月世界都市をつくる1ドーム派〜未知への挑戦 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 「われは月の都の人なり」というかぐや姫のセリフが不思議だという話は、前に書いたことがあります。(かぐや姫考

 

 月の都、つまり月世界都市。

 宇宙旅行が民間でできるようになった現代。

 月に都市ができ、月世界ツアーを旅行会社が企画する時代が、もうそこまで来ています。

 そこで、「未知への挑戦」として、「月で暮らすにはどのような都市をつくったらよいか」というテーマに挑んでもらうことに。

 

 次が、そのプリント。

 原型はかなり前に作り、今まで何度となくやってきたテーマです。(未知への挑戦~月面都市

 

 

 今回は、最後のメモを追加。

 これには、ちょっとした理由があります。

 

 今までの回答で、月から見た地球の動きについて誤解している人が、けっこうな数、いたからです。

 月から地球を見ると、地球から見た月のように「東から出て西に沈む」ようなイメージを持っているんですね。

 

 月から地球を見ると、決して、こんなふうには見えません。

 

 すでに400年前、ケプラーはその著書『夢』で、月から見た地球が上ったり沈んだりしないことを明言しています。(神秘から科学へ・ケプラー『夢』注釈から〜『マンガで冒険』第2話裏話2

 

 「地球から見た月はいつも同じ面しか見えない」ことはみんな知っているのだけれど、それが「月から見たら地球はいつも空の同じ場所に留まっている」というようにならないらしいのです。

 

 これはおそらく、「相対性」という発想を安易に使ったためでしょう。

 「地球からみた月と月から見た地球は相対的な関係にあるから似たような動きをするはずだ」というのは、一見正しそうで、じつは間違っているのです。

 

 未来人であるわれわれがこんなことも誤解したままだと知ったら、ケプラー先生、どんな顔をするでしょうね。

 

 さて、前フリが長かったですが、今回は1年のクラスでチャレンジしてもらった結果を紹介します。

 じつは、今回の「未知への挑戦」は最終講座で行ったため、「質問リレー」のように、他の人の書いた回答を紹介することができません。そのため、この場で、いくつかの回答を紹介することにしました。

 

 力作ぞろいだったので、とても1回では紹介しきれません。何回かにわけて、紹介しましょうか。

 どの回答も、興味深かったり、思いがけない発想だったりの、力作です。(例によって、テニヲハなど、表現上のわかりにくいところは修正しました)

 

【Aさんの回答】

 まず最初に巨大な施設をつくると思います。それは酸素を確保するためです。月には酸素がないですが、生物が生きていく上で酸素は必ず要るので、施設をつくり、O2を確保します。(半径30kmくらいの円形の施設)

 次に月とその施設をくっつけます。月は地球の6分の1の重力なので、施設が飛んでいってしまわないように。

 

 

 次に植物と強い光を放つものを大量に置きます。これは人間が出したCO2をO2に変えるためです。強い光を放つものというのは具体的にはわかりませんが、太陽のかわりになるほどの強い光を放つものがいいです。

 また、その施設には熱や日光を遮断させる機能をつけたいです。月は300℃地殻の寒暖差があるので、とても人間には耐えることができません。なので、この機能をつけたいです。

 また、植物に関してですが、野菜や果物などの、食べることができるものが良いです。食料は自給自足しなければならないので、土に種を植えて強い光を放つものや熱などで、植物を育てて、食べます。

 水に関しては、水素と酸素を合わせれば水になるということで、施設内に水素と酸素を化合して水をつくる所をつくりたいです。

 また、施設内にはショッピングモールや学校、図書館などの施設をつくり、地球とあまり変わらないような感じにしたいです。

 その中には、国や地域といったものがあっても面白いと思います。

 また、月には水素が少ないので、なんらかの形で水素を生み出すような化学技術も必要だと思います。

 こういった施設を何個もつくりたいと思いました。そのためには車のような小型の宇宙船をつくり、それで施設間を往復したり、月と地球間を往復したいです。

 まとめると、巨大な施設の中に地球と同じような環境をつくるということです。

 

【ひろじのつぶやき】

 月世界都市を考える時、「ドーム派」と「地下派」に別れます。

 Aさんは「ドーム派」。図を見ると、都市ドーム全体が、柱によって月面に留められているのがわかります。

 Aさんの「地球と同じような環境をつくる」という発想は、社会学的な発想ですね。月は自然環境が地球とは大きく異なるので、それをそのまま活かすと、地球と同じにはなりません。それをあえて「地球と同じにする」のは、よい発想ですね。実際に月世界都市を作る時に取り入れられそうな発想です。

 「太陽のかわりになる強い光を放つもの」は、具体的な言及がありませんが、それについて具体的な提案をした人もいます。

 

【Bさんの回答】

・月と地球の環境を等しくするため、月を透明な薄い膜で覆う。太陽の光は入るが、空気が逃げないように。

・真空なので、途切れず空気をつくる機械を、いろんな地点に置く。

・水がないのは、つくればいい。雲はつくれるのか? 雲があれば、雨が降って水はたまる。最初はすごく大きな池をつくる。太陽の光で蒸発した水蒸気がたまったら、降らせる。月は膜で覆われているから、水が蒸発して減ることはない。水の量は変わらない。とにかく、循環させる。月のどこにいても、水はじゅうぶんにあるようにしたい。

・昼と夜の時間を調節するため、膜に太陽の光をためたり、さえぎったりできる機能をつける。地球と同じように昼夜12時間ずつくらい。

・15日の昼の間:「昼間」は透明な膜で光をとりこむ。「夜間」は光をさえぎる遮光カーテンみたいなもので光が月に届くのを防ぎつつ、そのカーテンが光を吸収する。

・15日の夜の間:「昼間」は15日の昼の間にためた光を月に向けて放つ。15日の夜でも月は光を得られる。「夜間」は特に何もせず、カーテンからの光の放射を止める。

 

 

 カーテンはその時間になると自動で開く。18:00〜06:00の間。

 

(上図註)

上:膜は透明で丈夫。絶対にこわれない。膜内のものは外にもれない。

中:ここには収納場のせいで光が当たりにくいから、反射板とかを置いて光を屈折させて当てる。

下:光の調節やカーテンの収納場(「昼間」はここに収納される)

 

【ひろじのつぶやき】

 Bさんも「ドーム派」です。月全体を覆うドームというのは壮大ですが、「ドーム派」の半分くらいはこの発想です。

 ドームで覆うことで、水の循環ができるということに気づき、コメントしていますね。

 Bさんは、「昼夜」を調整する「カーテン」の扱いが具体的で細かく、特にすぐれていいます。月の15日の昼、15日の夜の状況と、人工的につくる12時間交代の昼夜との関係を、どう技術的に解決するか、これを具体的に考察したのは、彼女だけです。

 光源として実際の太陽光をうまく使うというのは、将来、月都市がつくられるとき、実際に応用可能ですね。すばらしい。

 

【Cさんの回答】

 まず、月には空気がなく、昼が15日、夜が15日続き、温度も振り幅がとんでもなく大きい、という条件があり、とてもじゃないけど人間が住める環境ではありません。

 なので、月全体を覆うカバーのようなものをつければ、住めるようになると思います。

 空気がないので、そのカバーの中に風船のように空気を入れれば、酸素を吸って生きられます。

 昼が15日、夜15日続くのは、カバーがシャッターのような役割をできるようにすれば、今の人間が慣れている24時間で1日という時の流れがつくれます。(明るさが調節できる)

 また、温度の振り幅の大きさは、カバーの中の空気の温度を調節すれば、温室で野菜を育てるときちょうどよい温度を保つように、人間にとって暮らしやすい温度や、場合によっては四季の気温の変化をつくれると思います。

 水や生物がいないと食料もつくれないので、できるかどうかわかりませんが、水や生物を地球から運搬し、月で繁殖させます。人間はこの地球の条件下だからこそ生きていられると思うので、きっと普通の付きでは生きられません。月に地球をつくることでもできないと、難しいと思います。

 なので、月に人間の住める、生存し生活できる都市をつくるには、月の中に「地球」をつくることが必要だと思います。月を覆い、地球と似た環境をつくる。そうすれば、人間が移住したとしても暮らして言えると思います。

 

【ひろじのつぶやき】

 CさんはBさんと同じ「月全体をドームで覆う」意見です。覆いについての記述はBさんの方が細かいのですが、Cさんは文章の後半で「なぜ月を地球と同じ環境にしなくてはいけないのか」という理由付けを理路整然と行っています。

 Cさんの文章の後半だけを紹介しなかったのは、「質問リレー」や「未知への挑戦」での、1つの法則を見ていただきたかったからです。

 「量が質を生む」というのは、自然科学の「発見」を生む大きな要因です。不思議なもので、たくさん書いているうちに、自分でも最初に思わなかったことに突如気が付き、そこから新しい理論展開ができるようになります。ぼくが、「消しゴムを使わず、とにかくどんどん書いてください」とアドバイスしているのは、これがもっとも大きな理由です。Cさんの文章は、まさにその典型ですね。前半で具体的なことを述べているうちに、なぜ地球と同じ環境にする必要があるのかについての、本質的な考察が始まってしまいました。これこそ、「量が質を生む」典型的な例なのです。

 

【Dさんの回答】

 図のように、大きな町をたくさんつくる。この大きなかたまりは宇宙船のようになっている。また、月にねじのようなものを差し込み、そこから鎖のようなものでその宇宙船につなげる。こうすることによって、宇宙船内は、宇宙服を着なくてすむ。ただし、宇宙船どうしを行き来するときは、宇宙服を着て移動する。

 

 

 宇宙船の入り口は、中と外の空気をわけるため、三重のドアになっている。また、宇宙船の壁はとても分厚く、熱にも強くすることで、月がどんな温度でも、中に入れば安全な状態にする。

 

 

 宇宙船内は、町のようになっており、畑や田んぼなどが存在する。地球に帰って酸素や水を調達する職業の人がいる。もってきた水はきれいにして、100%循環するようになっており、水素と酸素を合成するための工場もある。

 

 

 このように、月の表面で生活するのではなく、月の表面とつながった別の物体で町をつくれば、地球と似たように過ごせるのではないかと思った。

 

【ひろじのつぶやき】

 Dさんは「ドーム派」の変形で、より現実的な発想です。

 月全体をすっぽり覆う巨大スケールのドームというのは、実際には建設が非常に困難です。単独のドーム都市は、古くから未来予想図などで考えられているものですが、これも実際に作るとなると、町に対してドームの大きさが巨大になるため、大規模なドーム建設は難しいと思われます。

 それに対し、Dさんの発想は、大きな宇宙船をそのまま都市として利用し、それぞれを連絡させればよい、という発想です。これは、2つの意味で現実的です。

 1つめは、地球から材料を運んで都市を建設しなくても、宇宙船で月まで行って、そのまま月面につないで都市にしてしまうので、もっとも費用のかからない方法である、ということです。

 2つめは、巨大すぎないスケールであるため、建造が容易である、ということ。

 どちらも、非常に実現性が高いですね。

 思わず、うなってしまいました。

 

【Eくんの回答】

 巨大なドームの町をつくる。

 地球と水や空気を送るパイプラインをつくり、ドーム内に送り込み、空気の圧力で天上を支える。そして、ドーム内の圧力を一定にする。

 

 

 電気はドーム外に、太陽光発電・地熱発電など。ウランがあれば原子力発電する。

 また、月は地球の6分の1の重力なので、地球の町を6倍の高さにする。そのため、広さも2倍ほどに。

 また、月にはオゾン層がなく、直射日光が危ないので、ドームで入る光を少なくする。

 食べ物は動物などをつれていくのは大変なので、基本は米・パン・果物などがメインになる。

 町は月の地球側につくる。使った水はキレイにして繰り返し使う。

 

【ひろじのつぶやき】

 Eくんの回答は、「ドーム派」の標準的なものですが、月が地球に対し、つねに同じ面を向けていることを利用した案を書いてくれました。月と地球を「パイプラインでつなぐ」という発想です。これは、月と地球の相対的な位置関係を利用した発想で、パイプラインの具体的な技術問題は問題が山積みですが、発想としては見事です。

 重力の違いをうまく利用して、「月なら地球の6倍の高さの建物が作れる」と考えたのも、特筆すべき一文です。これ、なかなか気づかないことなんですね。これも、お見事。

 

 

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