先週からの続きです。

今週は少し,法律の話をします。

 

 

 この問題は,河豚田氏が作成した競業避止義務合意書が,有効かどうか?(関西人はよく「この書類は生きているの?」と表現しますね。)にかかっています。

 

 

なぜ,競業避止義務合意書を作らなくてはいけないのか?

 

 

会社は従業員に重要な仕事してもらうためには,ある程度会社の営業上の秘密(商品の設計図や取引先の情報など)を教えなくてはなりません。

しかし,従業員がすぐやめて独立し,競争相手になるようであれば,会社も簡単に営業上の秘密を教えることはできませんし,会社として事業を発展させていく上でも困るわけです。(ただ,できる人には,早いうちから全てを教えて,バシバシ仕事をしてもらいたいものです。)

 

また,営業上の秘密を教えていなくとも,元従業員が独立することにより,取引先を奪われるなどの不利益が生じる場合もあります。

 

 

そこで,会社の利益を護るために考えられたのが,退職後にも従業員などに競業避止義務を課すことです。(この議論は,不正競争防止法という,見るだけでも頭がくらくらする法律の問題ですが,詳しい話は割愛します。弁護士に聞いてください。)

 

 

しかし,一方で,この競業避止義務をむやみに従業員に課すと,従業員の職業選択の自由(憲法22条2項)を狭めているのでは?という問題もでてきます。

河豚田氏のように,ホームページ制作の仕事をしていた従業員に,同じ仕事をするなというのは,その従業員が築き上げたキャリアをぶち壊すようなものです。

 

この問題の基準となる有名な判例があります。

その名も「東京リーガルマインド事件」(東京地決平成7年1016日)という判例です。

裁判所の文章は,極めて難解ですので,ここでは引用いたしません。

 

 

これだけ頭にいれましょう。

 

 

 

この裁判で裁判所は,競業避止義務を求める理由に着目して,2つの場合に分けて考えました。

ざっくりすぎますが,こんな感じでしょう。

 

 

① 本当に会社の営業秘密といえるケース

② 営業の秘密とまではいかないけど,同じ業種をされると取引先をとられるなどの営業上のマイナスがあるケース

 

 

①のケースは,競業禁止の内容が不当でない限り,原則として競業避止義務合意書は有効

としました。

②のケースは,競業行為の禁止の内容が必要最低限度であり,かつ十分な代償措置をとっていることで初めて競業避止義務合意書は有効としました。

 

さて,私は,この判例を踏まえて反論をしました。もちろんきちんと書面で反論します。

 

 

 

だいたい,こんな感じです。

 

 

 

「冠省 当職は,貴職に対し,以下回答いたします。

 貴社の主張は,元従業員の競業避止義務合意書の有効性に関わるところ,いわゆる東京リーガルマインド事件の基準に基づいて,反論を述べます。

 河豚田氏は,貴社において,主に,ホームページ制作におけるディレクターとして,ホームページ制作のスケジュールの進行管理、コンテンツの品質管理、プロジェクトメンバーの選定,WEBサイトの企画などの業務を行っておりました。

 河豚田氏は,貴社の業務を通じ,公然と知られていない貴社が秘密として管理している生産方法,販売方法その他事業活動に有用な技術上又は営業上の情報(以下「営業秘密」といいます)を取得しておりません。

 すなわち,河豚田氏の上記の業務に関わる経験,知識及び技術は,貴社の前に就職していた別の会社で習得したものであり,貴社において新たに習得したものではないところ,河豚田氏が有する経験,知識及び技術は,貴社の営業の秘密に属するといえません。

 また,河豚田氏が,あいさつに訪れた企業は,貴社のホームページにおいて「取引先企業一覧」と記載されているものであり,取引先について非公然性はありません。

 仮に,貴社が,河豚田氏が不正競争防止法上の競業避止義務を負うというのであれば,貴社は,何をもって営業秘密とするか特定されるべきです。

 少なくとも,貴社の主張によれば,河豚田氏が,不正競争防止法に違反する行為をなしたという主張を明確にしていないところ,河豚田氏が作成した合意書は,競業行為の禁止の内容が必要最低限度であり,かつ十分な代償措置をとっていることで初めて有効といえます。

 しかしながら,河豚田氏に課された競業避止義務は,2年間もの長期間であり,日本国内という広範囲に過ぎる地域を対象としており,必要最低限度とはいえません。かつ,代償措置となる退職金も十分ではありません。

なお,競業避止義務合意書については,溥儀田氏が任意に作成し提出したものではなく,河豚田氏が,貴社に退職の意思を伝えた3日後,貴社の社長室にて,すでに文面が作成されていた書面に,貴社の社長及び顧問弁護士に署名押印するよう促され,やむなく署名押印にいたったものであることを申し添えます。

 よって,河豚田氏が作成した競業避止義務合意書は有効とはいえず,河豚田氏は,貴社に対し,競業避止義務を負わず,損害賠償義務や事業を差し止める義務はありません。

 本件は,当職が代理いたしますので,以後の連絡は当職までなされたく存じます。」

 

 

 

この書面を送付後,しばらくして,相手の弁護士から連絡がありました。

 

 

続きは来週といいたいところですが,来週は弊所が夏季休暇ですので,再来週までお待ちください。