このお話は御礼リクエスト企画の
お話です


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大護軍チェヨンが率いる
高麗軍が緑鴨江で
元に大勝してから 
しばらく時が過ぎた

高麗軍はその地に留まると
国境の警護にあたり
元がいまだに
攻め込んでくるのを
防いでいた

そうして 近くの村々は
やっと平穏を取り戻しつつ
あった頃


ヤンジはある村の
飯屋で働いていた
時折 麒麟の紋章
鎧姿の高麗軍ウダルチが
この飯屋を利用する


元との大戦の前には 
村の中心の道を
闊歩して行った高麗軍

勇ましい兵士たちに
これでやっと平和が
訪れると 村人たちは
手を合わせて拝んでいた

元は横暴極まりなく
村人たちは
ずっと苦しめられていた
だから
高麗軍が街道を通った時
ヤンジも木の陰から
手を合わせて勝利を祈った


「どうぞ この地が
平和になりますように・・・」


そして その時見かけた
きりりとした顔
挑むように前を見て
馬に跨がり先頭を行く
高麗武士の顔を
ヤンジは忘れられずにいた
初めての一目惚れ

そしてそのお方が
高麗の守り神
大護軍チェヨン様だと
知ったのはこの飯屋に
無理矢理 部下に連れて
来られた時だった

無精髭が伸びて
髪の毛がほつれていたが
端整な顔立ちは
あの街道筋で見かけた時
そのままだった


お付きの若い兵が
しきりに
何かを食べさせようと
しているが
わずらわしそうに
手を払いのけている


テマン 俺は飯はいらぬ
腹が空かぬのだ
もう 
あの木の下に戻らねば
こうしている間に
あの方が戻るやも知れぬから


苦しそうにそう告げた


け けれどっ
テホグン ここ数日
ほとんど何も召し上がってない
からだを壊したら
医仙様が悲しまれます


くいさがる若い武士に
チェヨンは
「ああ わかった」と
めんどくさそうに
クッパを口に運んだ

全部食べ終わるかどうか
と言ううちに
チェヨンは再び姿を消した


苦い顔の若い武士に
上官と思われる武士が
静かに言った


大護軍の気持ちも察してやれ
元に勝ったところで
一番手にしたいものが
未だに手に出来ぬのだ


でも テジャン
テホグンが
からだをこわしたら
元も子もないじゃないですか


ため息をついていた
若い武士が
一人になった時に
ヤンジはおずおずと
聞いてみた


あのう
テホグン様の
一番欲しいものって
何ですか?


あ?


怪訝そうにヤンジを見た
愛らしい瞳で尋ねてくる
怪しい者には見えなかった
だから
吐き出すようにヤンジに
言った


ああ 医仙様だよ
テホグンの想い人さ
もう行方が分からなくなって
4年になるのに
ずっとお帰りをお待ちなんだ


4年も?
そんなに?


ああ お二人の絆は強いから
必ず戻ると テホグンは
信じている
俺も そのテホグンを
信じているけどね


そうなんですか
そんなにテホグン様に
思われるなんて
うらやましい女人ですね


ああ 天女さ


若い武士は天を見上げて
呟いた


天女様・・・


そうさ あの丘の上の
ヌティナムの木のところで
4年前に別れてから
あそこでずっと待ってるのさ


あの ヌティナムの木の下で
待っていらっしゃる・・・


ヤンジは呟いた




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ある日
ヤンジはお使いの帰り道
丘の上のヌティナムの木の
そばを通った


木の幹にもたれて
空を見上げるチェヨンがいた


不精髭がさらにのびて
なんだか切なそうに見えた

チェヨンは立ち上がると
幹に手を当てて
静かにつぶやいている


某はここにいます
ユ・ウンス
早く戻ってこい!


自分でもどうしてだか
わからない
けれども気持ちを抑えることが
できなくて
ヤンジはチェヨンのそばに
歩み寄ると


ナウリー
きっと会えます
ヌティナムの木の下に
きっと
天女様は帰ってきますよ
だって
ヌティナムは幸運を表す木
だもの


そなたは?


チェヨンは初めてみる女人に
驚いたようだった


飯屋で会ったこと
覚えているわけないか
ヤンジは思った


私は近くの飯屋のものです
以前いらした若い武士の方に
ナウリーのこと
伺ったんです


そうか


天女様
きっともうすぐ
お戻りになりますよ


ああ
ありがとう


そういったチェヨンの
口元が少し笑った気がした


ヌティナムの木が
ざわざわ揺れていた
落ち葉が風に舞っている


それから数日が経ち
チェヨンと美しい女人が
飯屋にふらりと訪れた
ヤンジはあれが天女様だと
すぐにわかった


チェヨンは
瞳に輝きを取り戻し
片時も天女様から
目を離せずにいるようだった


天女様の口元についた飯粒を
そっとつまんで自分の
口に入れている
お幸せそうだ


ナウリー
よかったですね
再会できて


心の中でつぶやいた


チェヨンがヤンジを見つけて
少し微笑んだ
ウンスが「誰?」と
聞いている


ヌティナムが幸運の木だと
教えてくれた子だ


とろけるような目で
ウンスを見つめた


そお
ウンスが微笑み返す


ヌティナムの木の下で
再び巡り会えたふたり


ナウリーが
ずっとずっと
お幸せでありますように


ヤンジはそう祈った





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御礼リク企画第一弾

「ヌティナムの木の下で」

お届けしました


ヌティナム・・・けやきの木
        木言葉は幸福

ナウリー・・・・旦那様


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百合子様 リクエスト
ありがとうございました


鴨緑江近くの村の娘で
名前はヤンジ

ヨンに片思いするけど
ウンスを待ち想うヨンを
逆に応援して
元気づける話といただきました

お楽しみいただけたら
うれしいです