【クラブ経営の極意とは】FCバルセロナ・ソリアーノ元副会長に聞く~09.12.11.付日経朝刊 | Field of Dreams

【クラブ経営の極意とは】FCバルセロナ・ソリアーノ元副会長に聞く~09.12.11.付日経朝刊

メッシ、イニエスタらを擁し、昨季の欧州チャンピオンズリーグを制したスペインリーグのFCバルセロナは世界のサッカーファンを魅了している。この古豪の経営面を刷新し、黄金期を築いた1人がフェラン・ソリアーノ元副会長(42)。現在は航空会社の会長を務める同氏に、プロサッカークラブの経営の極意を語ってもらった。

-2003年の副会長就任時にクラブの経営は旧態依然としたものだったそうだが、どこから改革に着手したのか。

「サッカークラブにとってのいい商品とはいいチームであり、いいプレーであり、勝利です。03年の時点でバルセロナはいい商品を持っていなかった。いまは派手に宣伝すれば何でも売れるという時代ではない。消費者は本当にいいものにしか手を出さない。だから、我々はいい商品をつくることに注力した」

「もう一つはプロの経営を徹底すること。サッカーのクラブ関係者はよく『この業界は特別、他の業界の常識は当てはまらない』というが、そんなことはない。サッカー業界でも経営の常識を持つことが大切で、財務やマーケティングはその道のプロが行うべきだ。だから経営陣の半分はサッカー界について深い知識を持った人、残り半分は銀行など他業種から呼んだ

-サッカークラブの経営は勝敗に左右される。変動要因が大きい中で経営を安定させるのは難しい。

「この世界では毎年勝者になるのは不可能。勝つ者がいれば負ける者がいる。その中でどこまで成功とみなすか、クラブで定義づける必要がある。5年ほどのスタンスで物事を見るべきで、5年間に2度優勝できればいいのではないか

大切なのは、感情に任せた判断をしてはいけないということ。負けた直後にした決断は最悪であることが多い。試合に負けた晩に監督を解雇するということがあってはならない。それではプロの経営と言えない。四半期決算の数字が悪いからと言って、その晩に責任者を解雇する企業があるでしょうか」

-いいチームをつくるため、いい選手を獲得しなければならないが、それには資金がいる。

「チームのベースを下部組織出身選手で固めて、そこに数人の国際的スターを組み入れるのが理想。バルセロナは若年層の育成・強化に力を入れている。育成システムの充実は経営面でのプラスを生む。大物選手を獲得するには1000万~2000万ユーロも掛かるが、自前で育てれば一人、200万ユーロで済む

「育成に力を入れれば、自分たちが欲しいタイプの選手が手にできる。バルセロナでは5歳のチームもトップチームと同じ戦術、スタイルでプレーしている。下部組織のコーチが力を入れるべきなのは、勝利の追求ではなく、選手にトップチームと同じプレースタイルを身につけさせること」

-欧州のサッカービジネスでは、クラブでなく選手が最も大きな富を手にする。

「サッカーは雇われた者が大金を手にし、雇う側がもうからない業界。映画業界の人から『我々もそうだ』と聞いた。映画がヒットする、しないにかかわらず大物俳優は大金を手にする。まあ、選手はサッカー界に欠かせない存在なのだから、その人件費の比重が高くなるのは仕方がない。しかし、クラブの収入の50%を超えてはいけない

(聞き手は吉田誠一)
Field of Dreams-フェラン・ソリアーノ氏

フェラン・ソリアーノ 1967年、バルセロナ生まれ。欧州、米国の電気通信業界、エンターテイメント業界などで活躍。2003年~08年にFCバルセロナの副会長を務め、経営面の改革を進めた。その経験を著書『ゴールは偶然の産物ではない』(アチーブメント出版)につづった。現在はスペイン2位の航空会社、スパンエアの会長。
Field of Dreams-フェラン・ソリアーノ氏の著書