
『深淵の花』
この場に立っていられないような怪しさ、怖い空気感である。描かれているすべてがこの世のものでないような異様さであり、調和という点では彩色の寒色系のみで、距離感や奥行きのない平面とも思える拡がりである。
左の山はおぼろ、右の山はつるつる光沢があり急勾配というより絶壁の態である。
画面下は漆黒であり、馬の鈴の花は硬質で明らかに奇体である。それを包む葉は、確かに葉の態をなしているが、取って付けたような不自然さである。
空は不気味に淀んでいるがずっと向こうには光があるらしい、にもかかわらず、馬の鈴には手前からの光が当たっている。
この光景に答えはあるのだろうか。人知の入りこむ隙のない深淵に咲く花。
馬の鈴の口から音が出る、意味に換言しにくい音色、何かを知らせる合図。
険悪、危険、攻撃的な泡。無意味であり責任のない集合体。
この深淵の花は誰の所有だろうか、危険な領域、接近禁止の闇。棘も武器もない、しかし、開いた口がある。
決して垣間見ることの出来ない深淵、奥深くに潜む非情・冷酷な花である。
写真は『マグリット展』図録より