これは亡母のいる景色ではないか。
 彼女が飽かず見つめているであろう劇場(現世)には三人の男らしき人物が見える。(年譜に2人の弟とあり)3人兄弟であると推して図れる。(観客席に夫である父もいるかもしれない)

 長い髪は長い年月であり、彼女はむしろ時間を逆行し、少女になっているように見える。部屋には生活感が皆無であるが、背後のソファには存在感乏しく半分浮いたような二人が見える。男女が融解し合体しているのは、すでに物理界を離れ、精神界に浮上する想念だからである。彼女(亡母)には必ずや彼女の父母が彼女に付いて離れずにいるに違いない。

 彼女(亡母)の背後は果てしなく広く無限であるが、彼女の執着する現世に残してきた息子たち三人を覗き見ることの可能な冥府の桟敷席を離れずにいる。(そうあってほしい)というマグリットの切なる願いの接点でもある。

 血の系譜、血の連鎖、精神界のみで構築されうる『桟敷席』である。


写真は『マグリット展』図録より