
周りの誰もが
気がついているのに 
本人たちだけが素知らぬふり



就寝前の武閣氏の小部屋で
ピョルはポム相手に
ふたりの話をよく聞かせた


テジャンがいらっしゃると
医仙様の顔色が一段と
輝くのよ


そうなのですかぁ?
そんなにテジャンのことが
好きなのでしょうか?
ピョルさんの
思い違いでは?
だって あんなに怖そうな
テジャンのこと
医仙様がお慕いするなんて
ポムは納得いきません


蓼食う虫も好き好きよ


ヨンファがちくりと
言った


虫!!!
医仙様は虫ではありませぬ
ヨンファさんでもポムが
許しませぬよ


ポム いまのは
ヨンファの戯言よ
気にしない 気にしない


なれど
医仙様は天女なのです
何人も触れてはなりませぬ


そうよね
それはポムの言う通りだわ


ヨンファが言った


わたしはね
武閣氏だし
この身は王宮に捧げるつもりで
奉公しようと思っているの
だから 懸想とか
そういうのに
全然興味がなかったけどね
毎日 医仙様にお会いしていると
テジャンに会うたび
あんなにお幸せそうなお顔を
するなんて
お慕いするお方がいるってのも
悪くないのかもしれないなって
最近は思うのよ


ですから
医仙様はどなたもお好きでは
ありませんて
ピョルさんの考えすぎでする


ポムは納得できないように
ピョルに言った
ピョルが答える


じゃあ
ふたりで一緒にいるところを
一度ごらんなさいよ
こっちが恥ずかしくなるくらい
お互いを見つめているのよ
それも お互いに気づかずにね
あの顔が懸想じゃないなら
懸想って何よって思っちゃうわ


ふん
ポムは認めませぬ
きっと気のせいです


ほんとにポムは医仙様贔屓ね


ヨンファが半ば呆れたように
肩をすくめる


ヨンファが見上げた
小部屋の窓からは
夜空に美しい
星がちりばめられていた


━─━─━─━─━─


夜が更けて
そろそろ眠くなった頃

チェヨンが典医寺の部屋を
不意に訪ねてきた


こんな夜更けにどおしたの?


お気になさらずに
警護です
この時間 
もう武閣氏はおらぬ
扉の外の衛兵だけでは
心配ゆえ


テジャンって暇なのね


ほんとはうれしいくせに
どうしても素直になれなくて
ウンスはいつも減らず口

チェヨンは
ウンスの問いかけを
いつものように聞き流すと
窓辺の椅子を二つ並べて
どさりとそこに腰を下ろした


眠るならどうぞ
ここにおりますゆえ


ここにって
仮にも結婚前の男女がふたり
同じ部屋で夜を明かすの?


警護です


大丈夫よ 私なら
そこにいられたら
気が散って眠れやしない


俺には構わず


構うわよ
だって気になるもの


声が小さくなった
チェヨンがウンスを
探るように見つめた
その視線が熱くて堪えられない

ウンスは他のことを考えようと
思いついたように
ぱっと顔を輝かせ
チェヨンに言った


そうだ
ねえ 夜の庭園を散歩したい
この時代 明かりが少ないもの
きっと 星が綺麗よね


チェヨンも
黙ってしまったウンスが
また話し出したことに
ほっとしたように
相槌を打った


ああ そういえば
先ほど 流星が・・・


え?流星?流れ星?
ねえ 今夜見られるの?
素敵ね
じゃあ
天界に帰れるように
星にお願いしなくちゃ


そう言ってから
心がずきりと痛んだ


早く現代に戻りたい
ここは自分の居場所じゃない
ここに来てから
寝てるのか 起きているのか
わからないような夢の中に
いるみたい
だから
ずっと帰る日を待ち望んでいる

でも
でも
でも

帰ったらもうこの人には
二度と会えない


その現実が
ウンスの胸を苦しくした


一瞬曇った表情をチェヨンは
見逃さなかった
なだめるような優しい瞳で


見に行きますか?
流れ星を


ウンスに言った


うんうん


これ以上ないくらいの
うれしそうな顔で
ウンスが頷く


暖かくしていかねば
外套はありますか?


えっと?これ?


重たそうな外套をウンスから
受け取るとチェヨンが
ウンスに器用に手早く
それを着せた


高麗の服
着方が難しい


ウンスが口を尖らせて言うと


そうですか?


チェヨンが少しだけ
口元を緩めた


誰もいない庭園
見慣れたはずの景色が
ウンスには
全く別のものに思えた

チェヨンが隣にいる
同じ夜空を眺めている

パートナーになろうと
誓ったあの日

だが 結局 
パートナーとしてではなく
一人の男として 
チェヨンを求めている自分に
ウンスは もうとっくに
気がついていた
でも それは口に出して
言えない
自分はいつか天界へ帰る
この時代の人間ではないから

でも もし
あなたも同じ気持ちなら・・・


私 ここに残ろうかな?
だめかな?


喉まで出かかる言葉を
いつも飲み込み
いつも
代わりに他愛ない話をする


星が綺麗だわ


頭上を見上げると
小さな宝石をちりばめたように
夜空がきらきらと
光り輝いていた


空から星が落ちてきそうね


凛とした空気の庭園を
ウンスは夜空を見上げたまま
歩いた


危ない!


石段につまづいて
転びそうになるウンスを
とっさに
チェヨンが腕で抱きとめた


歩きながら上を向いては
危ないではないか
怪我をしたら如何するのだ


息ができないくらいに
抱き寄せられて
怒られた


そんなに怒らなくったって


ウンスのうるうるした瞳に
はっとして
チェヨンが腕を離そうとすると


離さないで


ウンスが小さく囁く


え?


もう少しだけ
このままがいい


チェヨンを見上げる
ウンスの瞳の中に
星が降るように流れていた


*******


『今日よりも明日もっと』
離さないで
そばにいたいの



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