もう   ほんとに
口下手なふたりね
ここまで来るとかえって
微笑ましい気さえする


ウンスはウネに笑いかけた


息子さんが生まれた時に
アンジェ将軍への想いを
愛だって   気づいたのね


あい?


うふふ
愛は天界の言葉なのよ
好きで好きでたまらない
その人のことをいつも考えちゃう
その人のこと大切にする気持ち

でも最近はこう思うの
相手のことが気になって
しかたないのは恋

愛するってね
自分よりも誰よりも
その相手のことを
大切に想う気持ちだと想うの

その人の幸せのためなら
どんなことでもがんばれちゃう
そんな心のこと

だからお二人は    もうりっぱに
愛しあっている


ウンスがアンジェとウネを
代わる代わる見て言った


冷たくするつもりなど
なかった
だが俺は逃げていたのかも知れぬ
いつまでもお前はチェヨンを
忘れてないんじゃないかって
聞くことが怖くて


アンジェがぽつりと呟いた


ばかね    そんなわけない
初恋は    はしかみたいなもん
あんたとは
15年一緒にいるのよ
惚れた相手はあんただけに
決まってるじゃない
そんなこともちゃんと気持ち
伝えられていなかった

でも    あんたこそ
あたしで良かったの?


お前以外考えられるか


アンジェが素っ気なく即答する


うふふ   
本当にしょうがない人たち
あとは   おふたりでどうぞ
私とヨンはお邪魔虫よね


ウンスの笑い声が
客間に響き
ゆらゆら   灯が揺らめいた
ウンスはウネに向き合うと


お互いに
大変な想いを抱えて暮らして
来たこと    
よくわかったわ
でも    互いに相手に一途じゃないの
大丈夫よ
ふたりなら


ありがとう


ウネはそう返す


いえいえ    どういたしまして
そろそろ宴もお開きかしら
いいお花見が出来て
ほんとに良かった


ウンスがそう言うと
桜の花びらが宴を惜しむように
はらはらと    散った



チェ家の屋敷からの帰り道

愛馬にウネを乗せて
我が家へいそぐ

アンジェがウネに唐突に聞いた


今宵   もうひとり子を作るか?


ウネは恥ずかしげに   
馬鹿    と言って
そして   小さく頷いた


*******


お開きになると   なんだか
ガランとして
急に屋敷が寂しくなるわね


チェヨンとウンスは
渡り廊下に腰かけて
ふたり    並んで
月を愛でていた
今宵は満月
月明かりが夜桜を照らす


イムジャ   


チェヨンが自分の膝を
トントンと叩き

おいで

と言った


ウンスはすっぼりと
チェヨンの腕に収まると
安心したようにくるまれた


イムジャ


なあに?


宴を楽しんだか


ええ   大満足よ
ありがとう


だが   イムジャも
大概    素直ではないぞ




気持ちをすぐ隠す
イムジャは隠すのが
うまくてかなわぬ


そうかしら?


あの夜    


あの夜?


ああ   
イムジャが悋気した日
イムジャの肌に触れ
俺はほんとに幸せだった
なのに    イムジャは次の朝
泣いておったろう


だからちょっと天界を思い出した
そう素直に言ったわ


それだけか?
ほんとは不安なのではないか
心配なのであろう
母親になることが


ウンスは目を瞬いて言った


どうしてわかるの?
私の気持ち


イムジャを愛しているから
自分以上にイムジャが大切だから


やっぱり   旦那様には
お見通しか


ウンスはふふっと笑った


私    高麗で頼れるのは
あなただけ
でも時々急に心配になるの
そんな時に
オンマがいたらなって
心強いだろうなって
そう思って


そうか
心細い想いをさせてすまぬ
ウネと話せて少しは気が紛れたか?


ええ   とっても
え?
だから?
だからウネさんに
引き合わせたの?
私の不安を消すために?


あいつは母親としては先輩だ
イムジャの良き相談相手に
なるやも知れぬと思うてな


ありがとう   チェヨン


ウンスはしみじみチェヨンに言った


お陰で出逢ったころの
不器用で口下手な誰かさんのことも
思い出したわ
あなたも素直じゃなかったわよ
でも   私たちはアンジェ将軍と
ウネさんみたく
想いがすれ違うような
ことはないわよね


ウンスがチェヨンの衣に
しがみついて尋ねた
チェヨンが力強く言う


当たり前だ
俺とイムジャはふたりで一つ
俺のイムジャはユ・ウンス
ただ一人
すれ違いなど   俺がさせぬ


チェヨンは闇夜に
ウンスの唇を探し求めると
長い時間離そうとしなかった


*******


『今日よりも明日もっと』
いろんな夫婦がいて
いろんな愛の伝え方がある