前回の記事(薬剤師より「妊娠とお薬外来」について その1)では、ヒトの妊婦さんにおける医薬品の安全性や催奇形性のデータは少ないというお話をしました。

 

では妊婦さんのデータというのはどのようにして得られるのでしょう。

 

たとえば、何らかの病気をお持ちでその治療のためお薬が欠かせない方が妊娠して出産されたような場合というのは貴重な情報となります。

 

また、妊娠初期に妊娠していると気づかずに薬を飲んでいたという方がその後出産されたといったケースも大切な情報となります。

このような情報を、海外や国内で調査・集積したものや文献等で報告されたものを活用して安全性の評価をすることになります。

 

新薬などでは上記のような情報がほとんどない場合もありますが、そのような場合でも参考にできるデータがあります。

それは医薬品の開発時に行われている動物による生殖発生毒性試験のデータです。

この試験では動物に低用量から非常に高用量までさまざまな量を投与して、妊孕能や妊娠、胎児への影響などを確認しています。

もちろんその結果がそのままヒトに適用できるわけではありませんが、重要な情報であることは間違いありません。

 

ヒトの赤ちゃんが何らかの先天異常を持って生まれる確率は、報告や異常の定義によっても若干の差はありますが、一般に約2~3%と言われています。

それらのほとんどは遺伝情報の異常が原因であるものや原因のわからないもので、妊娠中に薬を飲んだかどうかにかかわらず避けることは困難と考えられます。

 

実際には医薬品の安全性の評価は、妊娠中にある薬を飲むことによって先ほどの先天異常の確率が高くなると考えられるデータがある場合に、妊婦さんにとってリスクの高い薬ということになり、薬を服用しても確率が変わらないという統計的なデータのあるものは安全な薬と評価されることになります。

 

このように、妊婦さんに医薬品を使用した場合の安全性の絶対的な評価というのはとても難しいものなのです。

 

ですので、妊娠中にはその薬を使用することが本当に必要かどうかを判断することも重要になります。

安易にお薬を飲むことは避けたいですし、むやみにお薬を止めたり、我慢したりすることで、治療中の疾患が悪化して妊娠の維持や胎児によくない影響が出る可能性もあります。

 

英ウィメンズクリニックでの「妊娠とお薬外来」では、患者さまが他院等で処方されているお薬をそれぞれ個々に、上で述べたような現在入手できる様々な情報を用いて評価して、患者さまに情報提供を行っています。

 

必要に応じてそれらのお薬を処方されている医師に情報提供を行い、協力して妊婦さんあるいは不妊治療中の患者さまにとって、より安全と考えられる処方を提案していくこともあります。

 

「妊娠とお薬外来」ではできるだけ患者さまの心配や不安をなくし、安心して不妊治療に臨んでいただけるようお薬についての相談をお受けしていますので、お気軽にお越しいただければと思います。

 

[生殖医療薬剤部門] 山本 健児