山道を
少し入ったところにある
一軒の趣のある宿

夏の陽射しを浴びて
青々と成長した木立に
隠れるように
ひっそりとした
佇まいを見せる

木漏れ日が差し込み
きらきらと揺らめく

王宮よりも
幾分涼しいこの宿に
典医寺の女人たちは
昼前に到着した

夕刻に合流予定のトギが
恨めしそうに
見送ってくれたのを
思い出す


たくさん
ご馳走を用意しておくから
トギが来るまで
食べずにいるわ


申し訳なさそうに
ウンスがそう言うと
あしらうように
早く行け と
身振り手振りで
送り出してくれた


ポムは夏の空の様に
心が浮き足立つのを
止めることが出来なかった

大好きな医仙様が
自分の為に考えてくださった
典医寺の送別会

医仙様の
警護についてからというもの
武閣氏仲間と過ごすより
典医寺のみんなと
過ごした時間の方が長かった
それだけにこの小旅行が
楽しみで仕方ない


医仙様~どうしてもっと
早うに
教えてくれなかったんですか
せっかく出かけるなら
もっと着飾りたかったし~
もっといろいろと屋敷から
持参したかったのにぃ


そう言いながらも
昨日の夜にウンスから
聞いたとは思えないほどの
重装備
武閣氏の衣を脱いで
桃色の可愛らしい衣に着替え
手には抱え切れない荷物を
持っていた


ねえ その大荷物何よ?


僅かばかりの身の回り品しか
持たない
深い緑色の衣をまとった
ヨンファが
不思議そうに眺める


いいの いいの
これはあとのお楽しみなのです


ポムが楽しそうに笑った

サラは医女の白い衣から
淡い水色の白藍の
涼し気な衣に着替えていた

ウンスはと言うと
少し灰色がかった明るい紫の
薄手の衣を身にまとい
ゆるりと髪を結い上げて
上品な装いをしていた


このように美しい奥様を
一人で宿に向かわせるなど
大護軍様もさぞや
気がもめることでしょう


サラが笑う


うふふ そおかしら?
おとなしゅうしておれと
言われているの
朝から軍議だとぶつぶつ
言いながら
康安殿に向かったわ


ウンスは笑った


輿の中でも何度も
念を押されたわ
危ないところには近づくな
転ばぬように気をつけて
歩け
ひとりで風呂に入っては
ならん
え~と あと何だっけ?


ウンスが首を傾げた


宿の一室に四人が集まり
楽しい話に花が咲く


ポムが真っ赤になって
ウンスに食い入るように
話を聞いた


いっ 医仙様?
一人で風呂に入るなとは
つまり
いつもはご一緒に
お入りになると!!


え? ええ


えーーーーー


ポムの絶叫が聞こえた


恥ずかしくはないのですか?
と 殿方と・・・
そのような
肌を見せあうなど


見せあうっていっても


顔を少し赤らめて
ウンスが言った


夫婦だし
それに湯殿は
滑り易いでしょう
背中に手も届かないし
洗ってもらうには
ちょうどいいの
任せても安心出来るしね
ただ ちょっと時々
よからぬ悪ふざけを
するけどね


えーーーーー
身体を洗ってもらうのですか?


ポムの大声が部屋の外にも
漏れ聞こえ
警護のウダルチも何事かと
聞き耳を立てた


ポム 肌を見せあわないと
子どもは出来ないわよ


あわあわとポムが言う



無理です 
そのようなこと
医仙様のように
綺麗じゃないから
見せられないもの


ウダルチたちは
何の話か合点がいったようで
これ以上聞いては
あとで 大護軍と隊長に
はり倒されるに違いないと
五歩ずつ後に下がった

そんなことに
全く
気がついていないウンスは


あら そんなことはないわ
ポムの肌はとても綺麗よ
それに
若いから水を弾くように 
ぷるぷるしてるわ
チュンソクさんも
こんなに可愛いお嫁さんを
娶ることが出来て
幸せ者ね


からかうようにそう言った


い いせんさま!!


ポムは照れたように真っ赤に
なった
ヨンファとサラが面白そうに
笑っている


い 医仙様こそ
いつも大護軍様に
あい あい あい


あいされ?


そうそれです
愛されているでは
ないですか


ええ そうね
幸せなことだと
思ってるわ


ウンスの微笑みが
ポムには眩しかった
身も心も愛されるって
どんな気分なんだろう?
接吻もまだの
ポムにとっては
怖さ半分ながら 
大人の男と女の
交わりが
気になって仕方ない


ほんと 医仙様
いつも幸せそうだわ


ポムが夢見るように
ウンスに言った
ウンスが微笑んだ


愛し愛される人の顔


ポムにも分かるわよ
そのうちね


その顔を見つめて
ヨンファがお茶を一口
ずずっとすすり
たんと椀を置いてこういった


医仙様が
誰かから聞く前に
言わなきゃって思ってた
ことがあって


ん?


大護軍様のこと・・・


一瞬 部屋の中が
しんとなった



その頃チェヨンは
やっと終わった軍議も
そこそこに
王様にいとまをつげると
チュンソクとともに
宿屋に向けて
急ぎ 馬を走らせていた


チュンソクは緊張の為か
いつにもまして
顔色が赤い


チュンソク
大丈夫か?


は?はい?
チュンソクの声が裏返る


一応 離れを用意したが
あの嫁御
急にそなたと
その
そのようなことに
なるとも思えぬが・・・
まあ そなたたち
夫婦の問題だしな


チェヨンもなんとも
歯切れが悪い言い方
離れで 初めての夜を
過ごさせてもよいものか?
気まずいだけなのでは
なかろうか?と
チェヨンは逡巡し
まあ なるようになるかと
思い直した

そう言えば
自分も兵舎の同じ部屋で
ウンスと幾晩も
共に暮らしたことがあった
あの頃は
契りを交わすなど
考えることも出来ず
その気持ちを押し殺していた

沸き上がる
恋慕の思いだけで
からだを重ねなくとも
同じ時を重ねるだけで
幸せだった


俺も贅沢になったもんだ
一時 離れただけで
何日か抱かないだけで
心が散れ散れになるのだから


チェヨンが苦笑する


馬上でチェヨンが
チュンソクに言った


ウンスの戯れ言に
つき合わせて 
すまぬな チュンソク


疾風のように
駆け抜ける愛馬チュホン

その風に声が
かき消されチュンソクには
半分も届かなかった


チュンソクは思っていた

愛する女人を
この手にいだき 
眠りにつく
男としての悦びを

だが ポムは
幼い・・・
急には 無理であろう
ポムの気持ちを
大事にしてやりたい

忙しくてなかなか会えぬ分
今宵はポムとゆっくり
話がしたい

もし出来れば接吻くらいは
許されるであろうか?
いや 
泣き出すかも知れんな

泣き顔もかわいいポムを
思い浮かべながら
チェヨンに
負けないくらいの
鞭さばきで
馬を走らせた


もうすぐ都の外れ
思い出の宿に着く
チェヨンの心は
沸き立っていた


頬に当たる風が心地よい
夏の日の昼下がりであった


*******


『今日よりも明日もっと』
そばにいたい
もっと慈しみ
もっと愛したい



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