夏の空
もくもくと入道雲が現れて
それが急に雷雲に変わった

坤成殿からの帰り道
降り出した雷雨に
ウンスたちは
庭園の東屋で雨宿りをした

雨が降り出す瞬間は好き
雷も嫌いじゃない
見守り助けてくれるのは
いつも雷だったから

でもいい思い出だけじゃない
ソウルの医局にいた時の
嫌な思い出も付いてまわる
だから 一人の時に
雷鳴に出会うと
ほんとは まだ 少し怖い

チェヨンがそばにいると
落ち着くんだけどな
ウンスは思った

だんだん近づく
雷鳴を聞きながら
ぎゅっと手を握りしめ
東屋で雨をしのいだ

元気なポムがうれしそうに
チュンソクとの
昨日の出来事を
話してくれる


医仙様 
チュンソク様ったら 急に 
ポムって呼んでくれたのです
名前で呼ばれることが
こんなにうれしいなんて
思わなくて


そう それはよかったわね
でも 兵舎でも
話題になったみたいよ
許嫁が訪ねて来たこと
ポムったら 
チュンソクさんを
あまり困らせちゃ駄目よ


大護軍からお聞きに
なったのですか?
ひどーい 
おしゃべりなんだから


ウンスたちの初めての夜を
まさかチュンソクに
話したとは思いもよらない
ウンスは


うふふ 夫婦はなんでも
話をするのよ


そう笑って見せた


大きくなって来た雷鳴を
やり過ごすように
ウンスは
握った手に力を込めた


ぴかっ!
雷光が辺りを覆う

ゴロゴロゴロ
ドドーン


近いですね


ヨンファが言った


ええ そうね


医仙様 大丈夫ですか
お顔の色が優れませぬが


ええ 大丈夫よ
雷にびっくりしただけ
大護軍には内緒よ
雷攻使いの妻が雷に
驚くなんて
体面に関わるわ


なんとか笑ってみせた


ドドドドーン
大きな音とともに
稲妻が走った
庭園の高木に落ちたようだった


緊張のせいか
みぃのいるお腹がぎゅっと
張って 痛くなった


もう一度 雷鳴が轟く
ぴかっ! ドドドドーン


目を覆い
耳を塞いでその場に
しゃがみ込もうとした時

腕の中に抱きしめられた

少し湿った衣から
チェヨンの匂いがする


大丈夫か?


ヨン 


王様と謁見して兵舎に
戻る途中であった
この時分 イムジャも
坤成殿からこの辺りを
通るのではないかと
思うてな
よかった 会えて


傘もささずに走って
来たのか
チェヨンの息が少し
上がっていた
お供のウダルチもいなかった
怖がりの私を
探しに来てくれたのだと
ウンスは思った

なんだかじんわり
泣きたくなった
困ったときも苦しいときも
いつも手を差し伸べてくれる
やっぱり 雷は怖くない
この腕の中にいる限り
何も 怖いものはない


大きな音に驚いちゃったの
それで お腹がちょっと
張ったみたいで


チェヨンが急に
険しい顔つきで


無理をしてはならぬ
我慢するなと言うておろう


ウンスに言うと
そのまま抱き上げた


ちょっ ちょっと
チェヨン!
今 ポムに体面について
話をしていたところなのよ
これじゃあ 
私の体面がないわ


構うか
雨が止んだら典医寺に運ぶ


は?まさかこのまま??
ちょっと
王宮中の笑い者になるわ


誰が 何と言おうと
今はイムジャのからだが
一番大事であろう


頑として譲らなかった


突然の雷雨は
突然に止んで
雨で冷やされた空気が
涼しさを運んで来る


本当に
典医寺まで抱き上げて
運んだチェヨンを
ポムが羨ましそうに
見つめていた


医仙様が羨ましいわ
こんなに大切にされて


ポムが呟く


あら ポムだって
隊長に大事に
されているじゃない


そうかな?


気づかないの?
ポムを見る時の
優しい目に


だって いつだって
優しい目だもの


はいはい 
ごちそうさま
まったく 独り身の
身にもなってよね


ヨンファが笑うと
ポムが真面目な顔つきで
ヨンファに聞いた


ヨンファさんは
やっぱりお嫁に
行きたくないの?


さあ どうかしら?
私はポムの様に家柄もないし
親もいない
それにこのひねくれた性格を
好きこのんでもらってくれる
殿方はいないと思うわ
武閣氏としてチェ尚宮様に
一生お仕えするつもりよ


そうかなあ
なんだか もったいない
ヨンファさん 美人だし
本当は優しい人だって
ポムは知ってるもの
冷たい振りしてるけど
温かい人だもの


それはポムの思い込みよ


ヨンファはまた微笑んだ
優しくそして
凛とした笑顔だった


さてと 先回りして
侍医様を呼ばなきゃ
医仙様が担がれて
典医寺に行ったら 
今度は侍医様が
腰を抜かすもの


ヨンファがチェヨンに
何かを告げて
軽快に走り出したのを
ポムは見送った
先に典医寺へ行って
準備しておきますとでも
告げたのだろうか?
チェヨンがわずかに
顎を引いて
頷いたのが見えた

恥ずかしいと
チェヨンの腕の中で
顔を隠しながら
それでもやっぱり
幸せそうな微笑みのウンス


ヨンファさんも
幸せになれたらいいのにな


ポムは心の底から
そう願っていた


灰色の空から
雨雲が消え
夏の陽射しが戻って来た
雷鳴はすっかり
鳴りを潜めていた


*******


『今日よりも明日もっと』
不安な気持ちが
幸せに塗り変わる
あなたに
包まれているだけで・・・



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