ジュンスは部屋に帰り、風呂から上がったユチョンに尋ねた。

 

「ねぇユチョン、18でヒートが来てないってどう思う?」

「は?18?そりゃ遅いだろ。なんか問題があるんじゃねーか?誰の事だ?」

「ジェジュンだよ。まだ来てないんだって」

「一回診てもらった方がいいかもしれねーなぁ。連れてってやれよ」

「うん。一緒に行ってくれる?」

「はぁ?何で俺が…」

 

結局ジュンスに押し切られたユチョンが、オメガ専門の病院に連れて行ってくれることになった。

 

「すみませんユチョンさん」

「別に。ジュンスがうるせーから…」

「でもオメガ専門の病院なんてあるんですね。初めて聞きました」

「大抵ここに来るのは、アルファの番になったオメガだ。妊娠や不妊治療で来る人が多い」

 

横で俯いたジュンスの手を、ユチョンがそっと握った。

 

病院に着き、ジェジュンはいくつかの検査を受けた。

診察室に呼ばれ、心配だったので、ジュンスとユチョンも同席した。

 

「ふむ…まだヒートが来てないと。その兆しもありませんか?」

「はぁ…まったくありません」

「精通はありましたか?」

「…せいつう?ってなんですか?」

 

ユチョンとジュンスは顔を見合わせ小声で言った。

 

(おい!どこの妖精だ?ホントに18か?)

(ジェジュン、おばさん達とばかりいるから…)

(お前、弟だと思ってるならちゃんと教えてやれよっ。あの調子じゃ自分でシタ事もないぞ!)

(だぁって…そんな事教えるなんて…無理ィ(/ω\))

 

こまった医者が、う~ん…と言葉を探していると、ユチョンがイライラして言った。

 

「ジェジュン、朝立ちはすんのか?」

「あさだち…。あ、うん…たまに…」

「たまに?精通もしてないのか?精通だよ精通!チ〇コの先から、白いドロッとしたもんが出るだろ?」

「白くてドロッとしたもの…?」

「夢精は?朝起きて、パンツがべっとりってないのかよっ!」

「あ…(赤面)」

 

確かにユチョンが言う「朝パンツがべっとり」に心当たりはあった。

何だろうと思ったが、それより恥ずかしくて誰にも言えなかったし、そもそも洗濯は自分でするから問題はなかった。

 

検査結果が届き、それを見た医者がうぅむ…と唸った。

 

「検査結果が出ました。ジェジュン君の場合この数値が低いですね」

「どういうことですか?」

「確定は出来ませんが…不妊の可能性があると言う事です」

「不妊…って、妊娠できないって事ですか?」

「出来ないと確定したわけではありませんが…。その兆候があると…」

 

ジェジュンはパチパチとまばたきを繰り返していたが、何となく嫌な気持ちになった。

正直、まだ自分が妊娠するなど考えた事はないどころか、恋愛やGをした事すらないのだ。

それでも「出来ない」と言われると、まるで何かが欠けていると言われた気分になった。

 

「ヒートはいずれ来るでしょう。薬などで無理に誘発しないほうがいい。ゆっくり待ちましょう」

「先生…僕には何かが欠如しているのでしょうか…」

 

「オメガでも不妊はあります。女性だから全員が妊娠するわけではないのと同じです。背が高い人と低い人がいる、視力がいい人と悪い人がいる、それぐらい自然な事です。自分に何か足りないなどと思う必要は、全くありませんよ」

 

病院を出ても、ジェジュンは一言も話せなかった。

ジェジュン同様ジュンスも口をつぐんでしまい、重苦しい空気の中ユチョンは車を走らせた。

 

 

 

パソコンを前に、難しい顔をしているユノに、チャンミンが言った。

 

「疲れましたね。ゆず茶でも入れましょうか」

「おう…」

 

煮詰まっているのを察し、さっとお茶を入れて気分転換を促す機転。

さすがユノの第一秘書である。

 

「あ、そうそう聞きましたか?ユチョンがバニラちゃんを連れて病院に行ったそうです」

「どっか悪いのか?」

「まだヒートが来てないそうで。精通を知らなかったと驚いていました」

「ハハハ、アジュマ達とばかりいるからだ。お前、色々教えてやれよ」

「何言ってんですか、お?」

「乳くせぇフェロモンだったからなー。まだガキなんだろ。背は伸びてたみたいだけどな」

 

チャンミンは時々、ユノにバニラちゃんの話をする。

スーパーαであるユノの肩には、国の経済までがかかっており、その重責は計り知れない。

トラブルや、多額の投資問題などで空気が重くなる時、バニラちゃんの話をすると空気が軽くなるのだ。

ユノもあの時の可愛らしいフェロモンの香りを覚えているので、軽口を叩いたり笑顔を見せる。

 

「ハハハ。バニラちゃんは幾つになったんだ?」

「たしか18だと」

「18?18にもなってヒートもまだなのか。赤ちゃんだなぁ。まだあの乳くせぇフェロモンのままかな」

「さぁ。成績は優秀でソウル大も合格圏内だそうです」

「大学は?行く気なのか?」

「一応学費の援助を申し出ましたが、自分で何とかすると。ソウル大なら国立ですから学費も安いですからね」

「学費は心配するなといっておけ。ソウル大じゃなくても出してやる」

「お優しい事で」

「優秀な人材は宝だからな」

 

そこへ内線電話が鳴り、チャンミンが出た。

 

「あぁ…今日でしたか。申し訳ありませんが、当主は今日ひどい風邪を引いておりまして。…えぇそうしていただけるとありがたいです。…はい、伝えます。では…」

 

電話を切るチャンミンに、忌々しい顔を見せるユノ。

 

「またアレか?」

「えぇ青瓦台からの」

「知らん。俺はひどい風邪らしいから、今日はもう休むぞっ!やる気も失せた!クソッ!」プンプン!

「はいはい。私も今日はゆっくりさせてもらいます」

 

数年前から続く、青瓦台からの要請という名の「子供早く作れ」作戦。

若く健康そうな、アルファやオメガの男や女が、月に2~3度送られてくる。

ユノは「俺は種馬か!」と一蹴し、その殆どを、なんだかんだ理由をつけて断っている。

どうしても断れない時は、一度はベッドを共にするが、二度と会う事はない。

そして、ベッドを共にした者が妊娠したという話は聞いていない。

 

執務室に続く、プライベートの部屋に籠ってしまったユノを見て、チャンミンはため息をついた。

 

まぁ…気持ちは分かりますが…この先どうしたもんでしょうねぇ。

チョン家としても、ユノの子供は喉から手が出るほど欲しい所ですが。

まぁ番でも見つけてくれたら、話は早いと思うんですが…。

 

そもそも青瓦台のやり方は、あからさま過ぎます。

国から派遣された人間に子供が出来れば、国がその子を管理できるし、チョン家の財産にも口を出す算段なのでしょうが、あまりにも配慮がない。

そうやって押し付けられるほど、嫌気がさすという感情が理解できないんでしょうか。

おかげで不機嫌になったユノの相手をするのは私だ!あー腹立つ!

 

チャンミンは少し外に出て息抜きをしようと、屋敷の外に出た。

すると、ジェジュンが玄関前で長い棒をエイエイと、揺らしていた。

 

「あ、チャンミンさん、お疲れ様です」

「何をしているんですか?」

「クモの巣取りです。高い窓のクモの巣取りは、アジュマ達には大変だから…」

 

うっすらと汗を滲ませ、髪をクモの巣だらけにして笑うジェジュンは、眩しかった。

 

「あぁ…クモの巣が付いてる」

「あ…ありがとうございます。ユノさんもお出かけですか?」

「社長は風邪を引いて休んでいる。だから私も少し外に出ようかと…」

「え!風邪?大丈夫ですか?」

「問題ない。では、そろそろ行くから」

 

チャンミンを見送った後、ジェジュンは心配になった。

ユノさん、大丈夫かな…。

あ、そうだ!風邪によく効く、ポカポカ蜂蜜レモンを持って行こう!

 

ジェジュンはすぐさま食堂で「ポカポカ蜂蜜レモン」を作り、屋敷に入った。

ユノの執務室に向かいノックをするが、返事がない。

そのまま部屋に入るが誰もいないので、続き部屋の扉をノックした。

 

「なんだ、チャンミン忘れ物か?」

「あ…ユノさん」

 

いつものように元気そうなユノを見て驚いたが、ホッとしたジェジュン。

 

「あ?なんだ?」

「えと…風邪をひいたと聞いて…」

「風邪?…あぁそれは問題ない。風邪もひいてない」

「あ…そう、なんですね。良かった」

 

ジェジュンが大事そうに持っているマグカップを見て、ユノはフッと笑った。

 

「それは?」

「あ、ポカポカ蜂蜜レモンです。ショウガも入ってます^^」

 

なんだそのネーミングは。だがちょっと可愛い。

心から心配して持って来たって顔だ。悪くない。

 

「ポカポカ?あぁ…それを俺に?」

「風邪に効くので…でも、いらないですよね」

「いや、もらおう」

 

ユノが歩いてジェジュンに近づいて来た。

ジェジュンがマグカップを渡そうとした時、ふわりとユノからいい匂いが漂って来た。

 

…ズクン!

 

その瞬間、ジェジュンの視覚は揺れ、下半身に強烈な熱が込み上げた。

 

 

 

 

ズクン…!

 

 

 

※※※

不妊と診断され、よく分からないけれどショックを受けたジェジュン。

ヒートもまだだった初心なベイビーも、スーパーαのユノの香りに誘われて…。

物語も二人の仲も、急発進します。

次回あめ限です♡