今日も忙しい一日だった

昨日あんなにまったりと
チェヨンと過ごせたのが
不思議なくらいだ

はぁ~と
ウンスはため息をつく

毎日 時間は休むことなく
流れ続ける

その流れに負けないようにと
肩肘張ると
とたんに時間は意地悪になる
追いかけられて
戻れなくて
じたばたとしているうちに
一日が暮れる
疲労が残る
天界での暮らしはそうだった

だから昨日のように
何もしなくても
どこにも行かなくても
愛する人のそばで
時を過ごすことが
どれだけ幸せなのかと
そんな哲学めいた
想いが頭をもたげ

明日も 明後日も
毎日チェヨンとふたりで
のんびり暮らせたら
どんなにいいかと
ちらりと思う

でも すぐに頭を振る

だけど それが毎日だと
人に頼りっきりの人生
私らしくないとか
きっと思うのよね
だって仕事も好きだもの
医者という職業を
続けていたいもの・・・

人の想いは複雑だわ

ウンスが独り言を呟いた
気持ちを
リセットするように
椅子の上で
大きく伸びをした


夕刻の典医寺
患者のいない診療室

サラはトギと薬草園に行き
また薬草談義だろうか
ダへは他の薬員と
薬草の調合をしていた

ポムとヨンファは
扉の向こう

診療室には
ウンスとチェ侍医の2人が
残されていた


ふぁ~と言いながら
思い切り 伸びをした
あっ と思った時には
ウンスのからだが
バランスをくずして
椅子ごとよろめいた

ぎゃっ
という悲鳴に近い声があがる

椅子ごと倒れるのでは
ないかと思った瞬間
チェ侍医が
抱きとめてくれた


大丈夫ですか?
椅子ごと倒れでもしたら
大事になります
もう少しご自分のからだに
気を配らないと


う うん
ごめんなさい
ありがとう
助かったわ


チェ侍医はゆっくりと
椅子を元の位置に戻すと
何事もなかったような
涼し気な顔で自分の席に
戻った


いつも 助けてもらって
ばっかりだわ


ウンスが言った


いまも そして
いつだって


そうですか?
たまたまですよ
医仙様が後に反り返るように
伸びをされていたので
危ないなと思って
見ていたもので
でも 間に合ってよかった
典医寺で事故でもあれば
大護軍に顔向けが
できません


ふふっ
おおげさね
何にしたって チェ先生の
責任ではないわよ


いえ 医仙様が
典医寺でつつがなく
お役目を終えられ
大護軍のもとに
お帰りになるのを見届ける
それが自分の役割だと・・・

医仙様を傷つけるような
あんな大それた事件を
起こした自分を
許してくださった
医仙様と大護軍への
恩返しだと
そう肝に命じておりますゆえ


もう そんなこといいのに
チェ先生には十分
お世話になっているわ
典医寺にはなくてはならない
私の片腕 いえここの柱だわ

だからこれ以上
負い目に感じることはないし
自分の幸せも考えて欲しいと
思っているよ


自分の幸せですか?


ええ そうよ


ならば 今のままで
私は十分幸せです
医員として王宮で役目があり
よき仲間に恵まれ
毎日が充実しています


それで
チェ先生は寂しくないの?


さみしい?
なぜさみしいのです?


だって 
誰かと寄り添いながら
幸せに生きるという選択も
あるでしょう


なれど 誰かのことを
心に秘めながら想うことも
幸せだと私はおもいますが


それが決して
実らないものでも?
チェ先生に
何もしてくれない相手を
ただ 見ているだけで
それだけでいいって言うの?


はい そう言う奴も
世の中にはいるのですよ
たとえ自分のものには
ならなくとも
その方が幸せだと
自分の心も温かくなる
それを励みに頑張れる
そんな生き方をする奴が
ひとりくらいいても
よいのではないでしょうか


ウンスは言葉を選びながら
チェ侍医に語った


昨日ね 100年前の沙羅が
夢に出て来たの
沙羅も言ってた
心を捧げるだけで
幸せだったって
ほんとうにそれで幸せだと
そう思う?


沙羅様の言うことも
私にはわかります
見返りが欲しい訳じゃない
心を寄せていたいだけ


私はだめだわ
チェヨンとともに
幸せになりたいの
チェヨンのいない自分は
考えられない
チェヨンを慕い
チェヨンに慕われていたい
この先も 
この気持ちはけっして
変わることはないわ


ウンスはふうと息を吐き


私 ひどいことを
言ってる?


チェ侍医を見つめてそう言った


いえ とっくに存じております
あなた様はそれでいいのです
それが あなた様なのですから


チェ侍医がウンスを
見つめ返して優しい顔をする


チェ先生は
とてつもなく 強い人ね
私にはまね出来ない


何より私はこれからも
仲間として 
医仙様を 陰ながら
お支えしていきたいと
医仙様に
お仕えしていきたいと
そう願っております
それが今の私の
幸せなのですから


チェ侍医ははしっかりと
ウンスを見つめた
揺るぎない
決意の言葉であった


*******


暫くして チェヨンが
典医寺にウンスを迎えにきた


今日は 早う帰れるゆえ


ほんと?だって昨日お休み
したから今日は帰りが遅いって
そう言ってたじゃない


ウンスの顔色がみるみる
輝き出し うれしそうに
チェヨンのまわりに
まとわりついている


チェ侍医はその様子を
じっと眺め心で想う

そのお顔が愛しいのです
その幸せなあなた様の
お顔が


薬草園から戻っていた
トギがいつものことかと
鼻で笑い
さっさと帰れと言わんばかりに
しっしと手を振る

サラはチェ侍医の隣で
診療室の道具を片付けていた


もう トギったら
そんなに追い立てなくても
帰るわよ
チェ先生 サラ 先に
失礼するわよ
ねえ ヨン 
帰りにお饅頭が食べたい
いいでしょう?


イムジャ 
最近食べ過ぎではないか?


いいのよ 悪阻が終わって
食欲全開なの
ほら みぃも欲しいって


診療室を後にした2人の声が
届いて来る
楽しそうに話をするウンスを
チェヨンが見ている

ふわりと風が吹き
ウンスの髪が風に舞う
その乱れた髪の毛を
チェヨンが手櫛で梳いた


イムジャ ほら
じっとして


その様子を見ていたサラが
チェ侍医に向かって
ぽつりと言った


ほんとに 仲がいいこと
チェ先生も因果な性分ですね
やけ酒なら
いつでもつきあいますよ


舌をぺろりと出して笑った


驚いた顔をして
サラを見たチェ侍医が
ふっと 頬を緩ませて
答える


それもいいかも知れないな


夕陽を背に家路に急ぐ
チェヨンとウンスの後姿を
見つめながら
チェ侍医の心は
穏やかに 満ち足りていた


*******


『今日よりも明日もっと』
断ち切れぬ想いも
いつか
時が癒してくれるだろうか



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