卓に着いたポムとチュンソクに
チェヨンはなにやら不満顔で
ウンスに言った


こいつの隣か?


チュンソクをくいっと
指差した


ええ だってふたりは
互いの顔が
見えた方がいいでしょう?


そ そのようなこと
ありませぬ
大護軍様は医仙様のお隣が
よろしいのでしょう?
ポムがかわります


ポムが立ち上がろうとするのを
ウンスが止めた


いいのよ 今日はふたりに
お話しして欲しくて
来て頂いたのに
この人のわがままに
つき合わなくていいからね


イムジャ わがままとは


だってわがままでしょう
席が気に入らないなんて
子どもじゃないんだから


王宮で知る高麗の守り神
大護軍チェヨンではなく
ウンスに丸め込まれる
優しい夫の姿に
チュンソクは微笑んだ


あ チュンソクさん
今笑ったでしょう?
本当にね この人
子どもみたいなところが
あるのよ


イムジャ 


うふふ 
今日は大護軍の威厳も
体面も形無しね


ポムはそのような
おふたりが
うらやましゅうございます
いつも仲がよろしくて
恋慕っていらっしゃるから


そうだったわね
ポムはそう言う結婚を
したいっていってた


はい
でも・・・ポムは
医仙様のように
素敵にはなれませぬ


だ そうだが
チュンソク 
いかがする?


は?


目をしばたいて
チュンソクが返答に窮する


うふふっ 
じゃあ さっき飲み損ねた
桜桃酒で乾杯を
あ でもポムは舐めるだけよ


ウンスが助け舟をだした
ポムがきょとんとウンスに
尋ねる


なぜにございます?


肩の傷にさわるから
治ったら
うんと飲んでいいから
今日はまだ駄目よ


はい・・・
少ししょんぼりと
ポムが答えた


夕餉は和やかに進み
ヘジャの料理は
ポムの胃袋を
満足させた


ポムはにこにこと
料理を褒め
武閣氏の仕事のことや
他愛のない話を
よくじゃべった

直ぐ上の兄は
年が近いせいか
兄妹喧嘩ばかり
していたこと
なんでも
容易く手に入れる
兄を憎らしく
思っていたこと
でも 戦に行ってしまって
やっぱり寂しいこと

医仙様が大好きなこと
その医仙様のおそばに
お仕えできて
幸せだと言うこと

もともとおしゃべりな
ポムがさらに饒舌になる

チュンソクは
相づちを時々入れる
くらいで ポムの話を
じっと聞いていた


料理も平らげ
ウンス自慢のクレープも
ポムの歓声とともに
そのお腹に収まった頃


そうだ!


思い出したように
ポムが手を打つ


どうしたの?


はい 忘れておりました
昨日 お助けいただいた
御礼をまだお伝えして
おりませぬ


うふふ そう言えば
そうね・・・


油灯が部屋の中を照らし
月光が廊下に
差し込んでいた
ウンスはポムが何か
言い出しそうなのを
すっと遮ると


ヨン
なんだか食べ過ぎて
少し歩きたいわ


チェヨンに言った


そうか


静かにチェヨンが
立ち上がり手を差し出す
その手のひらに
手を乗せて
ウンスがよいしょと
立ち上がった


チュンソクさん
ポムをお願いね


はあ


なんとも間が抜けた
声が返って来た


廊下から中庭に降りる
月夜の中 涼しい夜風が
ウンスの頬をなでる


あっちの東屋まで
行きたいわ


足元が危ないのでは
ないか?


支えてくれるでしょう?


ああ 無論


チェヨンはウンスの
腰に手を回すと
ゆっくりと歩き出した


ふたりが歩いている姿が
月明かり越しに
ポムとチュンソクにも
よく見えた


お腹が目立ち始めた
ウンスのことを
慈しむような微笑みで
見つめながら
歩いているチェヨン

チュンソクは
胸がつまる思いがした


お幸せそうだ


チュンソクが呟く


ええ ほんとに


ポムが頷く


なんだか あのふたりを
見ていると
うれしくなるんです


某もです
随分とまわり道をされた
おふたりです
幸せになって
いただかなくては


チュンソクが願いを込めて
低く呟いた

ポムがころころと笑って


チュンソク様は
大護軍がお好きなんですね
だって 大護軍様のお話を
うれしそうになさるから


いえ そのような


あら?お嫌いなの?


そんな訳・・・


ふふ
ポムも医仙様が大好きです
あのふたりのように
いつか幸せになれるかしら


ポムは
チュンソクに微笑んだ


なれますよ きっと
ポム殿は まだお若く
お綺麗で かわいらしい
どんな方とでも
うまくいくでしょう


そう・・・ですか


俺にはもったいない
高嶺の花だ


チュンソクはそう思った


チュンソク様・・・


ポムが急に口を開く


昨日はありがとう
ございました
自分は一端の武閣氏の
つもりでした
なのに 何も出来なかった
あの場で殺められても
おかしくなかったのに
命拾いしました


実戦ははじめてですか


いえ 
ただ あそこまで
追いつめられたのは
はじめてのことで


震えておった


怖かった・・・


ポムが俯く


その気持ち
忘れてはなりませぬ
驕ると隙が出来る
怖いくらいが
ちょうどよいのだ


ふふっ
ウダルチの隊長の
顔をしてる


そ そうですか?


はい 凛々しくて
いいお顔


大人をからかわないで
ください


チュンソクが弱る
ポムは悲しそうな顔をして


ポムは子どもですか?
大人のチュンソク様には
医仙様のような
大人の美しい女人が
お似合いだわ
わかっているの


決して そのようなこと


いいえ そうだわ
このぱーちいだって
大護軍様に言われて
仕方なくおつき合い
してくださったんでしょう


ぱーちい?


はい
天界の宴をそう言うって
医仙様が


はあ


すっかり萎れてから
ポムが包みを差し出した


これは?


お礼の品
男の人には
何がいいか分からなくて
それで・・・


包みをひらくと


ん?人参ですか?


だって 
からだを労って欲しくて
いつも忙しそうだから


このような高価なもの
頂けませぬ
味方が難儀しているのを
助けるのはウダルチとして
当たり前のこと


わかってます
隊長が ポムのこと
嫌なのだろうことも
子どもだと思われて
いることも
あれがヨンファさんでも
隊長はもちろん助けたもの
でもポムは
うれしかったのです
助けてくれたあとも
そばにいてくれたこと


それは・・・


すみませぬ
もうお忘れ下さい
このような気持ちも
隊長にはご迷惑


迷惑など
そのような・・・


お優しいのですね
でも同情はよいのです
ポムは医仙様のおそばで
今まで通り
武閣氏としてお仕えして
参ります
お父様の無理難題に
巻き込み申し訳ありませぬ


ポム殿


はい


隊長ではなく
先ほどのように
某を名前で呼んでは
くださらぬか


チュンソクはやっとの
思いでそれだけ告げた

下を向いていたポムの
顔がチュンソクを
見つめる


子どもだなどと
思ってはおりませぬ
そなたのこと


*******


東屋に着いた
ウンスとチェヨンは
椅子に腰掛け月を眺めた

チェヨンの胸に
もたれかかり
後から肩をすっぽりと
抱きしめられた


今宵は暑いと言わぬのか


チェヨンが笑う


夜風が気持ちいいわ
それにこうして
くっついていたい
気分なの
あのふたりちゃんと
お話ししているかしら?


大丈夫であろう
チュンソクに任せておけば


そうよね・・・
チュンソクさん優しいし


イムジャはチュンソクの方が
よいのか?


もう チェヨンたら
分かっているくせに


ウンスの口元がふっと笑った


チェヨンがウンスの衣を
指でなぞりながら


この衣・・・


ああ これ?


似合うておる
客より美しく見えて
どうするのだ


ふいと横を向いて
照れたように言った


え?


絹の衣の上に
手を滑らせて
膨らんだお腹を
優しくさする


みぃの母上は美しいぞ
みぃもそう思うであろう


みぃがぽんと
チェヨンの手のひらを
叩いている


ほんとに?


ああ


ほんとに ほんと?


ああ


顔を少し横に向けると
チェヨンの唇が
そこにあった

ウンスが目を閉じる

指と指を絡めて
手をつなぎながら
柔らかい口づけをする

一度離れた唇が
もう一度互いを求めて
激しく彷徨う

互いの吐息が耳に届き
唇が吸い付く音がする

ウンスがその合間に
声をもらす


もうだめよ
これ以上は
閨に行きたくなる


困った声でそう言った


俺はそれでも構わぬが


だめよ お客様がいるわ


あいつらに
早くお引き取り願うと
するか


ニヤリと笑ってから
チェヨンは軽く唇を
合わせると
ウンスの手を引いて
再び 客間の方へと
戻っていった


*******


『今日よりも明日もっと』
幸せは あなたのそばにある



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