湯気の向こうにウンスの白い肌
すこうし   丸みを帯びたような
気もするが  
まだ腹が出たと言うほどではない

チェヨンは
あの腹の中に   自分の命を継ぐ
赤子がいるのかと思うと
不思議な思いがした

このような幸せとは
一番遠いところにいると
そう思っていた頃もあった

赤月隊で隊長が死に
メヒが死んだ頃も
父上が死んだ時も
母上が死んだ時も

いや    考えてみると   いつも
取り残されるのは自分だった
追いすがることもできない
二度と会えないところに
みんな行ってしまった

寂しさ   虚無感
そんな心と幼き日より戦ってきた
そんな気がした


なによ


洗髪をしていたウンスが
湯船のチェヨンに振り向き
口を尖らせ聞いてくる
柔らかなからだがふるりと揺れた


なにとは  何か?


視線のやり場に困りながら
妻の問いに問い返す


だってさっきからジーッと見てる
もしかして   太った?
だ   だって仕方ないわよ
妊婦だもの


おろおろとするその表情に
心が癒された


いや    そんなことはなかろう
悪阻でむしろ痩せて見える
くらいだ
それより冷えるぞ
そろそろ   湯船の中に


腕を伸ばすと


うん   ちょっと寒い   と
ウンスがチェヨンの手を取り
腕に掴まるように湯船に入ると
そのままゆっくりと
お湯の中に沈んだ


チェヨンがウンスの腰を
抱えて    滑らぬようにと
気づかっている


ねえ   昔からそんなに
気の回る人だったの?


さあな?


私と出会うまでは   きっと
めんどくさがりの振りして
生きてきたんでしょう
その方が   楽だったから


ウンスがふふっと
心を見透かしたようなことを言う


そうかも知れんな
関わると気になるから
なるべく人と関わることを
避けてきたかも知れん


*******


出来ないと言う感覚が
よくわからなかった

幼き日より学問も遊びも
なんでも器用にこなし
苦労と言うことを知らなかった

家柄もよく   父親は王宮の高官
何不自由ない生活

母親こそ早くに死に別れたが
その隙間を埋めるだけの心遣いを
父親や叔母から貰っている

だから    満ち足りた日々を
送っていたと思っていた
剣術に出会うまでは


ムンチフと初めて手合わせした時
全く    歯が立たないと言うことは
こう言うことかと思いしった
それまでの自分がすべて否定された
気さえした
いくら追いかけても
追いつけなたい
たった   一太刀すら合わせられない

面白くてのめり込んだ
もともと    夢中になると
のめり込む性質
やればやるほど上達することが
楽しくて仕方ない

父上に頼みこみ
ムンチフは正式にチェヨンの
剣術師匠となり
チェ家に稽古にくるように
なった

ムンチフは自分にとり
剣術の師匠でもあり
人生の師匠でもあった

まだ何色にも染まらぬ
若かりし少年時代

国のために生きよと言った父と
己が香りを消して生きよと
言ったムンチフ

そのどちらも志し
結局    どちらも成すことは
できなかった


********


ウンスが   湯船の中で
からだを捻る


ねぇ   さっきから
どこさわってるのよ


みぃを
と  チェヨンが言い訳をする


うそ    ここお腹じゃないわ


冷ややかな目でチェヨンの
手を払う
そんな様子に構うことなく
チェヨンはぼそりとウンスに言った


ウンス   ウンスに巡り逢えて
良かった


そんなこと言っても
騙されないわよ
悪ふざけはなしなんだから


ぷいとふくらむ頬
とんがった唇

結い上げた髪の後れ毛が
うなじに張り付いている

首筋に吸い付いたら
もっと怒られるだろうな

そんなことを考えるのも
うれしくなる


ウンス    このまま一緒に


嫌よ
これ以上湯船に一緒にいたら
逆上せちゃうわ
もう    降参よ~
早く    上がろう
お布団で寝転びたい


ウンスがわあわあと話す
その明るさに救われる


ウンス
ずっとそばに
離れず    ずっとともに


急に言われて
小首を傾げる


ばかね    何言ってるの?
当たり前じゃない
私が何処かに行くつもりだとでも
思ったの?
ヨンのそば以外行くあてはないわ
嫌だと言ってもくっついている


事も無げにからりと笑った声が
湯殿に響き
ウンスがからだを寄せて
くっついてくる
触れ合う肌にどきりとしながら
チェヨンはウンスを抱き寄せ
呟いた


俺のウンス


*******


『今日よりも明日もっと』
あなたの優しさが
沁みてくる


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