ふたたびウンスが
目覚め時 すでに陽が高かった

柔らかな陽射しが窓から注ぎ
新緑のさわやかな空気が
部屋の中を満たしている

チェヨンの瞳が
ウンスを慈しむように
きらきらと揺れていた


起きてたの?


ああ 
寝顔を見ていた


起こしてくれれば
よかったのに


見ていたかったゆえ


いつから?


さあ?
チェヨンはとぼけた

時々 抱きしめ直して
時々 その唇に
唇を当てた

長いまつ毛を指でくすぐり
頬を手のひらでなでた

それでも安心しきった
幼子のように
ずっと腕の中で眠っている
妻がいとしすぎて
じっと いつまでも
見つめていたかった


腹は空かぬか?
もう朝餉の時刻は
とっくに過ぎている
朝寝坊だと
ヘジャが呆れておるぞ


ヘジャなら大丈夫よ
大抵のことには
慣れっこだもの


ふふっと ウンスは笑った


でも お腹が空いた
みぃも空いたって


ウンスのお腹が可愛らしく
きゅーっと鳴った


ははっとチェヨンが笑い


みぃまで腹が減っては大変
では ヘジャに何か
用意してもらうとするか


そう言って
床から出ようとした


いっちゃうの?
甘える声でウンスが聞く


行かねば ヘジャに
頼めまい


そうだけど・・・


ウンスが
チェヨンの胸の辺りの
衣をくいくいと引っ張る
チェヨンは
合点がいったように
その唇を優しく食むと


直ぐ戻るゆえ 待っていろ


チェヨンは 床を離れ
戻ってきた時には
両手にお膳を持っていた


ん?
ここで食べるの?


今日は
閨から出ぬことにした
少し忙しすぎたのだ
今日は一日ごろごろだ
たまに
ゆるりと過ごさねば
からだばかりか
心も疲れてしまうぞ


変なことしない?


ばっ ばかなことを
しない しない
明るいうちは


もう チェヨンたら


ウンスが笑った
その笑顔にほっとして
チェヨンが微笑む


冷めないうちに
早う 食べるとするか
そしたら また昼寝か?


そんなに眠れないわよ


そうか?
俺の特技は寝ることだが


そうだった
二日でも 三日でも
眠り続けていた人だった
今となっては信じられないけど
ウンスはひっそりと
そう思った

ウンスは
薄紫の寝衣のままで
朝餉にありつき
食べ終わると
片付けもそこそこに
またごろんと 転がった

チェヨンはウンスの
隣に座ると
書物をどさりと
傍らにおいて
ぱらぱらとめくり出した


読書?


ああ 
このようにのんびりと
書を読む暇も考えてみたら
なかったゆえ


私も読もう


読めるのか?
漢字は苦手であろう


少しくらいなら読めるわよ
書けないけど


墨で綴られた書物を一冊
ひらりと手に取ると
チェヨンの背中に背中を
合わせて
その温かさを感じながら
ぱらりぱらりと
書物を読み解く


少し経つとうつらうつら


寝ているのか?


背中から声が伝わって
はっと 目覚めて


寝てないわよ
と 言い返す
でもやっぱり眠い
漢字ばかりの書物は
極上の眠り薬だ

諦めたように
ウンスが頭を振り
チェヨンの膝の上に
収まった


やっぱり 読書はやめた


チェヨンは黙って
ウンスを膝に乗せ
後から庇うように
腕で抱き寄せると

器用に書物を
読み進めている

ウンスは
手元の書物を指差して


これなんて書いてあるの?
この漢字なんて読むの?


次から次へと質問をする
ウンスに
一つ 一つ丁寧に答えると 
また書物を読み進めた

ウンスが振り向いて視線を
上に向けると
時折チェヨンの のどぼとけが
くっと動くのが見えた

急に
いたずらをしたくなって
そののどぼとけに
口づける

びっくりしたような
チェヨンの顔


ふふっ
たまには私も悪ふざけ


ウンスを見おろし
チェヨンが言った


まだ 陽は高いが
お望みならば
続きをしようか?


いい いい
ごめんなさい
どうぞ どうぞ
読書の続きを・・・


その物言いが可愛くて
チェヨンは思わず笑い
抱きしめる腕に
力が入った


時々 振り向いては
唇をあわせ
また 安心して
腕の中に収まる
その繰り返し・・・

穏やかな時間が
ゆっくりと流れていった


そろそろ 灯りが必要か
そんな時間になり
ヘジャが閨の扉の外から
声をかける


あのう そろそろ
夕餉の時刻ですが
また閨でお召し上がりに
なるのでしょうか?


呆れ顔のヘジャが
扉の向こうで尋ねるのが
わかる


いや よい
そちらで食うゆえ


はい かしこまりました


余計なことは言わず
ヘジャが夕餉の準備をし
ウンスは寝衣の上に上着を
羽織って ふたり
卓を囲んで夕餉とする

口に食事を運びながら
ウンスが首を傾げて
チェヨンに聞いた


ねえ
沙羅が夢の中で
心を捧げるだけで幸せだ
って言ってたわ
結ばれなくても
思い続けるだけで
幸せなのかしら?


チェヨンは考える
素振りをみせて


イムジャはどうであった?


と 逆に聞いた





ここにも戻れぬ月日
何を思っておった?


あなたに会えることだけを
願っていたわ
あなたに会いたくて
あなたのことばかり
思ってた


もし 
そのまま会えなかったら
イムジャはどうであった?


う~ん どうかしら


新しい相手を探したか?


それはないわ
帰れると信じて
思い続けたわ
死ぬまで時を待ったはず


俺とて同じ
4年が過ぎて
これが5年だろうと
6年だろうと
イムジャを思い続けて
待ち続けただろう


うん 


だが
4年で帰ってきてくれて
俺の妻になってくれた
俺達は互いの想いが届いたが
もし届かなくても
待ってるあいだも
イムジャを想い
不幸ではなかったぞ

慕う心は人それぞれ
どれが正しくて
どれが間違いと言うことは
あるまい
だから沙羅殿も
きっと自分が不幸だとは
思ってはいなかったはず


そうか
そういうことか


ウンスが納得したように
頷いた 


で 俺は今宵
待ちくたびれた


え?


ゆるりと休み
飯も食った


うん


疲れも取った



うん


では このあとは?


あと?
なんのことかしら?


とぼけるウンスを
じっと見据えて


陽が高いうちは我慢した
イムジャの
悪ふざけにも耐えた俺を
褒めてもらいたいものだ


ん?
どゆこと?


これから反撃の
のろしを上げると
言うことだ


チェヨンがニヤリと笑って
そう言った


長い夜が 巡り来る


*******


『今日よりも明日もっと』
そばにいて 同じ時を過ごし
互いにあたためあう
それで幸せ それが幸せ



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