馬刺しの誘いを断って

 

運送会社を経営する友人から夕食に誘われた。

「中洲でうまい馬刺しを食おう。今夜は俺がおごるぜ」

 

馬刺しは、大の好物。

行きたい。

 

しかし、娘との約束があった。

 

「すまん、やめておく」

 

 

その日の午前、アルバイト先の娘からLINEが届いていた。

娘は大学の前期試験とインターンシップの会社訪問を終えたばかりだった。

 

「もう、へとへと。今夜はヘルシーなご飯が食べたい」

「よっしゃあ。パパにまかせなさい」

 

こんなやりとりをしていたので、

中洲に飲みに行くわけにはいかなかった。

 

 

夕食の献立は、おからの煮物、レンコンとカボチャのみそ汁、オクラのおかかポン酢和え、キュウリの糠漬け。

 

 

僕がハイボールを飲んでいると、娘が「私も飲みたい」と言った。

2人で乾杯。

料理をつまみながら、いろんな話をした。

 

就職のこと。

友達のこと。

恋愛のこと。

 

週に5日は、わが家で一緒に晩ご飯を食べる彼氏のねすたは、

大学の前期試験中だったので、この日は不在。

 

やつもアルバイトをしながら部活に勉強と、本当によく頑張っている。

 

娘が、レモンサワーを飲みながらポツリとつぶやいた。

「ねすた、パパに感謝しとると思うよ」

 

いやいや、こちらの方こそありがたい。

ひとりだったら、酒を飲みながら、カップ麺やレトルト食品ばかり食っていただろう。

ねすたとはながいてくれるから、ちゃんとしたご飯を作って食べている。

 

娘がスマホを取り出し、スタバのピーチフラペチーノの画像を見せてくれた。

 

「ねすたがおごってくれた。お金ないのにね。会社訪問、お疲れさまって」

 

「愛されているなあ。よか男と出会ったね」

娘は「うん」と答えた。

 

 

はなが幸せなら、パパも幸せ。

 

馬刺しの誘いを断って正解だった。

 

 

 

 

 

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