俺は、そのとき教頭と会ったことを香子に話さなかった。俺は、自分が今回は積極的過ぎることに違和感を覚えていた。だからこの先は、俺が今までやってきたやり方を保っていこうと思った。つまり、死者に頼まれたら、死体を見つけてやったり所在を知らせてやったりする。でも、誰かの犯罪を暴いたりはしない。

教頭の話が本当かなんて、確認しない。

11月に入ってすぐ、旧体育館の土台のコンクリートがはがされた。小林の遺体が発見され、大騒ぎになった。しかし、ほぼ白骨化していたため、死因は頭蓋骨に陥没があるのでおそらく脳挫傷であること、その遺体が着衣や持ち物で小林であることがわかったのみで、誰が殺害したかなどはまったく手がかりもなかった。その上、小林の両親はすでに亡くなっていて、兄弟もいなかったために、叔父だという人に遺骨が引き取られて尻すぼみに終わった。

俺は何も言わなかった。普通の反応をした。当時の友人だったと名乗り出た教頭が、しかし、当夜学校にいたことはいわなかったことにも何もいわなかった。

香子は、俺と一緒に教室の壁を元通りにしただけで、何か言いたそうだったが、何も言わなかった。香子は、このことについては、言いたそうにしているが黙っていることが多い。俺のやり方をはじめてみて、どう思っただろうか。

そう思っていたところ、12月に入ってすぐ、小林に会った。はじめて立っている姿を見た。市原は居なかった。俺は少し考えて、市原も出てくるはずだと思った。走り出す前に止めよう、と思って、小林を差し招いて、もと渡り廊下のあったところに連れて行った。言葉には出さなかったが、小林はわかったようだ。多分、小林は、市原を止めるために出てきたのだろう。

案の定、10分ほど待っただけで、市原が走り出してきた。俺が市原に声をかけるよりも早く、小林が腕を広げて市原に通せんぼをした。小林が躍り出た瞬間、市原が立ちすくんだ。

市原には、俺は見えていなかったようだったが、小林は見えたのだ。そしてわれに返ったように、俺を見た。俺は、結局いなくてもよかったんだなとため息をつき、手を振ってそこから離れた。後ろから、二人がじっと見ているのがわかったが、振り返らなかった。

俺は無力だな、と思った。中途半端だな、と思った。

もうやめよう、と決めた。

そして顔を上げた。

道の向こうに古臭いツーピースを来た女の人が見えた。何事もなかったように、俺はその横を前だけ向いて通り過ぎた。