姫野カオルコ 文藝春秋 2020年11月

 

 

コロナ禍のさなか、家でひきこもっていた女性が見つけた名簿と一冊の本。地方の高校に通っていた記憶が、映画を見ているかのように浮かびあがる。『ラブアタック!』、『パンチDEデート』、「クミコ、君をのせるのだから。」、ミッシェル・ポルナレフ、スタイリスティックス、『ミュージック・ライフ』、『FMレコパル』、旺文社のラジオ講座…そして、夜の公衆電話からかけた電話。「今からすれば」。見る目を広めた彼女の胸に、突如湧き上がる思いとは。


この物語は、作者と同世代、それも、作者と同じ滋賀県の高校の話なので、
自伝かと思ったけど、そうではなかった。
あくまでも、フィクションなのだ。

秋吉久美子などの女優の名前、『パンチDEデート』などのテレビ番組、スマホも携帯電話もない時代のことなどが書かれているが、ああ、そうだったと思いだすこともあった。


物語は、還暦を迎えた乾明子が、昔を振り返る。

電話の内容を親に聞かれているような厳しい家庭環境。
学校では、「暗子」と呼ばれる地味な生徒だが。
男子と、友達になれるような一面を持っていた。
そんな明子の青春時代。



青春真っ只中の時は気づかなかったことが、
思い出となった今、輝いたのもになったのではないのか。


3年7組のクラス、なんか、いい。

<これからの喜びだけが在った日々は、後方に去った。それはしかし、いっぱいいっぱいいいことがあって、今いるということなのである。厭なこともいっぱいあって、それでも。>

お気に入り度★★★★