前方を先導する様にアーカンソー医師が進み、その背後をふたり並ぶようにカイルとベルトランは歩んでいく。


熱い責任感に燃えるカイルを見詰めるベルトランのヘイゼルの瞳はどこか羨望の色を帯び、複雑なものを秘めたかのような憂いを浮かべている。

背後を振り返り梓紗を見詰めるベルトランは何かを手放すように瞳を伏せると静かに息を吐き出す。

もう一度前を向いたベルトランの顔は、いつものように華やかな美貌を振りまくような表情に切り替わっていた。


前を歩くアーカンソー医師も、淡い水色の瞳も漆黒の瞳も、そんなベルトランの様子に気付く素振りを垣間見せることさえできないほど僅かな間の出来事だった。



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ようやく話がひと段落ついたのだろう。アーカンソー医師が此方を振り返り声を掛けてきた。


「待たせて申し訳ない。
それから…団長と副団長には大切な話があるから此方に来てはもらえないだろうか?」


「「分かった、そちらへ向かおう。」」


梓紗が腰掛ける脇にアーカンソー医師、カイルとベルトランは梓紗の目の前に跪いて話を待つ格好となった。


アーカンソー医師がカイルとベルトランにかい摘んで梓紗の事情を伝えながら、大まかな注意点をも踏まえた説明をしてくれた。

説明を受けたカイルとベルトランは難しい顔をしながら痛ましげな目で梓紗を見ている。カイルに至っては苦しげでさえある。


「…それから、団長にお願いしたいことがあるのだが、宜しいだろうか?」


「アーカンソー医師、
私が聞いていても大丈夫な話なのか?」


「副団長にも聞いて頂ければ、
かえって心強いと思います。」


「…そうか?ならば私も話を聞こう。」


「大まかですが先程も説明させて頂いたとおり、此方の御嬢さんは今とても心が不安定な状態にあります。

急激な環境の変化、突然訪れた身の危険などを鑑みて団長も副団長もお考えのことととは思いますが、御嬢さんの状態をよく理解した上で彼女を守り支えていく必要があります。

その役割は出来うるならば、彼女が信頼している立場の人間が望ましい、というのが医師としての私の見解です。

彼女から話を聞き、状況を総合的に判断した結果、彼女の傍にいて注意を払い見守る役目を団長にお願いしたいと私は考えています。

宜しいでしょうか、団長?」


アーカンソー医師の言葉にカイルは苦しげな顔を驚きに変え、胸の内では自分が務めたいと強く望む役目を任されたことに言い知れぬ喜びを感じ、湧き上がる熱い想いに打ち震えていた。

だが、責任ある立場を任されるからこそ梓紗本人にも改めてきちんと確認を取りたい。


「無論、引き受けるつもりでいた。
だが、アズサ殿は…私で良いのか?」


「御迷惑かと思いますが、私は団長様にお願いしたいのです。……やはり御無理でしょうか?」


「迷惑などあろう筈も無い!むしろ私を信頼してくれたことが嬉しい。
その役目しっかり果たしてみせよう!」


「良かったね、アズサ。私が言うのもなんだが、カイルは信頼にたり得る男だ。安心して任せていれば良いよ。」


「団長様ありがとうございます!
ベルトラン様もありがとうございます!」


カイルの常にない熱のこもった発言に驚くと共に、しっかりとカイルの人間性を保証し梓紗を落ち着かせようとするベルトランの態度はアーカンソー医師をホッと安堵させるものだった。

うまく事態が運び、当初考えていた以上の成果が得られたように思われる。なんといってもベルトランの存在は大きい。

どうやらベルトランが梓紗とカイルの仲を応援する意志を持っているらしいことも心強い。

その上、女性との華やかな噂の絶えない普段の言動と違い、梓紗に対するベルトランの言葉や態度は思い遣りに満ちている。

幾分、言葉が足りない傾向にあるカイルを周囲への気遣い豊かなベルトランが補佐してくれるならば、医師の自分が付いてやれなくてもバランスの良いふたりが梓紗を守ってくれることだろう。


それに…素直に喜ぶ梓紗はきっとカイルのみにとどまらず、ベルトランのことをも信頼している。

責任感の強いカイルが熱意を持って梓紗を守るように寄り添う姿は、見ていて微笑ましいくらいだ。


アーカンソー医師は微笑ましいふたりへ視線を向けた後、表情を緩めて三人に告げる。


「今後のことについて、もう少し
伝えておきたいことがあります。

御嬢さん、ちょっと団長と副団長を
借りていくよ。」


アーカンソー医師に促され、カイルとベルトランは梓紗から離れた場所へ向かうようだ。


「では、アズサ殿の傍に居る者が必要になるな。警護の代わりを呼ぼう。

デラージ、ロドルフォ!『渡り人』様の警護を頼む!」


「「はっ!」」


すぐに皆より年若いと思われる騎士と硬質な美貌を持つ騎士が駆け付けてくる。


「『渡り人』様をしっかり御守りするのだぞ。」


そう言い置くとカイルはベルトランと共にアーカンソー医師と連れ立って歩き出していった。



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治療を終えた後も長らく話し込む、ふたりをモヤモヤとした思いでカイルは見詰めている。


そんなカイルの耳にベルトランの声が聞こえてきた。


「なあ、カイル。アズサを王都へ連れて行くなら王族である私は外せないとして…他は誰が適任だ?

カイル?…おい、聞こえているのか?」


「…ああ、すまない。考えを纏めていたところだ。同行はデラージ、レリックス、ニッキー、それにロドルフォでいい。

ビュールには此処での処理が終了次第、皆を率いて戻るよう伝えてくれ。」


「「「「「「はっ!」」」」」」


テキパキと指示を下しているけれども、カイルが考えていたのは恐らく指示内容ではないだろう。

幼い頃から共にいたからこそ気付く。何かに気を取られているカイルの気持ちがベルトランには透けて見えるようだった。


そんなベルトランの心配を他所に、近衛騎士団の面々はカイルの指示通り分かれて手配や伝言の為に動き出していった。



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