江南駅1番出口をから 右側に逸れて道なりにいくと 
ウンスの勤める美容形成病院がある。
 ビジネス街にふさわしいシャープな印象がする近代的な建物。
ウンスがここに勤めるようになってから もう3年の月日が
過ぎようとしていた。

 「今日の診療は先ほどの方が最後です。」

看護士のユニが診察室に伝えにくる。

 「今日も忙しかったわね。それにしても
 さっきのアジュンマしょっちゅうあちこちいじって・・・」
 「先生の評判がいいからですよ。腕のいい美人美容外科医に
 お任せしたいって・・・」
 
ウンスは肩をすくめた。悪い気はしないが・・・

それにしても
人の欲望とはどれほどのものなのだろうか?
目 鼻 あごのライン 豊胸 脂肪吸引 きりがない・・・
そのうち元の自分は影形無くなってしまうんじゃないかと
こちらが心配になるわ。ウンスはひとりごちた。

美しさを求めてか 心の闇を埋めるためか
病院には毎日沢山の患者が訪れる。

ありがたいことだ・・・商売繁盛だもの
このぶんだと独立開業も夢ではないわ

自分の足で立ち 自分で人生を切り開いていける
しなやかで強い女性に憧れている。
美容外科医はウンスのそんな
決意を後押しするには十分すぎる職業だ。

人の生き死にに関わらなくていいもの・・・
患者を美しくして感謝されるんだもの・・・

そんなことをぼーっと考えながら
カルテの後片付けを始めた。

 「今日も残業ですか?講演会の準備も追い込みですもんね。」
ユニがウンスの顔を覗き込むようにして話しかけてきた。

 「ああ そうね。余計な仕事を引き受けちゃったから。」
 「えー あんな大規模な医療機器展示会の会場で講演会なんて 
  すごいじゃないですか!」
 「そうかしら?」 
少し謙遜気味に言ってみる

本当はまんざらでもない。業者のたっての頼みと
医局長から白羽の矢をたてられた。
期待に応えたくて、毎日念入りに資料を作り 原稿を手直しし
手応えのある仕事ができそうだ。
そう 3日後に迫った講演会の準備は着々と進んでいる。

最新の医療機器で 最新の技術を披露する。
マスコミの取材もあると聞いている。
こんなチャンスはそうそうない
自分の将来に繋がる大切な一歩だ・・・

先輩ドクター多少のねたみも何のその。
そんなことは気にしない。
気にしない。

だって向こうからの指名だもの。若くて!?美人な!?
ドクターの講演会。
たとえ客寄せパンだと揶揄されようと やったもん勝ちよ
と ウンスは息巻いていた。

 「なにかお手伝いすることはありますか?」
 「そうね、
  でもやっぱり今日は早めに帰って寝ることにするわ。
  疲れがたまって来たのかな.なんだか少し頭が痛いし。」
  
ユニがうなずくと ウンスはおもむろに青いバックに手をかける。
最新のブランド品だ。
雑誌で見つけて一目で気に入り 病院近くの百貨店で取り寄せた。

それなのに・・・せっかくの最新モデルには
いろいろなものがぎっしり放り込まれている。

化粧品が山盛り入ったポーチは欠かせなし、きっと貧乏性なのね。
筆記用具やちょっとした医療器具まで 持ち歩かないと落ち着かないの。

昨日の先生の言葉を ユニは思い出していた。
せっかくのブランド品が・・・ 
もう少し整理したら良いのに・・・ユニは心の中でそっとつぶやく。
まあそこが先生のいいところか。気取らないというか何と言うか...

ユニと彼女は、赴任して以来の付き合いだ。
面倒見がよく 患者の信頼も厚い。手術のうでは病院でも
たいしたもので ウンスを指名してくる患者も多いと聞く。
同僚の間でも、恋バナや愚痴を親身に聞いてくれると頼りにされて
姉御のような存在だ。
でもなんだか自分のことは二の次で 
最近は仕事にのめり込みすぎているのではないかと
ユニは心配していた。

確か心臓外科からの転身と聞いているけど。
美人の女医先生だもの、美容外科の方が天職かもしれないな 
独立に向けて今が正念場なのかしら?
ユニはひっそりと納得していた。

  「あんまり無理しないでくだいさいね。
   講演会も近いんですから。
   先生がお休みしたら 困っちゃう人もたくさんいますし、
   ホントに今日は早く帰って寝て下さいよ。」

ユニが本気で気にかけているのがわかる。
ウンスは はいはいというかわりに顔の前でひらひらと手を振った。



ユニが行ってしまってからも ウンスはしばらく椅子に腰掛けていた。
診察室の窓からは漢江の夜景が見える。
おなかもすいたし
そろそろ帰らなくちゃ

最近購入した小さいお城でお風呂に浸かって
ゆっくり心とからだをもみほぐそう・・・
頭ではそう考えているのに

なぜか
ここ数日夕方になると心のざわつきが治まらない自分が居る。



  そこにいる?

ふいに口から出た自分の言葉に ウンスははっとした。
なにを言ってるんだか・・・


  そこにいる? わたしはここよ

心の叫びにも似た ことば・・・

わたしったら誰に向けて言ってるの?
無意識の意識が ウンスを悩ませる。

  そこにいる?

遠い昔の記憶なのか 未来に向けての言葉なのか
夢の中の誰かに向けてか

仕事が忙しすぎて ストレスがたまっているんだわ
講演会が終わったら リフレッシュに旅行もいいな

あ~~~ 帰ろ 帰ろ
ウンスはやっと立ち上がった。




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ぼちぼちと書き進めていけるといいなあと
思っております。

『今日よりも明日もっと』 良い日になりますように・・・

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