『私のためのあなた?』

 奇妙なタイトルである。このタイトルが普通に成立するためには二人の存在が不可欠であるが、これはローズ・セラヴィ用に印刷されたスーツケースのラベルである。ローズ・セラヴィは、私なのか、あなたなのか判別しがたい。
 ?マークが付いている所以なのかもしれないが、個人名を記入すべきラベルに『私のためのあなた?』は不可解である。

 代名詞…言い換えれば『あれのためのそれ』でもよく、抽象的な意味あいが強い。しかし、私という主語は個人を指す。個人の分解はあり得ないが、『フレッシュ・ウィドウ』に見る変身、闇あるいは秘密の次元での《私》は確かに表裏が一体であり(私=あなた)は離れがたく結びついた一人の人間である。
 理解しがたい状況を具体的に表明したラベルは、無意味であるが、意味を所有している。(写真は右下)


 写真は『DUCHAMP』ジャニス・ミンク www.taschen.comより