羊雲がぷかぷかと
青い空に浮かんでいた
涼風が秋を感じさせる
まだまだ暑さの戻りはある
であろうが
一日一日   秋が近づいていた


ある朝
ウンスが王妃の元へ
回診に出掛けた頃を
見計らって
チェヨンが典医寺に現れた


医仙様なら回診ですが


チェ侍医が言うと


わかっておる
侍医に聞きたいことが
あって来たのだ


そう言った


はあ


部屋の主人が
いぬ間になんだが
ちょっとよいか?


チェ侍医がサラを見た


抜けても大丈夫ですよ   と
言うように頷いた


ウンスの部屋の
真ん中にある
卓に向かいあって
チェヨンとチェ侍医が座る


大護軍がお珍しいですね
いかがされました?


ああ  
ちと気になってな
このところ   毎日
うちのが
うなされているのだ


は?


もちろん夫婦の間に
なんの問題もない
屋敷の様子も女中に
聞いたところ
変わったことはないと言う
なれば
典医寺で何かあったかと
そう思うてな


*******


ウンスの呻き声で
明け方目が覚めた

カラスの鳴き声が響いている
まだ夜が明けきらない早朝


イムジャ


うっすらと額に汗
苦しそうに息をしている


イムジャ
イムジャ
どうしたのだ?


抱きしめ直して
声をかけた
直に触れ合う肌も
しっとり
汗ばんでいた

はっとした様子で
目を開けると
チェヨンにしがみつき


夢でよかった


そう言った


夢か?


うん   嫌な夢を見たの


チェヨンの肌を吸いながら
ウンスが答えた


ヨン


ウンスがチェヨンを
じっと見ると


ヨンが欲しい


ウンスが
背中に手を回す
チェヨンは
腹のみぃを気遣いながら
ウンスが落ち着くようにと
ぎゅうっと抱きしめて
口づけを繰り返し

心が鎮まるようにと
ウンスを抱いた


何かあったのか
と   聞いても


なんにもないわ
夢を見ただけ


ウンスが繰り返した


*******


温泉宿より戻り
この二、三日
毎朝なのだ
よほど何かあったのかと


話を聞いて
チェ侍医は逡巡して
チェヨンに言った


典医寺でも
特に思い当たることは
ございませぬ
いつもと変わらず
明るくお元気で
皆にも優しい
医仙様です

難しい患者もおりませんし
診察もからだに負担が
かからぬように
配慮しております


そうか


それは
たぶん


たぶん?


産み月まであと2カ月も
ありませぬ
出産がだんだんと
近づいてきて
お心が不安定なのでは
ないかと


そうなのか?


はい   この時期の妊婦には
よくあることでございます
夢かうつつか
わからなくなったり
日に日に不安が
大きくなったり
気鬱になりやすいのです


どうすればよいのか?


王宮でのご様子に
お変わりはありませぬ
大護軍が唯一
医仙様がお心を
預けられるお方だから
気を許しているので
ございましょう


そうか


安心されるように
大護軍が受け止めて
差し上げてください


そう言ってから


ああ
いらぬ心配でしたな


チェ侍医は涼やかに笑った


もう少しで
お戻りでしょうから
顔を見てから
お戻りになられては
いかがですか?


ああ
そうしよう


チェ侍医が部屋を出て
わずかばかり後に
ウンスが部屋に入って来た


チェ先生が
部屋にあなたがいるって
庭園で見かけなかったから
どうしたかと
思っていたのよ


ウンスがことりと
頭をチェヨンの胸に寄せた


イムジャは幼子のように
甘えたがりだな


チェヨンがウンスの頭を
なでながら笑った
ウンスがふふっと笑う


そばにいると安心なの


チェヨンの衣を
ぎゅうっと掴んだ


そうか


うん


そうだ
イムジャ
今宵こそ   マンボの所に
連れて行こうか


ほんと?
よかった
ポムに付き合わせる
わけにもいかないし
どうしようかと
思っていたのよ


ウンスの顔が
ぱあっと輝いた


お迎え待ってる


ああ
出来るだけ
早く来るゆえ


うん


チェヨンを見上げる
ウンスの瞳に
ウンスが好きでたまらない
自分の姿が映って見えた


唇を近づけた
触れると暖かだった


*******


『今日よりも明日もっと』
ためらわずに
甘えて欲しい
ためらわずに
甘えたい





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