先日のニュースで記憶に新しい、「ヤマカガシ」。
あまり聞きなれない名前だが、ヘビの一種である。
伊丹の公園で小学5年生の男の子が手首を噛まれて、一時意識不明になったようだ。
このニュースを聞いた瞬間、昔の忌まわしい記憶が甦った。
ヘビが苦手な人は拡大しないでね。
これ、何かわかるでしょうか?
そう、知る人ぞ知る、猛毒を持つ「マムシ」。
身体の模様に特徴があって太く、頭部が三角形をしている。
実は私、これに噛まれたことがあり救急搬送された数少ない経験の持ち主である。
小学6年生の夏休み。
お盆にいつものように、祖母のいる岡山の田舎町に妹と2人だけで帰省中。
大阪にいる両親は、あとから迎えに来てくれる。
そこは、棚田の広がる田園地帯である。
親戚の家が何軒かポツポツと離れた位置にあり、いとこの家から祖母の家に帰るのに細~い道を通る必要性がある。
祖母が迎えに来てくれて、妹と一緒に3人で帰路につく道中で事件は起きた。
いつも通っている道とはいえ舗装をしているわけでもなく、両側が田んぼのあぜ道のようなもの。
もちろん「マムシ」もたまに出るという話は聞いていた。
実はこの2年前に帰省した時には、寝ている間に「ムカデ」に噛まれていたのだ。
それも、股の付け根の太もも辺りである。
寝てたとはいえ、後で考えると恐すぎる。
もうちょっとで、大事な局部をやられるとこだった(笑)。
いやいや、笑えんよ。
↓↓こっから、ノンフィクションの実話である。
部屋を真っ暗にして、稲川淳二をナレーターとして呼んでからお聞きください(笑)。
ムカデのこともあったので、その道を帰る時も小学生でありながらも何かを察知したように、強烈な不安に襲われていた。
もう夕食後だったので、午後8時頃だったように思う。
前をゆっくりと歩く祖母と妹。
少し坂道を登る道で距離にして40メートルほど。
とにかく早く上の広い車道に出たくて、「おばあちゃん、もっと早く行って!」と叫んだ。
4メートル先を行く2人に道を塞がれているので、走るに走れずそのまま歩くこと数歩。
あと車道まで10メートルくらい、「もう少しや!」。
そう思って右足を一歩出した瞬間、小指近くの右側面部に針で刺されたような感覚を受けた。
その瞬間、無意識に猛ダッシュで駆け上がった。
気づいたら、祖母と妹を追い抜いていた。
車道に座り込み、電灯の下で右足を見てみると...。
小指の付け根から3センチ辺りに小さい穴があき、出血していた。
それを見た瞬間!
「おばあちゃん!マムシに噛まれた!!」
「血出てるとこ、早く吸って毒出してっ!!」
「ほんで、タオル何枚か取ってきて!!」
その瞬間に出た言葉である。
今考えると、小学生でよくこんな冷静にしゃべれたな~と。
自分自身に感心するが・・・。
事態が深刻なのは頭で理解は出来ていた。
祖母がうろたえながらも、私の右足に吸いつき毒出しをする。
妹は小学2年生、もう恐くて怖くて泣きじゃくる。
祖母が「口の中が痺れる!」と言ったようにも記憶している。
その後、祖母と妹は必至に坂を駆け上がり、タオルを取りに行く。
祖母宅まではまだ走って5分くらいかかる。
その場に一人取り残された私。
人も車もめったに通らない、真っ暗闇の田舎の車道。
「もう、ほんまにここで死ぬかもしれん。」
本当に死を意識しつつも、涙は決して出なかった。
負けん気の強い性格がそこでも出たような...。
「絶対、諦めん!こんなとこで死んでたまるかっ!!」
右足首を両手で必死に抑えながら、何が出来るか即座に考える。
私のいるところから下を見渡すと、さきほどまでいた、いとこの家。
ちょうど家の裏側にあるお風呂場の電気が見えた。
「もしかして、おっちゃん(母の兄)入ってるんちゃうか?」
でも50メートル以上も離れてるし、どうしたら...。
「おっちゃんーーーーー! ヘビに噛まれたーーーーー!」
「助けに来てーーーーー!!」
無我夢中で叫んだ。
あんなに大声で叫んだのは、これまでの人生でも、あの時一度きり。
「生」への執念だったように思う。
何度も何度も叫ぶが、反応がない。
「やっぱり聞こえへんのか。もう死ぬんか、おれ。」
絶望の状況に陥る。
ほんの数分しか時間は経ってないが、えらく長い時間に感じたことを今でも覚えている。
しかし、幸運の瞬間はやってくる。
「かつゆきーーーーー! 待っとれーーーーー!!」
「すぐ行くぞーーーーー!」
おっちゃんに、私の声が届いていたのである。
後で聞いた話だが。
浴槽にのんびり浸かっていた時、私の声がすぐに聞こえてきたそうだ。
でも普段から、やんちゃな悪ガキだった私...。
おっちゃんは「また、冗談言っとるな~。」と、最初は笑ってたそうな。
でも何度も何度も私の悲痛な叫び声が聞こえて、やっと大変な状況になってることに気付いたようだ。
私のところに駆けつけた時のおっちゃんの姿。
なんと、パンツ一枚の裸。
まだ身体は濡れたいた。
まさしく浴槽から出たままで、タオルを何枚か握りしめていた。
その時、ようやくおばあちゃんと妹も戻ってくる。
おっちゃんは、救急車を呼ぶように言ってから駆けつけた。
田舎なので15分以上もかかるらしい。
とにかく、マムシの毒が身体全体に回らないようにしないといけない。
5,6枚のタオルで足首から順番に太ももの付け根まできつく縛っていく。
おっちゃんが、渾身の力を込めて結ぶ。
右足は見る見るうちに変色していく。
「おっちゃん、僕の足、切断せなあかんのん?」
現実が小学生の私を追い詰める。
「そんなことない。すぐに助けてもらえる。男やったら辛抱せえ!!」
そう言ってくれたことが、本当に励みになった。
それでも涙は見せなかった。
妹はまだ泣いてたし、これ以上不安がらせてもあかんから...。
必死に今の状況をこらえた。
「ピーポー! ピーポー!」
だんだんと意識が薄れつつあるような感覚から、聞こえてきた救急車のサイレン。
「やっと助かるかも。」
本当に長い時間が経過したように感じた。
救急車には、パンツ一枚のままのおっちゃんが同行。
祖母と妹は家に残り、大阪の父母に連絡することになった。
そっから病院までも遠い遠い。
あまりの恐怖体験からなのか、足をきつく縛ってあるからなのか、それともマムシの毒が回っているからなのか...。
だんだんと意識が遠のいていく。
それでも、なんとか病院に到着。
手術台にすぐに乗せられ、医者とおっちゃんの話し声がかすかに聞こえる。
「間違いなく毒ヘビに噛まれています。」
「大人であれば血清注射を打つのですが、まだ子供さんなので血清注射はかえって危険かもしれません。」
「緊急の切開手術をします。緊急を要するので麻酔なしでメスを入れます。」
「子供さんの身体を暴れないように抑えておいてもらえますか?」
こんなやり取りが聞こえてきたのである。
子供ながらに、今でもはっきりと覚えている。
「やっぱり助からんのやろか?もうここで死ぬんやろか?」
また弱気になっていく。
田舎町の病院なので、医者1人と看護婦1人だけ。
その後、すぐに緊急オペが始まる。
おっちゃんが私の口を大きく開けるように言ってきた。
「ええか。このタオルを力を入れてしっかり噛むんやぞ!」
「足ちょっとだけ切って、ヘビの毒出すからな!」
そして看護婦とおっちゃんが、私の身体に覆いかぶさり押さえつける。
その瞬間、右足の噛まれた部分から激痛が私を襲う。
「ああーーっ!!」
タオルで口を塞がれているので声も出ないが、猛烈な痛みだ。
麻酔なしでメスを入れて切開したのだ。
今ブログを書きながら、その部分の切開跡を見ると...。
約3センチの傷。
今でも残っている。
そっからは、ほぼ意識が完全に遠のく。
あまりの恐怖体験と激痛。
大人でも耐えられないだろう。
ちらっと見た足元、凄い量の出血。
ベッドも床も血で染まっていた。
「これでなんとか大丈夫だと思います。傷口の処置をして病室に運びます。」
その医者の声を聞き取ったと同時に眠ってしまったようだ。
翌日朝、目を覚ますと大阪から両親が駆けつけてくれていた。
「ああ、助かったんや。」
ようやく安堵の気持ちになれた。
でも右足には激痛が残り、全体が大きく腫れあがり自分自身の足ではないような感じを受けた。
そしてそこにはもう、おっちゃんの姿はなかった。
「あれ、おっちゃんは?」
「パンツ一枚やったから、もう家に帰ったよ。」
「そっかー。おっちゃん、ありがとう。」
次に会ったら、必ずそう言おうと心に誓った。
そんなこんなで、九死に一生を得たのだが。
大阪に戻ってからも二カ月くらい病院へ通院。
田舎でもマムシに噛まれることなんて、まず稀なので大阪の病院でも私の事が話題になっていた。
今回のニュースで「ヤマカガシ」の存在を知り。
私を噛んだのは本当に「マムシ」だったのかが微妙ではある。
真っ暗闇での出来事だったので、何も見ていないんやからね。
噛まれた感触だけやから...。
でも田舎では「ヤマカガシ」の目撃談はないそうなので、やっぱり「マムシ」だったんだろう。
「ヤマカガシ」。
マムシの3倍、ハブの10倍の毒を持つそうだ。
まだ夏休みも残ってることやし。
みんな注意されたし。
怪しい場所へは、長靴を履いていくべきかな。
私のようにサンダルで危険地帯を、うろちょろしたらあきまへん。
噛んでくださいと言ってるようなもの。
あ~、恐っ!!