随分前のことですが・・・
ある経営者から相談がありました。彼の名前を仮に「河豚田氏」とします。
河豚田氏は勤務していたホームページ制作会社をやめ,フリーのホームページ制作業者として独立しました。退職金は雀の涙程度だったとこぼしていましたが。。
河豚田氏が勤めていた会社をこちらも仮に「山海商事」としましょう。
河豚田氏は,お世話になった山海商事時代の取引先に「今度,独立しました。よろしくお願いいたします。」と挨拶まわりをしました。すると,河豚田氏の人柄を気に入っていたその中の一社が,仕事を回してくれるようになったのです。ありがたいですね。
しかし,本題はこれからです。
河豚田氏は,在職中こんな一筆を書いていたようです。
競業避止義務合意書
私は,貴社を退職した場合,退職後2年間,日本国内において,以下の行為はしません。
1.貴社と競業関係にある事業者への就職及び役員への就任
2.貴社と競業関係にある事業者の関連会社への就職及び役員への就任
3.貴社と競業関係にある事業を自ら営業すること
4.貴社と競合関係にある新規事業の主導的役割を担うこと
平成○○年〇月〇日 河豚田鮭男 ㊞
すると,河豚田氏のもとに,山海商事の顧問弁護士から内容証明郵便が来たのです。
「弊社と貴殿の競業避止義務合意書に反する競業避止義務違反だ。すぐに取引を中断しろ。また,この会社との取引で得た利益は当社が得られるはずの利益だった。その利益が損害だから,その利益もよこせ」
もっと丁寧な文面ですが,要約するとこうなります。
『おかしいでしょう。じゃあ,どうやって独立しろというのですか。これじゃあ家族を養えないですよ。』
実直な河豚田氏は,内容証明を片手に怒りで震えていました。
実は,こういうケースは実に多いのです。独立あるあるなんですね。
従業員が独立するとき,ある程度のお客さんをもってでることはあるのですが,その線引きをしっかりしていないと,このようにトラブルになります。
むろん,独立した元従業員の気持ちもわかる。しかし,会社の方もお客さんをたくさん持って出られると,非常に困りますよね。
相談を聞きながら,最高裁の基準はこうだよな,たしか,あの時の東京地裁の判決は,この要件を要求していたな。大阪地裁の判例は,もう少し踏み込んだ要件を要求していたような。。
私は,少なめの脳細胞をフル活用して,紛争の要点を確かめていきます。
『わかりました。河豚田さん,まだ示談交渉というところですね。訴訟になるかどうかは,わかりませんが,私が相手に書面を送付して,相手の弁護士と話をしましょう。いいですか?』
『お願いします。着手金は今週中に振り込みます。』
私は,早速書面を作成し,相手の弁護士に送付しました。
続きは来週。