『巡礼者』

 着衣に帽子、顔のパーツを横にずらし切り離している。
 バックは薄いモーブのベタである。

 着衣と帽子の間には、必ず顔を思い浮かべる。そうあるべき必然だからである。帽子は頭部に着衣は身体につけるものであり、その間には顔が露呈する。物(帽子や着衣)に隠された部分には身体があることは学習されている。

 しかし、帽子と着衣の間に顔があるというのは単に観念にすぎず、顔があるべき位置の横に描かれていることで観念というものが奇妙に打ち砕かれてしまうのである。

 当然という観念めいた自信は、この作品によって滑稽なまでに壊されてしまう。帽子と着衣の間にぴったり納まるであろう顔の部分が外されているという暴挙によって肉体が消失し、顔はお面のような質感すら帯びてくるのである。


 思考はつねに否定と肯定(反問)を繰り返しているが、時を待たずして肯定的な見地に治まる。
 通常、現象を分解し観念の正体を知ろうなどとは考えないが、この作品は思考の巡礼者(旅人)であるマグリットの永遠の課題であり、観念への挑戦である。


(写真は国立新美術館『マグリット』展/図録より)