暑い日が続いている高麗も
朝晩は
暑さが幾分和らいだ気がする

奥の間を抜ける爽やかな
朝の風を感じながら
チェヨンとウンスは
朝餉を食していた

すこうし浮腫みが
気になり始めたウンスは
ヘジャに塩味を控えるように
頼んであった
野菜の煮付けも魚も
どのおかずも味が薄い
同じものを食べている
チェヨンにウンスが微笑んだ


ヨンまで薄味に
付き合わなくても
構わないのに
ヨンはお役目で
からだを使うんだから
塩分が必要だわ
ヘジャ   旦那様には
いつも通りでお願いね


はい
ヘジャもそう申して
おりますのに


ウンスの後ろに控え
扇でゆるゆると
ウンスを仰ぎながら
ヘジャが困ったように言う


旦那様が奥様と同じものが
よいとおっしゃられて


まあ
ヨンったらそんなこと?


わざわざ
手間をかけるまでもない
俺は口に入れば
なんでも構わぬし


せっかくなら
美味しく食べて欲しいのに


十分うまいからよい


チェヨンは自分の魚を
上手にほぐすと
ウンスの口元に運んだ
ぱくっと食べながら
ウンスが笑う


相変わらず世話焼き
なんだから


チェヨンにとっては
目の前にいる美しい妻こそ
何よりのご馳走
ウンスの顔を眺めながら
食べる朝餉は
幸せなひと時に違いなかった

チェヨンは少し照れたのか
ウンスの言葉には
何も触れず
昨日の手術について
聞いてきた
 

昨日の手術は時がかかったと
聞いたが難しいもので
あったのか?


ええ   まあね
でも   大丈夫よ


古参の郡主の嫡子ゆえ
王様も気にしておった


そう?
手術はうまくいったし
術後の経過はチェ先生に
お願いしてあるから
万全だと思うわ
昨日はきっと泊まり込みね
チェ先生には
助けて貰ってばかりだわ


そうか


何か差し入れを
持って行かなきゃ


あいつにか?


チェヨンは面白くないと
いった顔をして答えた
ウンスはふふっと笑った


チェ先生を目の敵にしてる
みたいだわ


当たらずとも遠からずだ


変な旦那様
ふふっ
嫉妬?


そ  そのようなこと
そのようなことは
ない


ふーん
嫉妬されるくらい
好きでいてくれるなら
うれしいけどな


手元の魚をつつきながら
ウンスが小さな声で言った


あほう
朝からまったく


そう言いながら
チェヨンはひどく
うれしそうな顔をした


そう言えば
最近よく警護で見かける
若いウダルチさん


あ?
ああ


ウネさんが美丈夫だって
言ってたわ


ああ
あいつか?


ウンスの警護に付く
ウダルチは大抵二、三名
いつも同じ顔なのは
彼くらいだった
年の頃は二十二  三か?
目鼻立ちが濃く
澄んだ目をしている
背丈はチェヨンより
少し低いくらいだが
動きが機敏で
確かに
美丈夫なウダルチだった


チェヨンは
思い出したような
顔をして答えた


腕も立つし  よく働くと
チュンソクが言っておった


ふーん
そうなんだ
ウネさんが美丈夫を
私のそばに置いて
チェヨンは
気にならないのかって
言ってたわ


気にして欲しいように
ウンスが言う


なんだ   悋気を期待したか?


そんなんじゃないけど


あいつはウダルチ
身内も同然であろう
それにあいつはな


なに?


いや   よい


チェヨンは口を濁す


何よ
気になるじゃない


トクマンがな


トクマンさん?


ああ
あいつは武閣氏の片割れに
懸想しておると言うて
おったゆえ


ん?片割れ?
ヨンファ!


ああ   
そのヨンファとやらに


一瞬
明るい表情になったウンスが
苦い顔になった


ヨン
ヨンは余計なこと
しないでね


は?


だから彼とヨンファを
くっつけようとか


は?
そのような面倒なこと
思う訳もない


そうよね
でも余計なこと
絶対しないでね


念を押すように
ウンスが言った


おかしな母上だなぁ


チェヨンはウンスの
しっかりせり出たお腹を
さすりながら
みぃに語りかけた


いいの
ヨンは知らなくて


ウンスがチェヨンの手に
手を重ねて言う
チェヨンが答えた


俺は目の前の妻のことで
頭がいっぱいゆえ
他の奴のことを
考えるゆとりなどない


いつの間にか奥の間から
ヘジャの姿が消えていた

チェヨンの優しい唇が
ウンスに重なる
幸せな朝の甘い時
なかなか離れない二人の唇


役目など
放り出してしまうか?


名残を惜しむように
やっと話した口の先で
チェヨンが言った
ウンスが微笑む


それは成りませぬ


いつの間にか戻った
ヘジャの声


さあ   お二人とも
王宮に向かうお時間です
続きはまた  
お帰りになってからに
高麗の民のためにも
お役目
お気張りくださいませ


ぐうの音も出ない
ふたりであった



王宮に向かう輿の中で
チェヨンに
抱きしめられながら
ウンスは物思いにふける

そんな妻に
口づけを繰り返しながら
帰りまで待てる訳がないと
密かに思うチェヨン

ウンスはチェヨンの話を
思い出しながら


ヨンファに懸想かぁ
ヨンファにも
幸せになってもらいたいけど


複雑な思いがよぎる


そして   やはり
事はそう簡単には
いかないようであった


曇り空の高麗の朝
雲間から
夏の日差しが差し込み
はじめていた


*******


『今日よりも明日もっと』
あなた以外
目に入らない
それはきっと
これからも   ずっと



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