朝早く  
チェヨンとウンスは
宿の中庭に出た

凛とした空気に混じり
遅咲きの
わずかに残る
菩提樹の黄色い花の
芳しい香りが
辺りに漂っていた

チェヨンとウンスは
昨夜の幸せな時を
思い出すように
互いに繋いだ手の温もりを
感じながら
中庭をゆっくり歩く

ウンスの肌には
無数の夫婦の証が刻まれ
しなやかなからだが
さらに艶を帯びている

庭の真ん中に
すっと立つ
菩提樹の木

この木の下で永遠の
愛を誓った

震えるような喜びを
今でもウンスは
はっきり覚えている

ただそばにいるだけでいい
その一心で高麗に戻った
それが
チェヨンからのプロポーズ
この宿で
夫婦になることを誓った

二度と離れないと
心に誓い
それからふたりで
互いのために
生きている

二度目に訪れた時には
子を授かった

だからこの宿は
幸せな思い出が詰まった
ふたりには特別な場所だ

ウンスは空いている
左手で菩提樹の幹に
そっと触れた

幹は湿り気を帯びて
ひんやりと気持ちがいい


高麗に戻って来れて
良かった
チェヨンの妻になれて
みぃを授かって
本当に良かった
ありがとう


ウンスは菩提樹に
礼を言うように語りかけた
そしてチェヨンに囁いた


菩提樹は夫婦の木
なのよ


そうなのか?


うん   
屋敷の庭の月桂樹が
お父様とあなたの木
山桜はお母様と私の木
そして
この菩提樹はここを
訪れる夫婦を
幸せにしてくれる
夫婦の木なの


そうか


だから
チュンソクさんとポムも
幸せになるわ
それからいつか
王様と王妃様にも
来ていただかなくちゃ


そうだな


うん
またこの宿に
来れて良かった
なんだかね


ウンスはくすっと
笑った


なんだ?


宿の部屋


あ?


離れ離れになる前に
一緒に泊まった
宿屋に似てた


そうか?


うん   なんとなくね
でも
あの日があるから
今の幸せがあるのよね


そうだな


あのまま
離れ離れになるなら
あの時  私を
抱けば良かった?


イムジャはどうなのだ?
抱いて欲しかったか?


どうだろう
でもあなたを知ったら
もっと切なかったかも


かも知れんな


今は切なくない
抱かれる度に
幸せになるから


ウンスはふふっと
笑って
お腹をさすった


ふいに後ろから
抱きしめられた
チェヨンに
包まれる幸せ
ふっと力が抜ける


あいしてるわ


ああ   俺も
俺もイムジャを
愛してる


菩提樹に誓うわ
もっとあなたと幸せに
なるって


ああ   俺も誓う
もっと
イムジャを幸せにする


横を向いて
唇を合わせた
何度も何度も
口づけた


菩提樹の花びらが
風に揺られて降り注ぐ


なんだかもう一回
プロポーズされた気分よ


ウンスの言葉が
チェヨンの心を
暖かく満たすのだった


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『今日よりも明日もっと』
菩提樹の花言葉
結ばれる愛





奇しくも
菩提樹は8月23日の誕生花
皆様にも
たくさんの愛が
降り注ぎますように