Until I Find You | そういえば、昔は文学少女でした。

そういえば、昔は文学少女でした。

クリスマスと誕生日に一冊ずつねだった、「世界少女名作全集」。図書室の本を全部借りよう、と思ってた中学時代。なのに今では読書時間は減る一方。ブログに書けば、もっと読むかも、私。という気持ちで始めます。洋書から雑誌まで、硬軟とりまぜ読書日記。

John Irving
Until I Find You

アーヴィングの面目躍如。きれいな装丁とタイトルに騙されてはいけません。美しい純愛物語を期待したら大間違い。

800ページを超える長編は、例によって数奇な運命に翻弄される主人公を、キテレツな舞台設定と強烈な脇役たちによって描いていきます。あらすじを紹介するのも一苦労。ちょっとやってみますが。


冒頭、ジャックは4歳の少年です。母親のアリスはタトゥーアーティスト(入れ墨師)の娘で、自らも腕の立つ職人。アリスは10代のときに教会の聖歌隊で歌っていて、オルガニストのウィリアムと出逢って恋に落ち、ジャックを産むもののウィリアムとは破局。シングルマザーとしてジャックを育てながら、行方をくらましたウィリアムを追いかける旅に出ます。ウィリアムは入れ墨中毒で、体のあらゆる部分に楽譜を彫ってもらっている、という設定がすでに異常ですね。さらに、美男子だけど女性に目がなくて次々にいろんな人と関係を結ぶ、相当自堕落な男として紹介されます。


カナダから北欧へ向かう母子は、行く先々の街でタトゥー・パーラーと教会を訪ね、ウィリアムの面影を追い求め、現地の人々と風変わりな交流を持ちます。1年かけて北欧の旅を終え、ウィリアムに会えないままカナダに戻ったアリスは、なぜかジャックを女子校に入れることに。父親の容貌を受け継いだらしいジャックは、幼児にしてすでに年上の女性たちを惹きつける魅力の持ち主で、本人の意志とは関係なく、女たちの欲望や誘惑にさらされます。好奇心さかんなティーンエイジャーの女の子達は仕方ないとしても、10歳のときに、50代のおばさんに肉体関係を強要され、しばらく言いなりにつきあわされる、おぞましい経験などもします。

母のアリスは、同性愛の恋人ができて彼女に夢中。その娘のエマが、何かとジャックの面倒を見てくれる。エマは、7つ離れた姉のような存在として、その後もジャックの支えであるのですが、悲しい秘密を抱えたまま、若くして命を落とします。


女子校で演劇を仕込まれたジャックは、長じて俳優の道を目指すことになりますが、ずっと女性役ばかりやらされていたためか、大人になってからも服装倒錯者(つまり女装した男)の役者としてB級スターになるわけです。父親のようになってはいけない、という戒めがずっとジャックを縛り、彼はいつまでも意志を持てない、他人の人生を生きるような生活を続けます。

それでも、エマの死によってめぐってきた転機が、彼を「アカデミー賞受賞」へと導きます。俳優ではなく、脚本家として。


ほどなくして母アリスも喪ったジャックは、父と母にまつわる出来事の大半が、アリスによる嘘だったことを知らされます。本当のウィリアムは、アリスに聞かされていたような最低男ではなかった。最低なのはむしろ、アリスのほうだったんじゃないか。

そしてジャックの、父親探しの旅が始まります・・・


うーん。難しい。全然要約できない。興味を持った方は、ぜひ読んで実感してください。


ひとつ言えるのは、ヘンテコきわまりない人々であり、設定なんだけど、やっぱりどうしようもなく愛おしく思えるということです。これがアーヴィングの独特の世界なのですね。

最初に「美しい純愛物語を期待したら大間違い」と書いたけど、ある意味、これも美しい物語なのかもしれません。汚いもの、滅茶苦茶なものが全部濾過されて、浄化されて、最後に残った水はきれいに澄んでいた、というような感覚ですか。