複数の女に手を出してはいけない。


三角関係を除いては…


現実を掬って、人は成長する。


貴代美ちゃんは小柄な人で、わざと所帯染みた風情を出したがる狡賢さがあった。干し芋を男たちに配り、難なく釣り上げボーイ・ハントする。


由季ちゃんは背が高く、聡明で、一重瞼の人だった。勉強熱心で、誠実、それだけに夢見がちで不器用だった。


貴代美ちゃんと由季ちゃんは、いつも腕を組み歩いてた。男の中には「あれは、レズの関係なんだ」と知ったようなことを言う者もいた。


由季ちゃんは純真。

貴代美ちゃんは狡猾。


そして貴代美ちゃんは、男にモテた。


私は小説を書き上げて、二人に手渡した。


貴代美ちゃんは読んだ後、黙って様子を見る。

由季ちゃんは読んで激怒し「こんな小説書く人なんて、顔も見たくない!」吐き捨てた。


由季ちゃんは、小説の中の登場人物に嫉妬したのだ。その人物は、貴代美ちゃんに似ていた。そして、貴代美ちゃんにも我慢ならなくなってしまう。


ところが由季ちゃんの怒りの失言で、作者は遠くに離れていた。作者の男は甚だ恐怖を感じた。由季ちゃんは、取り返しのつかないことをしたのだった。親友の貴代美ちゃんも、自分から離れていた。


由季ちゃんは、父親とも衝突し、唯一の理解者だった姉ともぶつかった。


孤立無縁の由季ちゃんに、祐子ちゃんも冷たくあしらう。祐子ちゃんはしたたかで、ご自分の美貌を熟知しており、作家志望の青年に飢えていた。「チョロいものよ」祐子ちゃんは、笑った。


由季ちゃんは、共産党を支持していた。熱心な左翼。作家志望の男はそれを評価していた。なのに由季ちゃん、焦りに焦って、金持ち支持に変更した。すると作家志望の男は、嬉しがるより悲しんだ。由季ちゃんの不器用な生一本が好きだったから。


こんな風に、由季ちゃんは誤解にまた誤解を生んだ。


夏休みが終わると、祐子ちゃんが笑って言う「由季ちゃんはね、新潟へ行くというの。見合いして、お嫁に行くのよ。ねー、嬉しいニュースだと思わない?」作家志望の男は、その瞬間、祐子ちゃんの頬を叩いてやりたいくらいだった。いくらなんでも、由季ちゃんに対してひどい侮辱だったから。


気づけば、由季ちゃんと貴代美ちゃんと作家志望の男との三角関係は終わってた。バラバラになってしまった。


終わってみれば、由季ちゃんの不器用な純真だけが、際立って印象となる。あの時…由季ちゃんが左翼のままならば。彼女としては、金持ち支持に転じることで、作家志望の男へ気遣いとしたつもりだった。それが裏目に出てしまう。


由季ちゃん…一重瞼の彼女はお嫁に行って、もういない。


バカだよ…


作家志望の男は、誰に言うでもなく、独りごちた。