食事の頃になると、父も帰ってきた。
そして、家の中に珍しい可愛い女の子のお客さんをみて、すっかりデレデレになっている。
母は、僕の恥ずかしい子供の頃の事を、面白おかしく聞かせた。
彼女は、楽しそうにケラケラと声を出して笑っていた。
僕は苦笑いをしながら、母に調子を合わせていた。
「よしおのママとパパは、優しいね」
「羨ましいな」
「よしお、本当にありがとうね」
食事が終わると、彼女は僕にこっそり言いにきた。
僕の話しなんかで、彼女が笑顔になれるんなら、それでもいい。
僕は、彼女の笑顔が好きだから。
悲しそうな顔。
寂しそうな顔はみたくない。
少しでも、彼女の中の嫌な出来事、それを忘れる事が出来たなら・・・。
それだけでも、いい。
ただ、それだけだった。
食事をして、一息ついた頃、僕と母で彼女を送る事にした。
彼女の家は、そんなに離れて居ない。公園から5分の所。
薄汚れた、壁の薄そうな小さなアパートの中の一つが彼女の家だった。
他の家は明かりがついているのに、彼女が暮らして居るであろうその場所は、電気がついている気配はひとつも無かった。
家の前まで、彼女を送ると、「ありがとうございます」と丁寧に御礼を言って彼女は部屋の中に入っていった。
部屋の明かりがつくのを確認してから、僕と母は家に足を向けた。
これから、彼女はたった一人で、眠るんだろう。
朝起きたら、知らない男の人と、母親が一緒に寝ているのを見て、静かにまたあの公園に行くんだ。
じめじめとした空気が、身体にまとわつく。
薄暗い外灯が暗い夜道を照らす中、家に帰る道のりを歩いた。
その間、僕と母は何もしゃべらなかった。
彼女の事を簡単に話すことは、きっと出来ない。
母もそう考えていたんだと思う。
妙に重たい空気が、漂っていた。
僕の家がすぐそこに見えた頃、「かぁちゃん」僕は、母にしゃべりかけた。
なに?と言った感じで、僕の顔をみる。
「かぁちゃんは、僕の事・・・、いらない・・・なんて、思ってないよね?」
僕の言葉をきいて、母は立ち止る。
そして、僕をしっかりと見て「あたりまえでしょう?」そう言いながら、ぐしゃぐしゃと乱暴に頭を撫でた。
彼女の母親も、そう思っていて欲しい。
僕はそう思った。