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 神様はいるのです。
ここにいるのです。


18.信△神


 自律思考型戦闘用人型ロボット「サイクローン」3台は、部屋の隅でのびている。
少しばかり頑丈ではあったが、人型サイズに収まる程度の中枢神経ではまだまだ人間の動きには付いてこれないようだ。
大きな机を挟んで父は訝しい表情を浮かべている。
背後では女の格好をしたナギがすごいすごいと手を叩いている。

 ずっと違和感を感じている。
この部屋に入った時かあるいは本社ビルに入ってからか、いやもっと前からだった気がする。
支配の力を手に入れたあの日から常に背後に感じてきたじっとりとした視線とも違う。
何かがおかしい。
「トムすごーい! 3対1だったのに圧倒的じゃない」
俺の思考を制止させるナギの言葉がうざい。
思わずナギを突き飛ばす。
するとナギはきゃっと小さく漏らし、スカートをなびかせながら床にしりもちをついてしまった。
違和感が膨らんだ。
いつもと違う?
言葉にし難い感情が浮かんでくる。
「いったぁーい。なにするのよトムー」
お尻をさすりながらナギが起き上がり、上目遣いで訴えてくる。
その言葉がまたしても俺の思考を中断させる。
うるさい。
「俺の前で、その気持ち悪い喋り方をやめろナギ!」
そう言ってナギの胸板をドンと押したとき、違和感が膨張した。

 膨らんでいた。胸の辺りだけがぽよんと。
ナギが女に変身する過程は見てきたが、シリコンやジョークグッズを使用する場面なんて一度だって無かった。
では今の感触は何だ?

 俺は、笑わずにはいられなかった。
この緊迫の場面でナギの胸が人並みに膨らんでいることに驚きと戸惑いと怒り、そして弟として恥辱を感じずにはいられなかった。
ついに女として生きることを心から選んだというわけなのか!?
だけどその決心を固めるのがよりにもよってこんな大事な日でなくてもよかっただろうに。


「ナギは死んだ。
今そこにいるのはアイ・グローブマン。お前の姉だ」
見れば父、タイフーン・グローブマンが真面目な顔で何か喋っている。
俺は真剣な顔をするのも忘れ横腹を押さえて耐えていた。

「ナギが死んだ? 俺にはアイという名の姉がいる?
そんなことは分かっている。
『アイ』はナギが作り出した架空のキャラクター。
それを演じている間はナギは俺の姉ということになるってことぐらい」
「分かっておらんな。
アイの体を触って実感しただろう。
その者は間違うこと無きアイ・グローブマン本人。
ナギの変装などではない。
もっともナギはあの日、リンドバーグの娘に刺されて死んでいるのだ。
この場に存在できるはずがなかろう」

 先ほどは兄に笑わせていただいた。
今度は父が何を言ってるのか分からない。
ナギが俺の姉として生まれ変わったことは父も了承済みのはずだぞ。
笑いの余韻も吹っ飛び捲くし立てる。
「ふざけるな。アイという人間は存在しない。俺に姉なんていない」
「いるんだよトム」

 呆気に取られていると、足元がぐらつく感覚に襲われた。
足元を見たが当然何があるわけでもなく、すると今度は眩暈。
その次は頭がズキンズキン痛み出してきた。
さっきまでナギの声で邪魔をされてきたのに、今度は意志に関係なく自然と脳内で思考が展開される!
『ナギは死んだ
病院で刺されてその日の内に死んだ
見舞いに駆けつけた時にはもう息を引き取っていた
その日の夜ナギの家を訪れて片付けをして翌日からは通夜に葬式に大忙しで学校にも行けなかった
ナギは死んだ
ナギは死んだ
刺されてその日の内にナギは死んだ』

 やめろ、ナギは生きてる!

『アイという姉がいた
小さい頃はいつも一緒だった
お姉ちゃんと結婚すると言った
犬に吼えられて泣きべそをかいた時にアイに励まされてそのときに強くなりたいと決意した
姉がいた
姉がいた
いつも一緒にいた姉がいた』
違う! やめろナギは死んだ姉がいたナギは死んだ姉がいた
ナギって誰だ姉の名前はアイ
ナギって誰だ姉の名前はアイ
姉の名前はアイ
姉の名前はアイ
姉の名前はアイ
姉の名前はアイ
姉の名前はアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイああああ!!!アイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイアイ



 誰もいない部屋に、私一人。
トムはまだ帰ってこないです。

To be continued…