小鳥のさえずりが
聞こえる宿の敷地を
ぐっすり眠ったポムと
さっぱり眠れなかった
チュンソクが
手を繋いで
朝の散策をしていた


寝相が悪くて
転がるポムを
放っておけなくて
何度も布団を掛け直して
いるうちに朝になった

手がかかる
だが
そこが愛しい

前にちらりと
チェヨンが漏らした言葉が
思い出された

確かに手がかかるほど
愛しさも増すのかも
知れない
くくっと   笑った

ポムが不思議そうに
チュンソクを見ている
その   ふっくらとした
頬に唇を寄せた

びっくりと目を丸くした
ポムだが
やがてうれしそうに
笑った
チュンソクも微笑み返した


中庭に差し掛かると
チェヨンとウンスが
菩提樹の前にいるのが
見えた

チェヨンはウンスを
とても大切なものを
包み込むみたいに
後ろから
抱きしめている

ポムは
何度も
唇を合わせる様子に
慈しみが溢れていて
美しい絵を
見ているようで
はあ
と   ため息をついた

ウンスの微笑みは
まばゆいばかりに
美しかった


医仙様
お綺麗だわ


小さな声で呟く


ポムもあんな風に
なりたいの
でも全然追いつけない
医仙様は顔だけじゃなくて
心が美しいの
だから
あんなにお綺麗なんだわ


ポムは憧れの君を
ぼうっと見つめた


医仙様を
慕っているのですね


ええ


某よりも?


えっ?
チュンソク様が
そんなこと言うなんて
驚いちゃって


ポムが恥ずかしそうに
俯く


医仙様に悋気して
しまいそうです


チュンソクは笑った
それから真面目な顔を
さらに引き締めて
ポムに言った


大護軍と医仙様は
大護軍と医仙様
比べたり真似したところで
何になりましょう
自分たちは
自分たちでよいのです


はい


婚儀が済んだら
この宿に
また来ましょう


え?


昨夜の埋め合わせです


ポムは真っ赤になりながら
また   はいと答えた


チュンソク達の
気配に気づき


またお前達か?


仕方なしに
唇を離したチェヨンが
じろりとこちらを見た


これ以上ここに長居は
なりません
大護軍に気づかれました
文句を言われる前に
逃げましょう


チュンソクはポムの手を
ぎゅっと握ると
反対方向へ駆け出した
走りながら
笑いが込み上げて
二人は声を立てて笑った


まったく  大護軍様ったら
医仙様のことになると
子供みたい
ほんとに邪魔されたく
ないんだから


ポムが笑い転げた


それでずっと苦労してます


チュンソクが笑った


急に離れた唇に

どうしたの?と
言いたげに
首をかしげるウンス


いや
なんでもない
うるさい虫がいたのだ


ええ
やだ!虫?


ウンスが腕の中で
じたばたした


大丈夫
もう追い払ったゆえ


ほんと?


ああ


ウンスは安心して
またからだの力を抜いた
チェヨンはまた
口づけをはじめる


朝餉が用意された
宿屋の二階の窓から
チェ侍医とサラが
中庭のふたりの様子を
見ていた


お幸せそうだわ


ああ
医仙様は
大護軍と居てこそ
本来の美しさを
発揮出来るのだろうな


チェ侍医がしみじみ言う


そうですね
先生   やけ酒は
まだ必要ないですか?


たぶんこの先も
それはないだろうな
こうして
眺めているだけで
満足出来ることも
世の中には
あるものなのだ


サラはふふっと笑って
それ以上は
何も聞かなかった


チェヨンとウンスを
取り巻く大切な仲間たち

皆がポムの門出を祝うと
ともに
チェヨンとウンスの幸せを
願っている


ウンスが名残惜しそうに
チェヨンに言う


そろそろ朝餉の時間だわ
食べ終わったら
王宮に戻らなくちゃ


そうだな


楽しかった
また来たい


今度は三人で来よう


チェヨンがウンスの
お腹に手を回し
ゆっくりとなでた

みぃがぽんと返事をし
ウンスが幸せそうに


そうね


笑って言った


*******


『今日よりも明日もっと』
手がかかるほど
あなたが愛しい